第25話 山へ進め 11

「……ありがとうな……〇〇……」


師匠じじい!何でだよ!……俺はこんなつもりじゃ無かったのに。」


「……泣くな〇〇……覚えて置け……これが悪鬼に囚われた者の宿命だ」


「でも……」


「……これで風に乗って……神の御許へ行ける…………ありがとうな………………」













「……大魔王………………ん?……」


…………ここは?……魔王は?……逃げなければ……?……いや、私を護ろうとしてくれていた。


……あ!カーラは!……無事なのか!……ってあんなのに魔王が負ける筈がないか。と言うよりも、ここは一体何処なんだ?


 薄暗い辺りを見廻すと、先程まで居た山小屋の倍ぐらいの広さで、磨かれた木材の壁。

 一面いっぱいの引き戸は閉められているが、格子状の木枠に薄い紙が貼られているだけのせいか、外光がほのかに透けている。開けてみると部屋が少しだけ明るくなった。

 空には丸い月。細かい石を敷き詰められた地面に、岩や木々が何とも絶妙に配置され、それらが月明かりに照らされて幻想的に美しかった。


……あ!この床はタタミじゃないか。どおりで寝心地が良かった訳だ。


 神殿に呼ばれてもてなされたときに、このタタミの匂いと感触が気に入った。後でアラゴン侯爵に何とか取り寄せて貰って、やっと一枚だけ手に入れた貴重品。それが何と床一面に。

 

……これを前にしては、どうしてもやらねばならない事があるぞ!


「……ゴロリゴロリン……この触り心地に!……ゴロリンゴロン……この良い匂い!……天国だぞ!…………ん?何だこの紙は」




……おせんべいだと!……何処だ?


 一面いっぱいに月明かりが透ける引き戸の対面。つまり部屋の奥には山の様な絵が描かれていて、目を凝らせば窪んだ取っ手がついていた。どうやら厚紙で出来た引き戸らしい。

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