第23話 炎のブレスにご注意を!

 俺たちはその山の中腹にある俺の家に向かって歩いていた。


 その山は俺が最初に目にした異世界だった。


 つまり俺は自分が目覚めたその場所にこの日まで留まり続けていたわけである。


 そんな山の道とも呼べぬ道を歩きながらそのマスタードラゴンの娘の美しい横顔をチラチラと盗み見ていると、その顔が突然こちらを向いてこう言ってきた。


「師匠! わたしの命を助けてくれたお礼にこの指輪をもらってください!」


 そのマスタードラゴンの娘は歩きながら右手の人差し指から赤い石が埋め込まれた金色の指輪をごく自然にあっさりと抜き取ると、返事も待たずに俺に手渡してこう言った。


「師匠! 早くその指輪を右手の第二の指にはめてみてください!」


 俺は元来がんらいとても素直なので言われた通りに右手の人差し指にその金色の指輪をはめてみると、なんとその指輪は俺の指にジャストフィットした。


 すると、俺が驚いていることに気づいたマスタードラゴンの娘がこう教えてくれた。


「その指輪の所有権がわたしから師匠に移ったので師匠の指にピッタリになったんです!」


 そしてさらにマスタードラゴンの娘はこんなことを言ってきたのだ。


「あと、その指輪にはちょっと特殊な力がありまして、その指輪をはめている方にわたしの寿命を少し分けてあげることができるんです!」


「寿命をっ? 少しって・・・・・・どのくらい?」


 と俺が訊くと、マスタードラゴンの娘は実に恐ろしいことを言った。


「どのくらい・・・・・・って、たかだか5万年くらいです!」


「5万年っつ?」


 と驚いて俺は一瞬ぶっ倒れそうになった(耐えたけど!)。


 すぐにその指輪を外そうとすると、マスタードラゴンの娘はまたしても恐ろしいことを言ってきた。


「無理ですよ。一度はめたら二度と外せませんから。その指輪が欲しくて誰かが師匠の指をちょん切ろうとしても師匠のその指は今ではもうマスタードラゴンクラスに硬くなっているのでちょん切ることができるのはこの世界にわたしのパパくらいしかいませんから安心してください! あと、右腕とか体の他の部分をちょん切ろうとしてきた場合も自分が狙われているとその指輪が判断した場合はその時限定で師匠の体のその部分をマスタードラゴンクラスに硬くしてくれるんで安心してくれていいですからね!」


 俺が全く声も出せずに驚いていると、さらにマスタードラゴンの娘はこう続けた。


「それからその指輪の力によって今わたしと師匠の寿命は全く同じになっているので命が尽きるのも同じ年の同じ日の同じ時間ということになります。あと、これもこの指輪の力で、師匠が何か寿命以外の原因で死んでしまったらわたしも同時に死ぬし、わたしが死んでも師匠も同時に死ぬようになっています! だって愛し合ってる者同士は一緒に死ぬのが一番幸せでしょう?」


 本当に何度も自分の耳を疑いたくなるようなとんでもない話の連続だったので、俺はなんだか気が遠くなってきて、だからそれからはもうずっと沈黙が続いていたのだが、次に喋り出したのはなぜか俺の方だった。


「ここが俺の家だ。 ・・・・・・と言っても素人が作った丸太小屋なんだけど」


 その家が視界に入ってきた瞬間、俺は嬉しくなってそう言ってしまったんだと思う。


 子供の時に大工の棟梁とうりょうだった親父と庭に小さなログハウスを作った経験が、こんなところで役立つとは思いもしなかった。

 

 我ながらうまくできたと思う。


 ヒーラーの能力に目覚める前の1ヵ月間で作り上げた俺の自信作だった。


 俺は元来単純なので、その家を近くで見ていると指輪の件で落ち込んでいた気持ちが嘘のように晴れてしまっていた。


「素晴らしいお家ですね! じゃあ、お邪魔する前に・・・・・・申し遅れました。わたし、ユニカ・マドランと申します!」


 白髪ロングのマスタードラゴンの娘はそう言ってペコリと頭を下げた。


 それで、俺はちょっと迷ったのだが、


「ああ、うん。俺は・・・・・・ごめん、名前はまだ思い出せないんだ」


 と正直に言うと、そのユニカという名前の少女は悲しそうな顔をしてこう言った。


「・・・・・・そうですか、残念です」


 あの時、俺はただその悲しげな顔をどうにかしてやりたくて、ついこんなことを言ってしまったのだ。


「・・・・・・じゃあ、俺はユニカって呼んでもいいか?」


 しかし、それがとんでもない大間違いだった。


「はい・・・・・・」


 と塩らしく答えたユニカは、自分の押し隠している感情をぶつけるみたいに地面を何度も踏みつけるような動作をした後で、突然口を大きく開け、


「ボォオオオオオオオオッ!」


 とのである。


 すると、一瞬のうちに俺が1ヵ月掛けて作った丸太小屋は跡形もなく消えてなくなってしまったのだった。


「すっ、すいません、師匠っ! 師匠に名前で呼ばれたのがあまりにうれしくて、ユニカ、つい炎のブレスが出ちゃいましたっ!」


 ああ、うれしくてね、つい炎のブレスが、ドラゴンだもんね、そうだよね、油断してた俺が悪いよね・・・・・・。


「・・・・・・仕方ない、仕方ない。でも、これからは気をつけような、ユニカ」


 と何とか声を絞り出すようにして言うと、またユニカが地面を踏みつけ始めたので、これで今度は山火事にでもなったらそれこそ大変だと思い、急いで俺はその口を両手で塞いだのだ。


 この時の行動を思い返すと、俺はなんて危険なことをしていたんだと今でもゾッとしてしまう。


 だってあの瞬間、俺の両手が消し飛んでしまってもおかしくなかったのだから。


 だが、ユニカは炎のブレスを今度は吐かなかった。


 俺に両手で口を塞がれたのが恥ずかしくて炎のブレスを出せなかったらしい。




※※※

第23話も最後までお読みいただきありがとうございます!


もし少しでもおもしろいと思っていただけたら、作品フォローや★評価をしてもらえるとすごくうれしいです!


【次回予告】

第24話 初めての共同作業!?💕


 師匠と弟子の初めての共同作業!? 

 ユニカの姿に異変が? まだ記憶は戻りませんか? の第24話っ!


 どうぞ続けてお読みくださいませ

m(__)m



 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る