妹に彼女を寝取られた俺の末路

星村玲夜

妹に彼女を寝取られた俺の末路

 ちょっと大袈裟かもしれないけど、俺――渡辺健太はいま人生春本番を迎えてるって感じがする。


 第一志望だった地元の大学に合格。入学して早々に必修科目のグループワークで黒髪ロングの清楚系美女――有村凪沙と知り合って意気投合し、中間テストが終わったタイミングで告白したらまさかの告白成功。3ヵ月経った今でも変わらず良好な関係を保っている。


 家族関係も3年前に父親が再婚して義母と義妹が家族に加わった直後は不安で一杯だったけど、これまで何の問題もなく順調に家族の絆は深まってきている。特に二つ年下の妹――楓とはゲームを趣味とする者同士ですぐに仲良くなって、よく一緒に遊んでいる。


 …………うん、我ながら上手くいき過ぎてると思う。特に凪沙を初めて見たときには、後にこの子と付き合うことになるとは思いもしなかった。


 だって、凪沙は高身長モデル体型で巨乳。バスケサークルに所属していて社交的な性格と、全男子が付き合いたいと思うようなステータスをしているんだ。そんな子をイケメンが狙わない訳がないし、イケメンと競合になったら彼女いない歴=年齢で異性経験の乏しい俺なんかが勝てるとは思えなかった。


 だからこそ、たまたま俺のスマホのロック画面が目に入った凪沙に、「渡辺くんもこのマンガ好きなの?」と話し掛けられたときはびっくりしたし、向こうから連絡先の交換を持ち掛けてきたときにはドキドキが止まらなかった。


 凪沙とデートしているとすれ違った男からの視線をよく感じるけど、そのときには誇らしい気持ちになる。


 ――と、こうして思いっきり浮かれていたから罰が当たったのかもしれない。


 八月末のある日の昼下がり。


 我が家の2階。パステルピンク1色に統一されたインテリアがキュートな雰囲気を醸し出している一室。


 そんな部屋の奥に置かれたベッドの上で――



「あん…………もっと……!」



 凪沙とこの部屋の主――楓がエッチしているのを俺は目撃した。


 …………………………え? 凪沙と楓が…………エッチ?


 はぁぁぁぁああああ?!


 どうして凪沙がうちにいるんだ? うちの場所教えたことなかったよな? それに凪沙も楓もお互いの顔知らないはずだよな? なのになんで?!


 扉が開いたままになっていて覗き放題な部屋の前で俺はどうしたらいいのか分からず立ち尽くす。


 バイトから帰ってきて玄関に楓の靴以外にもう一足女性の靴が並んでいたから楓が誰かをうちに上げていることには気づいてた。だけど、まさかその相手が自分の彼女で、妹と彼女がこんなことをしているなんていったい誰が予想できるか。


 ちなみに今日両親はともに仕事で家を空けていて、二人とも帰ってくるのは早くても夕方。だからつい油断してドアを開けたまま始めてしまったのだろう。


 自分の部屋に向かう途中で荷物を持ったまま固まっている俺に気付くことなく二人はまぐわう。


 最初は二人とも下着姿で向かい合ってベッドの上に座り、楓が凪沙の胸を触りながらキスしていたが、あるとき楓が凪沙のブラを外し、それから凪沙を押し倒した。


 凪沙の顔に垂れた楓のボブの茶髪が邪魔で凪沙の表情は見えないが、凪沙は気持ちよさそうに喘ぎ声を上げている。


 ――くっ、俺は妹に彼女を寝取られたのか……!


 凪沙を寝取りたいと思っている男はたくさんいてもおかしくないと思っていたから、凪沙のバイト先やバスケサークルの男に対してはそれなりに警戒していたつもりだった。だけど、まさか自分の妹に手を出されるとは――



「あ、お兄ちゃん。おかえり~」


 

 俺が唇を噛みしめていると、不意に楓が体を起こしてこちらに顔を向けた。それから俺に気付くと、普段と変わらない口調であいさつしてきた。



「『あ、お兄ちゃん。おかえり~』じゃないよ! 楓、その女の人が誰か分かってる?」

「うん、知ってる。お兄ちゃんの彼女の有村凪沙ちゃんでしょ?」

「なっ! ならどうしてこんなことを……」



 凪沙が俺の彼女だと知った上で寝取ったなんて、俺は何か凪沙の恨みを買うようなことをしてしまったのか?


