1-17 俺を殺す気か


ラティがエレン・アシュレイと続けて戦い、これでエレンとルークが戦えば全ての試合が終わる。






今、ルークの目の前にはエレンがいる。

同じ四聖星候補のラティとアシュレイとの試合に瞬きする間に決着をつけたバケモノだ。



淡い水色のワンピースに身を包み、ツインテールの結び目には水色のリボン、胸には青色のネックレス、そして靴は編み込みショートブーツ。



見た目だけだと儚くすぐに消えてしまうような透明感をまとっているが、何十人も打ち負かした実力を持っているのは事実である。






魔術師同士すれ違うとある程度、相手の魔力を計り知ることが出来るが、目の前のエレンからは魔力が感じられなかった。



「何故だ、隠しているのか」


四聖星候補なら持っている魔力のオーラを完全に隠すことは難しい。

それなのにこの女はまるで植物や幽霊の様に気配が無かった。


ルークは顔をしかめたが、パンッと頬を両手で叩き戦闘態勢に入った。


───油断禁物だ。







試合開始のブザーが鳴る。エレンは無表情で棒立ちしたままだった。何を考えているのか読み取れない。


───奇妙なヤツだな


と思ったら急に火の玉がヒュン…と加速しながらルークに迫ってきた。

ルークは首をくいっと曲げ避けた。


エレンが続けざまに緑術を使い彼の身体を絡めようとつるを伸ばしてくる。

ルークも同じく緑術を使い、その蔓を弾こうとした。


「っ!?」


エレンの操る蔓は太く頑丈で、弾こうとしてもびくともしなかった。


エレンとルークの蔓が触れ合った瞬間に彼女の蔓が緑色から禍々しい赤色と青色に変わりルークの出す蔓を無惨にブチブチと引きちぎって彼の首に巻きついた。


「うっ…!!」


ぎちぎち音を立てながら蔓はルークの身体を固定し雁字搦がんじがらめにしていく。


「俺っを、殺す気かっ……!」





息が苦しくなり、エレンを見ると彼女は涙を浮かべ苦しそうな顔をしていた。


その時ルークの脳に直接訴えかけるように声が聞こえた。



───助けて……



彼女の手元を見ると緑術を操っているエレンの手のひらからは爪が食い込み血が出ていた。


───まさか、魔力が暴走して自分でコントロール出来なくなっているのか!?




ルークが長い睫毛まつげ紫色アメジストの瞳を見開いてエレンを凝視した。


ふんっと彼は己の蔓に力を込めて、やっとエレンの蔓をちぎった。



「ハァ…ハァ…」


と肩を上下させるルークの体調を考慮する事も無くエレンが大きな火の玉を立て続けに繰り出した。


ルークはすかさず水の玉で対抗したが、エレンとルークの力の差は比べ物にもならなかった。


特に大きい二つの火と水の玉は衝突した瞬間巨大な渦となり弾け、竜巻のような強い突風が吹き荒れた。



ルークは素早くバリアを張ったがすぐにパリンッと音を立て割れてしまった。

ルークは為す術なく勢いよく観客席の後ろの壁に背を打ち付けた。





観客席にいた幼児は突然の大きな音に驚いて大泣きし始めた。

観客はエレンとルークを交互に見て「凄い威力……!」とざわめいた。



「ゔぅ」


幸い骨は折れてはいないが折れたと思うくらいに背中に激痛が走る。

ルークはどうにか痛みを堪えて壁を蹴って宙に浮く。


エレンの黒い瞳がこちらを向き、雷を飛ばしてくる。

ルークは守術を使うがエレンの雷はルークの守術をも突き通した。





ルークの体に電撃が走り、弱っていた彼の動きを完全に封じそのまま彼は地面に叩きつけられた。

起き上がりたいけれど体が麻痺して動かない。




五秒経って試合終了のブザーが鳴る。


一位になると思ったのに初めて負けた。


しかも女の魔術師に。






ルークはショックを隠しきれず、じわじわと悔しさが込み上げてくる。

まだ満足に息も吸えないまま係の人が毛布をルークに巻き付け立たせる。




「はぁっ」


悔しさを紛らわすかのように彼が意識的に息を吸うのと同時に長い睫毛まつげをなぞるように一粒の涙がぽたりとこぼれ落ちた。

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