第6話憧れの主役
皆に台本が配られ、愛美はそれを愛おしそうに見つめているのを、周りは妬みの視線を投げつけていた。
愛美には、そんな鋭い視線すら感じないほど、悦びに浸っていた。
憧れの舞台に立てること、それも主役でプロの脚本家が書き下ろした脚本だ。
こんなチャンスプロになるまで二度とない。
優香にもいい報告ができる。
「さあ、じゃあ、選ばれたキャストの皆さんは夏目さんについていって、読み合わせしましょう。他の人たちは衣装や小道具の係を決めようと思います」
担任の声に選ばれた生徒たちは高揚した声で返事をした。
昼休みになると、愛美は決まって校庭内にあるチャペルで一人ご飯を食べていた。すると、扉が開き、夏目がはいってきた。
「愛美ちゃん、やっぱりここにいたんだね」
「夏目さん、今日はまだ帰られていなかったんですね」
夏目は愛美がここでご飯を食べていることを知っていて、よく、講師でくるとき午後からの授業前は会いにきてくれることがよくあった。
でも、今日のように午前中授業のときは、すぐに帰って行ってしまう。
「ちょっと、愛美ちゃんと話したくてね。不思議なやつでしょ?マッド」
夏目の口からマッドの名が言われた時、愛美の胸がときめいた。
あの無機質な瞳。冷たく感じたはずなのに、胸の奥に熱を宿している。
あの瞳に、懐かしさなんてないのに、初めて見た気がしないなんて言ったら、おかしな人に思われてしまうだろう。
初めての感覚に、愛美は戸惑いながら、名のない感覚に気づかないふりをした。
「マッドさんは、存在感がある方ですよね。さすが、本物の役者さんって感じで」
愛美は言葉を選びながら話した。
周りを圧倒させる存在感。あのあとも、生徒たちはマッドへの好意の言葉が飛び交っていた。
「そうだね、彼は魅力的な人材だよ。僕の作品に主役で出てくれることは珍しいんだ。海外で活躍していてね、やっと日本でも仕事する気になってくれて」
「そうなんですか?海外で活躍されていたなんて…そんなマッドさんの相手が自分が務まるのか少し不安です。こんな平凡な私が彼の相手で、本当に引き立つのかなって」
愛美は自信喪失したように、俯いた。そんな愛美の肩に夏目は優しく手を乗せた。
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