 楓から激しい怒りをぶつけられることを覚悟する。



「だってマッチングアプリでお兄ちゃんの彼女とマッチングするなんて思いもしなかったんだもん!」

「マ……マッチングアプリ?!」



 激しい怒りをぶつけられなかった代わりに不穏な単語が楓の口から出てきた。


 ――凪沙がマッチングアプリを使ってるって? そんな馬鹿な! 


 俺と付き合い始める前ですらそんな話聞いたことない。そもそも俺という彼氏がいるのに凪沙がマッチングアプリを使うはずがない。



「ほら、これ」



 楓から差し出されたスマホを受け取って見る。



「こ、これは……! ……誰?」



湘南の海で見かけそうなマッチョ系爽やかイケメンの笑顔がメイン写真のプロフィール画面。


 たくみ、19歳、男子大学生――



「あ、違う!!」



 そう言うと楓は俺の手からスマホをひったくり、俺に背を向けた状態でスマホを操作し始めた。


 ――メイン写真の右下に+マークがあったけど、それってつまり自分のプロフィールってことだよな?


 楓はいったいどこぞのイケメンになりすましたんだ? そもそもマッチングアプリって18歳未満は登録禁止だった気が……。



「これが凪沙ちゃんのプロフィールだよ」



 今度は楓がスマホを手に持ったまま、画面をこちらに見せてきた。


 それを確認する前にさっきの謎の男のことを聞こうと楓の顔を見つめたら、何も見なかったことにしろと言わんばかりに無言の圧を掛けてきたので、おとなしくスマホの画面に目を移す。


 名前はみらい。19歳、女子大学生。自己紹介にはアウトドア系の男性が好みです! とある。


 名前は違うけど、メイン写真の顔の横でダブルピースしている笑顔の女性は紛れもなく凪沙だ。



「そんな……嘘だ…………」



 いつも二人だけのときには、健太くん大好き!! と言ってバックハグしてくる彼女。先月の俺の誕生日にはサプライズで料理を振舞ってくれて、俺が欲しがってたゲームキャラのぬいぐるみをプレゼントしてくれた彼女。した後にはうっとりとした表情で、「私たちの相性最高だね」と言ってくれた彼女。


 そんな彼女がマッチングアプリを使って浮気しようとしていた? しかも彼氏の俺がインドア系なのに、アウトドア系が好みだって? 


 誰かが凪沙に成りすましたアカウントじゃないのか?


 恐る恐るベッド上の凪沙に目を向ける。


 凪沙は上半身裸のまま上体を起こして奥の壁にもたれかかり、つい先ほどまで興奮して喘いでいたとは思えないくらい青ざめた顔で、「なんで……」と呟きながら小刻みに体を震わせてこちらを見つめていた。


 ――凪沙、その反応はやめてよ……。


 そんな反応をされたら心が折れてしまいそうになる。



「これ、凪沙のじゃないよね……他の誰かのだよね?」

「…………う、うん。そうだよ、私のじゃない! 私はずっと健太くん一筋だよ!!」



 ぺたんと座り直し、前のめりになりながら俺の目を真っ直ぐに見つめて凪沙が無実を訴えてくる。


 そうだよな。凪沙は浮気するような子じゃないよな――



「ふざけるのもいい加減にしてよ!!!!」



 150cmちょっとの小柄な体から放たれたとは思えないくらい大きな声で楓が叫んだ。


 そのあまりの迫力に俺たちは否応なく楓へ意識を向けさせられる。



「この人とやりとりした結果、こうしてわたしたちが会ってるのに、これが凪沙ちゃんのアカウントじゃなかったらどうして凪沙ちゃんはここにいるの? これ以外にわたし凪沙ちゃんの連絡先持ってないのに。それに、これ以外にもたくさん証拠持ってるんだから!!」


