1-15 ジャンピング土下座
「最後の水術の技、すっげぇかっこよかったぜ??」
「ありがと」
と変わらない口調でルークは応じた。
ラティが手をグーの形にし、ルークの目の前に突き出す。
「オレはラティ・クラージュ。ラティって呼んでくれ!!」
……きっとこれが彼なりの自己紹介なのだろう。
「俺はルーク・フォルス。多分お前より年上だと思う」
ルークは淡々と言い、ラティとグータッチをした。
「えっ何年?」とラティが聞く。
「中三」とルーク。
「オレは中学一年……なんか、タメ口で話してごめん」
とラティが謝ったが、数秒後、
「…ちょっと早く生まれただけで数歳の違いなんてそんな変わらなくね?」
とラティが手を顎に当てて考えるポーズをしながら言った。
開き直ったなコイツとルークは思った。
その時、斜め上に設置されたモニターから歓声が上がった。
モニターを観ると、ピンク髪の女──エレンと、ラティとさっき話していた黒髪のベビーフェイス男の試合が今始まったところだった。
ピンク髪の女───エレンが黒髪男に炎の魔法を使った。黒い髪の男は風術を使い、炎ごとエレンに押し返す。
ラティは試合をモニター越しに観戦しながら、
「あの黒い髪で背がオレより高い人はアシュレイ・トーネソルっていう名前なんだってさ。
植物と風が操れて、しかも人の考えてる事が分かっちゃうらしいぜ!
まだ待機所にたくさん人がいた時にオレがアシュレイに話しかけて雑談してたらアシュレイが『心を読める』事を知ってさ、実際に試して貰ったんだよ。
そしたらさ、ぜ〜んぶ当たっててさ、凄かったんだぜ!」
と、目をキラキラさせて言った。
ルークは落ち着いた口調で
「俺、まだアシュレイと戦ってないけどそれ、ネタバレだよね。向こう困ると思うけど」
といつもよりも低い声で溜息混じりに言った。
「え何が?」とラティ。
「心を読めるってことは相手が出そうとしている術を察するのと同じ。戦う前に知ったら俺は意識に反して戦って向こうを不利にすることも出来る。
まぁ、思想を読み取るのか、神経の信号を読み取るのかで戦い方は変わってくるけど。
それにしても使える術の種類まで言うのは
とルークは冷たい目で表情を変えずにからかい口調で言った。
「……」
ラティは目を見開き、今やっと自分がやらかした事に気付いたらしい。
「うわ~!!」
と言いながら頭を抱え、”明日この惑星は滅亡する”とでも言われたかのような勢いでドタドタ走り回っている。
「アホか…お前…」
とルークが呆れ顔で呟くとラティが自分に向かってジャンプしてきた、と思ったらそのまま空中で土下座をし、そのポーズのまま着地した。
勢いよく着地したので床に頭をぶつけてゴンッという鈍い音が響く。
ルークは表情をあまり変えていないが、正直ラティの謎めいた行為にドン引きしていた。
「ルーク様、さっきのオレの言葉をお忘れなさって下さい」
とラティが言う。
会社の上司にこんな謝り方したら即クビになると思うけど。
その時、待機所のドアをコンコンと叩く音がした。
「失礼します」
係の人だった。
係の人がドアを開けるも、目の前でラティがルークに土下座しているものだから
「あの、え~っと…」
と二人に掛ける言葉が見つからずしどろもどろになっていた。
すると、係の人の後ろから中の様子を見ようと、さっき会場で戦っていたアシュレイがひょっこり顔を出した。
ラティの姿を見るなり、眉間に
「ラティ、何してるの」
と言った。
「あ、えーっと貴方の超能力についてルークさんに話してしまいまして…えへへ」
とラティが言い終わる前に、
「ちょっと後で話をしようか」
とアシュレイが言葉を遮った。
アシュレイの顔は笑ってはいるものの目が全然笑っていなかった。
──怖っ──
「それにしても、今回の四聖星、全員異能持ちって奇跡中の奇跡…」とルークが呟く。
エレンは『具現化』、ルークは『透視』、ラティは『瞬足』、アシュレイは『読心』…
ルークの呟きにアシュレイが食いつく。
「エレンも異能持ちなの?試合中は魔力差で瞬殺されたから分からなかったけど…」
女の子のような少し高い声でアシュレイが言う。
「ラティがエレンとまだ戦ってないから言えないけど、バケモノだよ」とルーク。
「バケモノ…」ラティがゴクリと唾を飲んだ。
「あのっ、次の試合、フォルスさんとトーネソルさんなので準備お願いします」
アシュレイとラティの間に挟まれている可哀想な係の人が声を絞り出して言う。
「了解です」とルークはアシュレイを横目に部屋を出た。
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