第6話 立ち位置


 ディスカードが発生した訓練区域の大地には、調査団のマキナ達が来て、破壊されたディスカードの残骸を回収したり、区域の汚染を調査していた。

 その中に千華と紫苑の二人もいた。

 シュルメルム宇宙工業学園とは違う学生服の二人。

 千華と紫苑は、調査団の宇宙戦艦内の窓からディスカードが破壊されたクレータの現場を見下ろして千華が

「やっぱ…大人しく学生をさせてくれないか…」


 紫苑も隣にいて

「ですね…」


 千華が紫苑に

「ここの管理システムには、ヤツのスラッシャーの痕跡は…」


 紫苑が難しい顔で

「綺麗に消去されて復元するに…」


 千華が呆れた顔で

「でしょうね。スラッシャーは、そういうのが得意だから。なんせ幾つもの仮面キャリアを持っているからね」


 ◇◇◇◇◇


 ティリオは自分のホームで、グランナを前にしていた。

 ティリオとグランナだけの客間で、グランナがティリオに

「今回の事、仲間を助けていただき感謝する」

と、グランナがティリオに頭を下げる。


 ティリオは渋い顔で

「原因は、しっかりと調査する。だから二人の」


 グランナが顔を上げて

「ああ…是非とも協力させる」


 ティリオは溜息を吐き

「とにかく、コアにされた方が無事で良かったよ」


 グランナが

「元を辿れば、オレが…お前…いや、ティリオ殿を手にしようと焦った事が原因だ。今回の事、本当に…再度、申し訳ない。そして、ラドを助けて頂き感謝する」


 グランナが謝罪と感謝を言い終えて、ティリオのホームを後にして、ティリオは一人で客間のソファーで考えていると、そこへアリルが来て

「ティリオ。考えたってどうしようもないわよ。今回の事は…」


 ティリオが額を抱えたまま

「それでも…スラッシャーのヤツは、必ず介入してくるだろう。やはり…」


 アリルがティリオの隣に座ってティリオの頬をなでて

「ティリオが原因じゃあないわ。相手が…スラッシャーが悪い。これから対策を練る時間はあるわよ」


 ティリオが深い溜息をして

「そうだな…」


 そこへジュリアが来て

「ティリオ、ファクドさんが来ているけど…通す?」


 ティリオが頷き

「ああ…」


 グランナと入れ替えでファクドが来て、ティリオとの対面のソファーで

「いやぁ…今回の件、凄かったね。生でディスカード神モドキを見たし、驚く事ばかりだよ」


 ティリオが

「そんな事を言いたいが為に来た訳じゃあないだろう」


 ファクドが笑み

「その通り。先にグランナの仲間で、被害にあった女子生徒から話を聞いたら…とある部品を提供されたそうだ」

と、ファクドが右手を動かすと空間に立体画面でデータが現れる。

 ファクドのゴールドジェネシスの能力である空間操作で、データを開示させる。

「この特別なコンデンサー貯蓄装置をね…」


 ティリオは、その立体画面を凝視する。

 見た目は、問題ないエネルギーを貯蓄する装置、コンデンサーだが…

「これにディスカードの仕掛けが…」


 ファクドが肩をすくめて

「おそらくね。でも、機体マキナごと消滅して…解析もできない」


 ティリオが渋い顔で

「言いたい事は…?」


 ファクドが笑みで

「ぼく達は、学生でしかない。君のようにプロじゃあない。もし…今後、このような事が…」


 ティリオが手を出して先を止めて

「確かに、自分なら部品の検査をして確実に判別できる」


 ファクドが笑みのまま

「その通りさ。これだけ言えば、察して貰えると助かる。今後とも、彼らのような犠牲者を出さない為にも、君のようなプロの力が必要だ。何より、今まで…ここが狙われなかった事が奇跡に近かった。なにせ、この学園は超越存在への切符が授けられるステーションでもあるんだから」