 

 そう言うと楓は素早い手つきでスマホを操作して、一枚の写真を俺に見せてきた。


 それは一組の男女が腕を組んでラブホに入っていくところを写したものだった。



「二週間前の火曜日に撮った写真」

「これは…………凪沙?」



 斜め後ろから撮られているから顔をはっきりと見ることは出来ない。だけど後ろ姿が凪沙にそっくりで、着ている服にも見覚えがある。



「そう、凪沙ちゃん。他にもあるよ」



 楓が画面を横にスクロールすると、また同じような写真が出てきた。だが、写っているホテルと凪沙が腕を組んでいる男性がさっきと違う。



「これがその二日後に撮ったやつで、これは先週の水曜の。それで――」

「ちょ、ちょっと! あなた何回盗撮したの?!」

「凪沙ちゃんは黙ってて」

「――!?」



 文句を言う凪沙を凍てつくような声音で牽制して、楓は引き続き画面をスクロールする。


 どれも凪沙が腕を組んでラブホに入っていくところを写していて、毎回違う男だが、みな共通してガタイの良い体育会系だ。


 写真は全部で5枚あった。


 ――俺の知らないところでこんなにも多くの男と凪沙は会っていたんだ。


 そう考えたらクラっと眩暈がして視界がぼやけ、俺はたまらず床に膝をついてしゃがみ込む。


 「大丈夫?」と楓が心配そうに寄ってきたので、「うん、大丈夫」と返す。



「ねぇ凪沙、凪沙は何か訳があってこの男たちと会ってたんだよね? エッチしたくて会ってたんじゃないよね?」



 これだけの証拠を見てもなお凪沙は無実だと信じ続けられるほど俺は愚かじゃない。


 でも、初めて出来た彼女に浮気されたということの衝撃を受け止め切れなくて、そして何よりも凪沙のこれまでの俺への態度がどうしても浮気する人のそれだとは思えなくて、凪沙がこれらの写真がすべて偽造だという証拠を示して身の潔白を証明してくれることを祈ってしまう。


 そうして俺はまた凪沙に目を向ける。



「……ち、違う…………違うの。健太くん聞いて! 私は――」



 凪沙はただ喚くのみだった。


 ――あぁ、もうダメだ。


 もう凪沙を信じられないし、裸の凪沙を見てもなんとも思えなくなった。なんなら懇々と適当な言い訳を吐き続ける凪沙が鬱陶しい。



「もういい!! 言い訳なんか聞きたくないし、これ以上お前の彼氏でいたくもない!! 今すぐうちから出て行ってくれ!!」

「ねぇ聞いてよ健太く――」

「早く出てけよ!!!!」



 俺が怒鳴ると、凪沙は渋々ベッドの周りに散らかっている自分の衣服を拾い集めて部屋から出て行った。そしてうるさかった凪沙がいなくなったことで部屋に静けさが戻ってきた。


