第9話 トラバウト教授の㊙️講義その①

 ザッハ・トラバウト教授は氷属性の剣士ソーズマンである。


 かつてはツーツンツ王国一の剣士ソーズマンうたわれ、世界 剣士ソーズマンランキングでもトップ5に入るほどの超が余裕でいくつも付くほどの実力者だったらしい。


 それまでは、氷属性は剣士ソーズマンには向かない属性だと言われていたようなのだが、トラバウト教授の登場により、氷属性は炎属性の次に剣士ソーズマンに向いている属性だと言われるまでになったのだという。


 そんな偉大な過去の英雄も今年で62歳。


 当然力も徐々に衰えてきているようだが、日々の鍛練たんれんにより世界 剣士ソーズマンランキングのギリギリ100位以内の98位にかろうじて残っている。


 つまりトラバウト教授は今でも正真正銘の現役の剣士ソーズマンなのである。


 そんなトラバウト教授の第一回目の講義は、ヘッケルト教授の一回目が座学ざがくでの理論的な指導だったのとは対照的に、いきなり大闘技場での実戦的な指導から始まった。



「君がヘッケルト教授のお気に入りのだね?」


 トラバウト教授――スキンヘッドで身長190cm以上ある大男――にいきなりそう尋ねられて俺はしばらくの間何も返答することができなかった。


 なぜならその声音に明かに悪意のようなものが含まれていたからだ。


 どうやらヘッケルト教授と仲が悪いという噂は本当らしい。

 でも、なんとなくこの人が勝手に嫌っているだけでヘッケルト教授の方はあんまり相手にしてないじゃないかという気も少しした。


 この時までに、すでに第201番から第143番までの伍長が一対一での剣術指導を受け、その全員が御年おんとし62歳のトラバウト教授に瞬殺(もちろん死んではいないが)されていた。


「二つ持ちは二刀流ツー・ソード 剣士ソーズマンになる者が多いが、というのは一体何に向いているんだろうね? いっそ君なんかは年末にTVでよくやっている『びっくりびとコンテスト』でも出てみればいいんじゃないか?」


 そう自分で言って自分で笑っているトラバウト教授の強面こわもてな顔を見上げながら、きっとこの人には親友と呼べる人はひとりもいないのだろうなと俺は思ったりしていた。


、剣を構えなさい。ワシのミスリルの鎧にその剣で少しでも触れることができたら君の勝ちだ。君は特にじっくりと指導してやるからな!」


 トラバウト教授が口元に不気味な笑みを浮かべてそうかしてくるので、俺は魔術軍から支給されたなんの変哲もない真剣を中段に構えた。


 トラバウト教授は余裕綽々よゆうしゃくしゃくの表情をして上段の構えで俺が向かってくるのを待ち構えている。


 ここで、ただ剣を振り上げて突進していっても、今までの伍長たちと同じように瞬殺されるだけだろう。


 そう思って、俺は一か八か、頭の中で、火と雷と時計の針を具体的にイメージしてみた。


 それもできるだけ鮮明に!

 

 そして、その鮮明なイメージを剣の刀身ブレードまとわせてみたのだ。


 すると、耳元でカッチカッチと時計の針が動く音がし始めた。


 と思うと、急にトラバウト教授の声が動画を超スロー再生した時みたいにひどく間延びした滑稽な感じで聴こえてくる(この人は戦闘中もごちゃごちゃと何か喋っているのだ)。


 さらに次の瞬間、剣の刀身ブレードが控えめだが赤く燃え出し、さらにそのさきにビリビリと光る雷の小さなかたまりのようなものが出現した。


 これならいけるっ!


 そう思って、動きがにぶくなったトラバウト教授に俺は一直線に向かっていった。


 そして、赤く燃える火(炎とはまだ呼べない)と雷のかたまりの両方が混じった剣の切っ先でトラバウト教授のご自慢のミスリルの鎧を思いきり突こうとしたその時だった。



 ――ガラガラガラガラッ



 なんと俺の剣は握りの部分だけを残して砕け散ったのである。


 それと同時に、時属性の能力も解除されてしまったらしく、トラバウト教授の動きが通常に戻り、俺は刃のないはがねの剣(もちろん氷属性の力も使っていない)で思いっきり左肩を強打された。


「ッ!」


 と俺があまりの痛みに短く声を漏らしてしまうと、トラバウト教授は満足そうな笑みを浮かべてこう言った。


「ついさっきのワシの話を聞いていなかったのかね? 二つ持ちは二刀流ツー・ソード 剣士ソーズマンになる者が多いと話しただろう? なぜ多いのか考えなかったのか? ・・・・・・それは2つの属性の力に耐えられる剣などほとんど存在しないからだ! ・・・・・・なのに、そんな初級者用の剣に3つの属性の力を同時に注入ちゅうにゅうするなんて愚かなことを・・・・・・。あーあぁ、大事な剣をそんなに粉々にしてしまって・・・・・・《みつ持ちくん》、君には新しい剣が必要だねぇ? ・・・・・・仕方ない、早急に支給してやろう。だが、そのかわりに、君には罰として今から1ヵ月間毎食おかずを1品減らしてもらう! さらに主食の米も通常の1/2の量にしてもらうからな。それで毎食後、自分の命と同じくらい大切な剣を大事にしなかったことをくややみ続けてなさい!」


 俺がその1ヵ月でおそろしいくらいげっそりと痩せてしまったのは言うまでもないことだ。



※※※

第9話も最後までお読みくださりありがとうございます!


ここまでで、俺(ルーフェンス・マークス第142番伍長)のことを応援してやろう、もう少し見守ってやろうと思われたら、作品フォローや★評価をしてもらえるとうれしいです!(応援コメントやレビューコメントもお待ちしております!)


【次回予告】

第10話 永遠の部下❤️ユアール・プライツ登場!

 

 いよいよちょい出世した俺(ルーフェンス・マークス第142番伍長)は新しい部下たちと対面する!


 その中で一際目立つ部下、ユアール・プライツとは? 


 いろいろややこしい第10話っ!


 どうぞご期待くださいませm(__)m


 




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