第5話「昨日6時間しか寝れなかった」

「で、どういうことなんだよ」



 次の休み時間、彼女と二人で陽キャグループに囲まれ尋問の始まりだ。

 しかし彼女は凛として答える。



「あたしたち、付き合うことにした」


「マジで? このオタクと?」


「うん。あとさ、みんなごめん! あたし自身オタクなの隠してた!」



 頭を下げ、スパっと謝る彼女。



「実はシカ娘の大ファンで、写真のこともほんとで、こいつと一緒にイベントに行ってたんだ。でもあたし自身オタクだなんてわかったらみんなガッカリすると思って、言えなかった……ほんとゴメン」


「マジかよ……」



 クループメンバーががっかりしたような様子で目線を逸らしていた。

 中心的存在である彼女が、見下し忌避していたオタクという存在だったとはショックなのだろう。



「あのさ、見てくれ」


「これって」



 差し出されたスマホの画面に映し出されていたのは、可愛い立ち姿を披露する、クリスマス限定衣装をまとったシベリアノロジカちゃん。



「私も」


「俺も」



 続いて各々の画面を出すグループのメンバー。



「俺ら前からシカ娘にハマってて、今まで言えなかったんだけど」


「ほらぁ、オタクだって思われたらハブられると思って~」


「この前はああいったけどよ、実は」



 まさかグループの4人全員……



「えっ、マジ!? やってないの私だけじゃん。なんなの!」



 あ、女子ひとり違ってた。



「だからさっきも、お前ら二人でイベントに行ってるの見かけて、詳しく話を聞こうと思って」


「え、見かけた?」


「ああ。俺ら三人もあのイベントに行ってたんだ」



 だからあの写真を持っていたのか。盗撮だし、ひとりハブられてるけど。



「お前らが付き合うのは意外過ぎんだけど……まぁ、今時ゲームするのもアニメ見るのも普通だし、別にオタク趣味だからって軽蔑したりしねーよ。お前も」


「僕も?」



 そうか。オタクは迫害されると勝手に思い込んで、レッテルを貼って忌避していたのは僕自身だったんだ。

 オタクであることを、他人と向き合わなかったことの言い訳にして。



「でも、お前ら付き合うっての本当なのか?」


「あ、はい……」


「本当だよ。あたしたちなんてゆーか、両想い的な」



 クラスのあちこちで悲喜こもごも悲鳴が上がる。



「マジかー、ちょっとショックなんだけど」


「こいつお前のことちょっと好きだったんだよ」


「おいやめろ!」



 男が肩を落とし、他のメンバーがその背をポンポンと叩いている。



「ごめん。でもあたし、こいつのことずっと好きだったし。だから残念でした!」



 急に僕に抱き着く彼女。

 校則ギリギリアウトの明るい髪が顔をくすぐり、たゆんとした柔らかいものが背に触れ、甘い匂いが鼻をくすぐる。


 クラスメイトによる再三の悲鳴が聞こえないほど、僕の心臓は高鳴っていた。



 ◇ ◇ ◇



「よっ! お待たせー」



 明るい声とともに肩に衝撃。振り向くと当然の当然、彼女がそこにいた。



「ううん、全然。1時間しか待ってないよ」



 嘘です。3時間前には来て下見してました。



「あーーーライブ楽しみ!」


「僕も。昨日6時間しか寝れなかった」


「しっかり寝てんじゃん!」


「ははは。結構人多いね」


「そりゃー、そうでしょう」


「その、はぐれないように……」



 片手を差し出す。



「殊勝な心掛けだな。褒めてつかわす」



 言いつつ手をつなぐではなく、腕を組んでくる彼女。

 いかん、たゆんと柔らかいものが……



「あの、ちょと恥ずかしいというか、照れくさいというか」


「いいじゃん。ほら行くよ!」



 そう言うと彼女は、腕を組んでいない方の手をグーにし腰だめにすした。

 彼女がなにをしようとしているのか理解した僕も、同じように手をグーにする。



「シカ娘!」


「キューティーレーシング!」



 僕らは二人声を張り上げ、青空へと手を突き上げた。





《作者より》

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授業中 \シカ娘! キューティーレーシング!/ とスマホが鳴り響いてしまいオタ迫害されると思ったら、クラスのギャルと急接近したんだけど。 和三盆 @wasanbong

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