 ――あとで凪沙の連絡先を消しておこうかな。


 あいつの連絡先が無くて困ることはきっとないだろうし、さっき言えなかった言い訳を聞かせるために電話を掛けてこられても迷惑だし。


 それにしても今日からまたボッチか――



「ハハッ…………ハハハハ………………」

「お、お兄ちゃん……?」


 楓が心配と困惑の入り混じった表情で見つめてくる。



「清楚系だと思ってた彼女が実は清楚系ビッチだったなんて、ほんと笑えるよな。しかも毎週のように他の男とヤってたとか。俺、病気もらってないか心配だな~。アハハハッ」



 今のところ何も症状はないけど、今度検査してみようかな。それでもし何か病気が見つかったらあいつを訴えてお金をたっぷりとふんだくってやる。


 健太くんの初の彼女になれて嬉しい! って満面の笑みで言ってくれた時は本当に嬉しかったのに。


 1ヶ月記念にプレゼントした指輪をいつも着けてくれてて、たまに「いつ結婚指輪に変えてくれるの?」と言って俺を茶化してきたのに。


 この子が浮気をすることはまずないだろう、って信じてたのに……。



「ハハハ…………ハッ……ッ……!」


 だんだん目の奥が熱くなってきて、ついに一滴の涙が頬を伝っていくのを感じた。それから五秒も経たずにもう一滴、目から溢れ出てくる。



「あぁクソッ。なんで出てくるかな…………ッ……!」


 こんな情けない姿、楓には見られたくなかった。


 涙は一気に溢れ出ることはないけれど、無理やり止めることもできなくて、一滴ずつ零れてくる。そうして頬を伝う涙を手で拭っていると、楓に頭をそっと優しく包み込まれた。



「彼女に浮気されちゃって……可哀そうなお兄ちゃん。もう無理しなくていいよ」

「うぅ……」


 楓の言葉をきっかけに、いよいよ抑えられなくなって涙がドッと溢れ出てきた。



 ***



 俺はいったいどのくらい泣き続けたんだろう。今は落ち着きを取り戻して、楓と横並びになって床に腰を下ろしている。



「楓、ありがとな」

「えへへ、どういたしまして」



 楓がいてくれなかったら、悲観的になって何か良からぬことをしていたかもしれない。それに楓が俺を抱き締めて、頭を撫でてくれたおかげで心を落ち着かせることができたのだから。



「お兄ちゃん、どう? 凪沙ちゃんのこと忘れられそう?」

「う~ん……すぐに気持ちを切り替えて次にいきたいけど、そんな簡単にはいかないかもなぁ。なんたって凪沙は初めてできた彼女だったし、思い出もたくさんあるから」



 さっきだって凪沙に対する怒りで一杯だったのに、気づいたら楽しかった思い出ばかり頭に浮かんできて、目の奥が熱くなってしまったんだ。



「そっか…………じゃあ、お兄ちゃんが早く凪沙ちゃんのことを忘れられるようにわたしが手伝ってあげる」

「え、どういうンッ……!」



 楓の言った意味が分からなくて聞き返そうと右を向くと目の前に楓の顔があった。そしてそれに驚く間もなく楓に唇を重ねられ、両手で頭を引き寄せられた。


 すぐに楓の顔を離そうとしたけれど、楓の頭を引き寄せる力が強くて上手くいかず、その間に楓は俺の口に舌を入れ込もうとしてくる。



「ン―! ンンー!!」



 舌を入れられないよう防ぎながら楓と数秒間力比べをし、やっとの思いで楓の顔を離す。



「プハッ! きゅ、急になんだよ?!」

「何って、さっき言った通りだよ。お兄ちゃんが凪沙ちゃんのことを早く忘れられるようにするためのお手伝い」



 そう言った楓の頬は赤らんでいる。先ほど凪沙とはより激しい行為をしていたはずなのに、凪沙と戯れた直後より今の方が遥かに乙女の表情と呼ぶにふさわしい表情だ。


 楓はおもむろに俺の膝に跨り、目を瞑ってまたキスしようと顔を近づけてくる。



「お、落ち着けって! 俺たちは兄妹だろ?」

「うん。でも義理の兄妹だから大丈夫だよ」


 

 楓は俺の説得にまったく耳を貸そうとしない。それどころか、たったいま肩を押されて遠ざけられ失敗したばかりだというのに、またもキスしようと迫ってくる。



「いや、そういう問題じゃなくて……」



 俺はまた同じように楓の肩を押して止めようとした。が、手を伸ばした先がちょっとずれて肩より少し下の位置で楓の体に触れ――



「……んっ!」



 俺は思いっきり楓の胸を掴んでしまった。



「あ、ごめん!! って、わわわ!!!」

「きゃっ!!」



 柔らかな胸の感触と楓の艶めかしい声で気づき、俺は反射的に楓から手を放し、上体を反らした。だが、そこでバランスを崩してしまって、踏ん張ろうとしたけど踏ん張り切れずそのまま後ろに倒れた。


 当然俺の膝に跨っていた楓もそれに巻き込まれ、楓が俺に覆い被さるような恰好となる。



「痛ててて……楓、大丈夫?」

「うん…………お兄ちゃんのエッチ」

「いや、そんなつもりはなくて――」

「言ってくれたらいくらでも触らせてあげたのに」



 楓は俺の左の耳元でそう囁くと、耳たぶをはむっと甘噛みし、舌先でぺろりと舐めた。


 ぞくりとした感覚が瞬く間に全身へ行き渡る。


「だから、そういうことを兄妹でするのは――」

「義理だからいいの! それに、こんなにも反応しちゃってる人にそう言われてもなぁ」



 楓がいやらしい手つきで俺の股を触ってくる。



「そ、それは……」

 


 ――そこを突くなんて、楓のドS野郎!


