異世界転移して恋人に捨てられたら、伯爵様に見初められました

ことはゆう(元藤咲一弥)

異世界転移して恋人に捨てられたら、伯爵様に見初められました




「お前のスキルいらねぇや、俺はこの『魅了』スキルでハーレム作って過ごすからお前邪魔」

「そんな……!!」

 私は絶望の淵にたたき込まれたような気分でした。





 ある日の事、突然景色が変わったと思ったら私は恋人の健介けんすけと異世界に来ていました。

「異世界人よ、どうか魔王を倒して貰いたい」

 そんな事言われても私はどうすることもできません。

「貴方達にはスキルが備わってるはずです……『癒やし』と『魅了』ですか」

「俺が魅了?」

「はい」

 健介は何を思ったのか女性騎士に声をかけました。

「俺と魔王退治にいってくれない?」

「はい♡ 勇者様♡」

「よし、これならいけるぞ」

 健介は手当たり次第女性に声をかけました。


「け、健介……」

「お前のスキルいらねぇや、俺はこの『魅了』スキルでハーレム作って過ごすからお前邪魔」

「そんな……!!」

 健介はそう言って城から出て行ってしまいました。

 一人ぽつんと残された私は呆然とするだけです。

「お嬢さん、宜しければ私の屋敷に」

 優しい笑みを浮かべた男性が私に声をかけてくれました。

「でも、ご迷惑になるのでは……?」

「いいのですよ」

 私はお言葉に甘えることにしました。



「神からの加護たるスキルを持つと本性がでると言うがまさしくその通りだった」

「……」

「貴方を責めてる訳ではない、が貴方を責めてるように聞こえてしまうでしょう」

 男性──辺境伯様は、私に静かに語りかけながらワインを傾けていました。

「私のスキル『癒やし』……」

「『癒やし』は割と一般的なスキルです。神官ならば持ってるのが一般的です」

「……」

「ですが貴方の『癒やし』のスキルは他の『癒やし』とはかけ離れている気がするんです」

「そう、ですか」

「私の領地は魔物との戦いの最前線です、宜しければ来ていただきたい」

「……はい、私で良ければ」


 私にはそれしか道はありませんでした。


 恋人に捨てられ、それを追いかける勇気など、なかったのですから。





「あの者は別のルートを通るようです、こちらには来ないでしょう」

「はい……」

 馬車で移動しながらそんな話をしていました。

 会わないなら、心が乱れる事もないだろう、そう思いました。

 馬鹿にされることもないと。


 領地に着くと、辺境伯様は住民の方々に歓迎され、また自警団の方々がいらっしゃいました。

「済まないが、君の力を見せて欲しい」

「は、はい」

 そのときの私は期待に応えようと必死でした。


 負傷者だらけの部屋に通されると、私は「傷よ、怪我よ、治って」と願いました。

 すると、周囲が光り輝き、そして光は消えました。

「あ、あれ? おれの腕くっついてる!」

「俺の手が元通りだ!」

「俺の足もだ!」

 負傷していた方々の傷が癒えていました。

「ユイ、君の力は素晴らしい……! 本当にありがとう!!」

「いえ……そんな」

 辺境伯様に言われて、私はそんなことはないと思ってしまいました。

 本当に自分の力なのか確信が持てなかったからです。

「間違いなく、今のは君の力だ。誇っていい」

「あ、ありがとう、ございます」

 辺境伯様が言うなら事実なのだろうと私は受け入れました。


 それから毎日負傷者や病人を『癒やし』の力で治していきました。


 私の力は国中に知れ渡り、他の場所では治療が難しいと言われた方々も来るようになり、私はその方達も治療しました。





「ユイ、今日も治療お疲れ様」

「はい、辺境伯様」

「その、もし宜しければ私の妻になってくれないか?」

「え?」

 突然の申し出に私は驚きました。

「君の能力もあるが、私は君の献身ぶりに心を打たれた。君は多くの人々を治療してきた。多くの人々が君に感謝している」

「それは……辺境伯様が、私の能力を見いだしてくれたからです」

「だからこそ、君を他の者に取られたくない、君のような素晴らしい女性を奪われたくない。どうか、私の妻になってくれ」

「……私で、良ければ」

「本当かい?! こんな嬉しいことはない!!」

 辺境伯様は私を抱き上げてくるくると回ります。

「へ、辺境伯様」

「ロラン。ロランと呼んでくれ、私の可愛い妻」

「ロラン……様」

「ユイ……」

 月光の下で私達はキスをしました。



 それからすぐ、式を挙げ私は領民の方々に祝福されました。



 そしてまた病人と怪我人の方々の治療に没頭する日々が始まりました。

 夜はロラン様との時間を大切にし、日中は治療と共に、ロラン様の無事を祈って過ごしていました。



 そんな日々を過ごしていると、ある日見知った──

 いえ、二度と会いたくない人物が私の領地に連れてこられました。

「健介……」

「ゆ、優衣……た、助けてくれ……」

 見る影もなく、ぼろぼろの彼に哀憐の情は湧きますが、その程度です。

「一体何のようだ、この者を何故連れてきた?!」

 戻ってきたロラン様が怒鳴ります。

「『魅了』のスキルでいろんな女性を虜にして進んでいたんだが……恋人がいる連中からも奪ったらしくて恨みを買ってボコボコにされたんだ……ボコボコにされた途端魅了が切れて、女性達は全員戻っていったけど……」

「ユイ、治療するのか?」

「治療は、します。ですが──」


「その方を牢屋へ、二度と同じ事をしないように。女性を近づかせないように」

「わかりました……ですが彼と視線を合わせてはいけませんよ、貴方も魅了されてしまいます」

「はい」


 私は、健介を最低限治療しました。

 彼の方は見ないようにして。


「牢屋へ連れて行け!!」

「なぁ、優衣まってくれよ!! 俺が悪かった!! やり直そう!!」

「やり直す?? どうしてそんな言葉が言えるのかしら、私は嫌よ!!」

「なあ、こっちを見てくれ!!」

「見ないわ!! 魅了を使って私を操ろうなんて魂胆分かってるのよ」

 そう言い放つと健介は私に罵詈雑言を吐きながら牢屋へ連れて行かれました。


「男しかいない牢屋の奥深くに入れさせてもらった」

「そう……よかった」

「君はやはり慈悲深いね、あんな奴治療しなくても良かったのに」

「怪我人は見過ごせません」

「私はそんな君が好きだとも」

 ロラン様はそう言うと私にキスをしてきました。



 魔王は、次に召喚された方々に討伐され、世界に平和が戻ったそうです。



 ですが、私は怪我人を、病人を治療します。

 きっとそのために、私はここにいるのですから──






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