第16話 山へ進め 2

「……よいしょ……ザクッ……こらしょ……ザクッ……」


 悩みがあるとき。思い出したくない事があるとき。ふさぎ込んで考え込むよりも一所懸命に何でもいいから仕事をするのが、何よりも一番いい。


「……えい……ザクッ……えいっ……ザクッ……さあっ……ザクッ……」


 こうして畑仕事でもしていれば、あの恐ろしい魔王の顔にだって、想像で落書きをして仕返しをしてやれるのさ。


「ばつかいて……ザクッ……ひげかいて……ザクッ……鼻もやしてやろう……ザクッ……」


 何でこの私が山に隠れて畑なんかやってるんだ。……おのれ魔王!


「くたばれ魔王!……ザクッ……くそばばあ!……ザクッ……年増の若作り!……ザクッ……と今日はこんなところかな」


 千年以上も生きている古龍である私は、今の姿の様に人間に変化へんげする力があるんだぞ。アラゴン侯爵家に部屋を持ってて、ポコちゃんと呼ばれて可愛がられていたんだぞ。それなのにあの魔王。私が醜いから要らんだと?お前なんか実は妖怪ババアかゴブリンオークオーガサイプロクスクイーンが美女に変化してるんじゃないのか?


 私は元から荒事が嫌いだ。屋敷に住んでいるだけでいいからと過ごさせて貰っていたんだが、侯爵が何代か替わるうちにいつの間にやら守護神なんて呼ばれて私自身も天狗になってしまっていた。

 まさか魔王がやって来るなんて思いもよらなかった。しかも昔に謁見した事のある魔王様の数百倍どころか魔力の底も分からない強大さ。奴が言ってた通りに本当にが魔王を兼ねてやってるのかもしれない。ああ恐ろしい。


……考えるのやめた。芋でも食って寝よう。

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