エピローグ

「一体どういうことなんです⁉︎ エスメラルダはどこですか⁉︎ 話が違いますよ‼︎」


 今回の依頼人、七篠の怒声が広くもない事務所に響き渡った。


「それはこちらのセリフですよ。七篠さん」

「 ⁉︎ 」

「私の仕事はTNKのハント。逃げたTNKを追う依頼を請け負った」

「だから私はその依頼を……‼︎」

「ウソですね」

 俺は応接スペースのローテーブルにビニール袋に納まったハンカチを置いた。

「こ、これがなんだと言うんです⁉︎」

「リンガ」

「くんくんくんくん……」

 今日は女の姿のリンガが真面目そのものの顔で、だが鼻だけはひくひく動かしながら現れた。

「ピンポンピンポン! この匂いはこの人のものですね」

「私の助手です。彼女は犬並みに鼻が効きましてね」

「それがなんだと言うんです! 私が持ってきたんだから私の匂いがするのは当たり前じゃないか!」

「全てが逆、なんですよね? 七篠さん」

「逆?」

「入って」

 俺の合図で赤いワンピースの少女が入室する。

「あ⁉︎」

「ピンポンピンポン! この子からも同じ匂いがします」

 人差し指をピン!と立てた真顔のリンガが宣言した。

「しかしこの子はTNKではない。ではハントされるべきTNKは誰か」

 リンガは一瞬で剣に変わり俺の右手に納まる。

「それはあなただ。七篠ディック。いや──」

 俺は手首でくるりと刃を返すと、切先を依頼人の鼻先に突きつけた。

「──エスメラルダ」

「くっ……!」

「逃げたのはTNKじゃない。その持ち主の方だった。今回の依頼は……持ち主の少女を探す、TNKからの依頼だった」

「……いつからです? 私をTNKかも知れないと疑いを持ったのは」

「違和感を覚えたのは依頼の時です」

「依頼の……最初に会った時?」

「あなたはTNKの捕獲に条件を出した」

「……あまり痛め付けないように」

「そうです。しかしそうではなかった」

「 ? 」

「あまり痛く、とあなたは言いかけた。言わなかったその続きは?」

「……」

「あまり痛くしないでほしい。それはTNK自身の立場からの言葉です」

「あなたには最初から──」

 ばさっ、と七篠の髪の毛が伸びて唇に赤みが差した。

「──真実を話して助けを求めるべきだったわね」


 世界唯一の女の子のTNKは、そう言って微笑んだ。


*** 了 ***

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TNKハンター 木船田ヒロマル @hiromaru712

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