1-13 電撃の瞬足


アイツはバケモノ───



そんな事を考えていたら自分の名を呼ばれた。

「フォルスさん、出番ですよ!」

「え?あぁはい」


慌てて本をバッグにしまい、顔を上げた。

「えっ」


三十人くらいいたこの部屋に、今は俺を含めて二人の参加者しか居ない。




「他の人は??」


と係の人に尋ねると


「オラージュさんは闘技場のフィールドで準備してますけど、今ここにいるフォルスさんとトーネソルさん以外の待機所Cにいた方は全員敗退しました。

残ってるのは、今言った三人と、待機所Aにいるシャルムさんですね」


といった返事が帰ってきた。



「特にシャルムさん...ピンク色の髪の女の人、試合を終わらせるのが早くて早くて。秒で毎回決着がついてますね...」


係の人が苦笑しながら言った。

ルークは顔をしかめて怪訝けげんそうに、

「そうですか...」という一言を口から出すだけで精一杯だった。








今闘技場の中、ルークの前にいるのは、先程ピンク色の髪の女のことを褒めていた黄色い髪の背の小さい男子だった。



連勝しているのはルークを含めて丁度四人。

皆シエルになるのは確定であり、あとは何処の守り神になるかの順位を決めるだけ。


黄髪で寝癖がそのままなボサボサ頭の容姿を持つその相手は『ラティ・オラージュ』という名前らしい。

手をグルグル回したりと、簡単な準備体操をしている。


試合開始の合図が始まるまでじっとラティを見ていたらラティと目が合った。

そのチビははにかんで笑った。

ルークは何も見なかったように目をらした。






試合開始を知らせるブザーが鳴り、ルークは気を引き締め直した。


まず緑術りょくじゅつを使ってみる。


ルークの手の動きと一緒にラティの足元からつるが何本も伸び、ラティの足を絡めようとしていると、ラティはそれを特徴のあるステップで次々と避けていた。



ルークはその様子を観察するように見つめ、彼の脳内辞書のページがパラパラとめくられた。

右に左に、たまにくるりと一回転して避けるステップはサッカーのドリブルの動きと同じだった。


ルークはタイミングを見計らってラティが右に避けると同時にそのチビの足元に火の玉を放った。

「うぉっあっぶね」

ラティはバク転をして避けた。

彼は着地と同時にルークの方を見るとニヤッと口角を上げた。



警戒を強めると同時にルークの足元に小さな稲妻が足の周りでバチバチと音を立てながら地面を走った。


ラティが右手をぐいっと後ろに引く仕草をすると、ルークの頭上に灰色の雨雲ができ、足元にいた小さな稲妻はゴロゴロと鳴りながら頭上の雨雲に吸い寄せられた。


雷雲から分かれた黄色に光る線はバキバキと音をたて天井をった。







それは一瞬の出来事だった。



ルークが素早く守術を使ってバリアを張った途端に、枝分かれした稲妻は闘技場のフィールド全体に、数千本の光の矢となって



「ドシャァァァァァァァァァァァァン!!」



と激しい音と共に落ちた。



ルークが瞬きを一回した間に、守術を使った範囲以外の地面が真っ黒焦げになっていて煙をあげていた。


ルークがあと一歩守術を使うのが遅ければ、髪は散り散りのアフロ頭になっていたかもしれない。

凄い雷の威力にルークはごくりと唾を飲んだ。これが四聖星のレベル...。




凄いだろとでも言いたげなラティの笑顔を無視してルークは続けざまに雪術を放つ。


ラティの足元に次々と氷山のような氷の尖った塊が地中からズドンズドンと音を立てラティを串刺しにしようとしている。


ルークは右手で氷山を操りながら、左手を降ろしラティの頭上から氷の塊をいくつも落としていった。


ラティも避けながらいくつか炎の塊をこちらに投げてきたのでルークはそれを軽い身のこなしで避けて行った。


この大量の塊は避けられないだろうとルークは思ったが、ラティの履くスニーカーがグッと地面を一蹴りすると彼は稲妻のような速さで氷をかわしながらこちらに近づいてきた。


目にも止まらぬ速さで最早もはや竜巻のようだった。




ルークが瞬き一回する内にフッと風が吹いたと思ったら、さっきまで20メートル以上は離れていたであろうラティがルークの真横に居た。


「!?」


ルークが横に目を動かした時、


「オレの勝ちだね」



ルークの耳元でラティが指をパチンと鳴らした。

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