 思わず心の中でそう叫んだ。


 楓みたいな可愛い子にピンクの花柄模様の下着姿で迫られて何も感じない訳ないじゃないか!


 俺は楓を妹と認識していて、恋愛対象をして見ようとは思っていない。だけど、血が繋がっていなくて、ほんの3年前にいきなり妹になった楓を血の繋がった妹とまったく同じように扱うことはできない。


 だから普通に一人の男として楓を可愛いと思うことはあるし、こんなことをされたら昂ってしまう。だけど……。



「それでも兄妹では――」


 そういうのはやめた方がいい、と言おうとしたけど、また楓に無理やりキスで黙らされた。


 それから前と同じように舌を入れ込もうとしてくるのかと思ったら、今度はあっさりと重ねた唇を離した。



「もう楽になろうよお兄ちゃん。わたし、お兄ちゃんのこと大好きだよ」


 

 顔を楓の胸に押し付けられるようにして抱き締められる。


 ――楓、胸でかっ!


 見た目ではBカップくらいだと思っていたけど、感触的にはそれ以上に感じる。


 それから体勢が悪くて仕方なくなのか、はたまた意図的なのか楓が上下左右にちょこまかと動くせいで胸の感触がより鮮明に伝わってくる。


 そんなことをされていると、頭がクラクラしてきた。


 ――楓の気持ちに答えてあげてもいいのかな……?


 だんだんとそんな気持ちになってくる。


 兄妹だから、と拒否し続けるのも疲れるし、どうせ今はボッチなんだから試しに付き合ってみるのもありかもしれない。


 一旦口を開いたら、スッと言葉が出てきた。



「俺も楓のこと好きだよ」

「ほんとに?!」

「うん。ほんと」



 楓が俺を放して上体を起こすと、俺の顔の真上に楓の顔が来た。


 小さくて丸い、可愛い顔だ。


 俺の方から楓の顔を引き寄せてキスをする。もちろん唇を重ねるだけでなく舌を絡ませて。


 ――あぁ、最高だ。


 さっきまでのどんよりとした気分が綺麗さっぱり無くなって、幸せな気持ちで満たされていく。頭の中ももう楓のことで一杯だ。


 長いキスを終えて目を開けると、楓が蕩けた表情をしていて、それがもう堪らなくて今すぐにでも食べてしまいたくなった。だから、俺は手を伸ばして楓のブラのホックに手を掛けた。


 そうして丁寧にブラを外し、露わになった胸を触ると、楓は我慢するように目を瞑って、「あっ……」と小さな声で可愛く喘いだ。


 その声をもっと聞きたくて、俺は夢中になって楓の胸をいじる。


 そして、目を開いた楓と目が合い、俺は喜び…………ではなく戦慄を覚えた。


 ――あ、楓は手を出しちゃいけない奴だったかもしれない……。


 楓の目は俺を真っ直ぐに捉えていて、目を見ただけでも俺以外は眼中にない、俺のことで一杯だということがよく分かった。


 ただ、恋をしている人の目というよりは何かに執着している人の目で、楓の鼻息が荒いことも相まって俺は背筋に寒気を覚えた。


 そんな俺の変化には気付くことなく、喜びを抑えきれずにやけた顔をして俺の服のボタンを外しながら楓が口を開く。



「えへへ、ようやくわたしのことを見てくれたね、お兄ちゃん。これからはわたしがお兄ちゃんのことを思いっきり愛してあげるから、代わりにわたしのことを思いっきり可愛がってよ。ね、お兄ちゃん?」

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