いつも笑ってる手助けさんはジブンだけが知っている

翁甜夜

あとひと、誰なの?




ジブンが小学生の時の話。




2番目の母上からありがたい躾を貰っていた時期の事だがジブンはおかしなことに出くわした。



深夜……と言っても小学1年生からしての時間帯に母上の出したお買い物リストを片手にうら若きジブンは渡された財布を片手にスーパーに向かった。




いつもならジブンが辛うじて持つことができるキャパまでをリストアップしているのにこの日、珍しく小1のジブンでは到底持つことができないリストを渡された。



2Lペットボトルが4本に肉や野菜、それから朝のパンから日用品……弟たちのお菓子に母上のお菓子も書かれてあり、軽く絶望。小学1年生のジブンが持てるわけない、普通に考えて無理なミッションにジブンは頭を抱える。



買ったはいいものの持って移動することができず、店の外まではカートで移動させそこからは小分けにしてせっせとアリのように運ぶことにした。




遅く帰れば楽しい躾が待っているので“ナルハヤ”で持ち運ぶがなんと言っても当時の自分はか弱いひよこ同然の人間……突然時間がかかりジブンは半泣き状態。このままではまたぶっ叩かれる、または手を曲げられると泣き出しそうになりながらスーパーの近くのトンネルをぬけた時___ジブンの目の前に自転車に乗ったおばあさんが止まった。




「あれ、雪川さんの子供さんじゃないの?こんな時間に偉いねぇ、お使いしてるの?」




初対面の人に話しかけられ出てきそうになった涙は引っ込み、警戒心の塊でおばあさんを見た。腰が曲がっていてちょっと背が低い、けど顔は生き生きとしていてそこまで歳を感じられない。声は割と高めでよく響き悪い人そうではなかった。


だがジブンは学校の【いかのおすし】信者だったので警戒心を解かず探るように話をする。




「そうですけど、誰ですか?」

「雪川さんの仕事場の、事務所で働いてる人なんだけど……雪川さんとはよく喋っててね、貴方のことよく聞いてるわよ!とってもいい子なのね、こんな時間までお母さんのお手伝い?」



足元に置いてある荷物を覗き込みながらおばあさんはジブンを褒めた。怪しむのではなくとにかく褒めてきた。



「急いでるんでもういいですか」



時間がかなりヤバいと焦って少し態度に出してしまったがおばあさんは気にすることなく、ニコニコのまま。こんなに善良な人がいるなんて初めてでジブンは当時相手にどう声を出し、どうこの場所を切り抜けるかが分からず混乱していた。




「その荷物、下まで持って行くよ?流石にその量は1人で持って行けないし……遠慮しないで!」




そう言っておばあさんはジブンの荷物をカゴに全て乗せてしまって勝手に家の方角に向かい始めた。慌てて後ろを着いていけば自分の歩幅に合わせておばあさんさ歩いてくれた。遠慮したかったけどおばあさんは荷物をジブンに返してくれなかった。



「お父さんとは仲がいいの?お母さんは好き?」

「親父は嫌いです。ママは好きです」

「そうなのね、お母さんが大好きなのね!」




ひとつも思っていない嘘の言葉をサラッと吐きながらおばあさんと話す。おばあさんはひとつも家のことを深く聞かなかった、ただ好きか嫌いかのことだけを話していた。




「ここがウチの通りなんですけど静かにお願いします……手伝ってもらったって分かったらちょっと……」

「うんうん、わかったわ。荷物運び終わるまでおばさん下にいるからね」

「ありがとうございます」





母上に他者に手伝ってもらったことを知られればどうなるか全く検討もつかないので静かに家に帰る。坂道を登って行けばすぐにジブンの家が見えて廊下の電気がつけっぱなしになっているのが見えた。監視していないかヒヤヒヤしたけど母上の目はなく、安心して玄関の下まで来た。




家は2世帯住宅でジブン達は2階に住んでいる、だから荷物を全て上に持って上がらなければならない。




「ちょっとまっててください」




下に着いた時、小さな声でそう伝えるとおばあさんはにこにこ顔で頷いた。




「終わった、お礼言いに行かないと」



手伝ってもらったしお礼をちゃんと言わなければと思って荷物を運び終えたあと、1階に降りるとおばあさんの姿はなく、辺りを見渡してもおばあさんはどこにもいなかった。



結局お礼を言いそびれ、ジブンはとてももどかしい気持ちになった。ちゃんと手伝ってもらったお礼を伝えたい、そう思って母上の目を盗んで親父に“背の低いニコニコ顔のおばあさん”のことについて聞いた。




だけど親父は自分の仕事先には若い人しか事務の人はいないと答えた、その上歳を取っている人でここら辺に住んでいる人はいないし、第一自分のことを他者に言ったりしてないと言われた。




ありえない、確かにあの人は……と思ったけどそれ以上何も聞かなかった、あまりしつこく聞くと変に怒らせてしまうからやめた。




そんな不思議なことが起きた数ヶ月後、お使い中にまたあのおばあさんに会った。今度はちゃんとお礼を言って親父におばあさんのことを尋ねた、そしたらおばあさんは昔に一緒に働いたと言っていた。



今度は名前を聞こうとしたけど名前は上手く聞き取れなかった、何とかって呼んでとは言われたけどその苗字の言葉だけが発音が悪くて聞き取れなかった。ジブンがただ難聴なのかもしれないけど結局その人はジブンのことばかり聞いてくるだけで何も教えてくれなかった。



その人と会ったのは3回だけ。



ジブンが諸事情で引っ越してしまったから会う機会がないけれどあの人は一体誰だったんだろう。



親父も、母上も知らない謎のおばあさん。



ジブンを助けてくれたあのおばあさんには感謝でしかない、もうあれから10年以上経過している……もしちゃんと存在している人であってもきっともう居ないと思う。



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いつも笑ってる手助けさんはジブンだけが知っている 翁甜夜 @Okitee

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