 ティリオが鋭い顔で

「ただ、父親と学園に入れるに推薦してくれた方達への連絡がある。その後で…」


 ファクドは頷き

「そんな相談がなくても、ぼく達は君達を歓迎するよ」


 ティリオは、ファクド達がマキナの競技戦闘をしているランキング・ファクドに入るしかない状況が出来上がっていた。

 そうしなければ、スラッシャーが介入して…。


 ◇◇◇◇◇


 ティリオはホームの通信室で母国のアースガイヤへ連絡を入れる。

 通信の立体画面に出てくれたのは、銀髪エルフの母親ソフィアだった。

「ティリオ、元気?」

と、笑顔で応えてくれる母の一人であるソフィア。


 ティリオが

「クリシュナ母さんや、クレティア母さんに、ゼリティア母さんは?」


 ソフィアが

「クリシュナとクレティアは、弟達の訓練でリーレシア王国に行っていて、ゼリティアは王様の仕事でね」


 ティリオが気まずそうな顔で

「そう…少し、相談したい事があってね」


 ソフィアが笑みで

「大筋は聞いている。入学早々…便りが無い事は良い事だって意味が分かるわ。ティリオの口からちゃんと聞きたいわ」


 ティリオは溜息交じりで

「実は…」

と、全てを話した。

 入学してから、速攻でエアリナの親子げんかに巻き込まれ、更に学生同士がするマキナの決闘に巻き込まれ、そして…スラッシャーの事件と…。


 それを聞いた母親のソフィアが

「そう…そこまで…」


 ティリオが項垂れて

「普通に過ごすつもりだったのに…」

 ティリオの思い描いていた筈の学園生活が全部、立ち消えてしまった。



 ◇◇◇◇◇


 ティリオは目覚める。

 そこは大きめのベッドがある寝室で、ティリオは裸である。

 その両隣には同じ裸のアリルとナリルが眠っている。

 ティリオ、ジュリア、アリル、ナリルの四人は夫婦だ。

 当然のように夫婦の触れ合いがある。


 ティリオはベッドから出て着替える。


 その背中、黄金十字が煌めく背をアリルが起きて見つめて

「おはよう」


 ティリオが

「ああ…おはよう」


 アリルが

「ジュリアは?」


 ティリオが着替えを整えながら

「朝食に一品を加えたいから、先に起きるって」


 アリルがベッドから出て、ティリオの背中に抱き付き

「やっぱり、緊張する? お義父さん達と会うの…」


 ティリオがアリルをほどき額にキスをして

「そっちは緊張しない。事情を説明するのが…」


 アリルが笑み

「だよね。色々とあり過ぎだから…」


 ティリオが微笑み

「色々と話し合ってみるよ。もし…」


 その口をアリルが人差し指で止めて

「私達は、ティリオと一緒に歩むから…何も気にしないで。ティリオが望む道を進んで、それが私達の望みだから。だって、一緒に…ずっと、一緒に隣にいられるんでしょう」

と、アリルが左手を見せると、その薬指に陰陽の紋章が刻まれた指輪、お互いが深く繋がり合う特別な指輪があった。


 それはティリオの左手の薬指にもある。


 双極の指輪とされる魔導文明アースガイヤが作り出した魂までも繋がり合うアイテム。

 それをティリオとジュリアとナリルとアリルの四人は填めている。

 どんなに遠くへ離れようとも、魂同士が繋がる特別な力が四人を繋げている。


 ティリオが「ありがとう」と感謝を告げる。


 そこへジュリアが来て

「三人とも起きて、朝食よ」


 ◇◇◇◇◇


 ティリオは、シュルメルム宇宙工業学園の外縁にある宇宙港の一つに来ていた。

 ティリオが待っているのは…父ディオスが乗る白銀に輝く千メートルの機神型時空要塞戦艦エルディオンと、もう一つがエメラルドに輝く千メートルの時空戦艦だ。

 そのエメラルドの時空戦艦はゴールドジェネシスの船だ。


 その時空戦艦達にエネルギーで構築された桟橋が届き、そのエネルギーブリッジから数名の者達が近づいてくる。


 その一団にティリオは手を振り「父さん!」と呼びかける。

 ティリオが呼びかける頃に、学園を管理するヴィルガメスの一団が来て、ヴィルガメスが

「すまん。遅れた…が」


 ティリオが

「ちょうど来ましたよ」


 ティリオ達の前に父ディオスとその仲間達が到着した。

 ディオスの一団にいるゴールドジェネシスの民の一人である男性、アヌビスが

「おお! 元気だったか? ティリオ」

と、アヌビスがティリオに両手を広げて近づき

「ええ…元気だったけど、ちょっとね」

と、ティリオがアヌビスと抱き締め合って挨拶を交わす。


 ディオスの一団にいる渋い感じの男が

「ティリオ、入学早々に…大変だったな」

と、その男、機神人類デウスマキナの充人がティリオと握手する。


 ティリオが握手しながら微笑み

「充人おじさんも来て貰って、ありがたい」


 ディオスの隣にいる青髪の男性が目にピースで

「チース、学園生活はどうだった? ティリオ」


 ティリオは笑み

「色々とだよ。大人しくさせてくれなかった。ナトゥムラおじさん」


 父ディオスは微妙な顔で

「しかし、ティリオが原因ではないのになぁ…どうして、こう…」


 ナトゥムラが

「親父のトラブル体質を受け継いでいるんだよ」


 それを聞いて父ディオスは項垂れて、ティリオが

「止めてよナトゥムラおじさん! そんな事じゃあないんだから」


 和気あいあいとしている場を微笑みながらヴィルガメスが

「盛り上がっている所、申し訳ない。ようこそ、当学園へ」


 父ディオスが理事長ヴィルガメスへ

「すいません。度々…」


 ヴィルガメスは首を横に振り

「ティリオくんや皆様が原因ではありません。とにかく、話し合いをしましょう。それからでも遅くはありません」


 こうして一団は学園内へ入る。


 ◇◇◇◇◇


 学園内の移住区に入るティリオ達。

 理事長室がある建物へ通じる大通りに二つのグループが並んでいる。

 右に並ぶはファクド達、ゴールドジェネシスの学生達が正装して背中に普段は仕舞っているゴールドジェネシスの証である光輪を具現化している。


 左には、機神達が並び青い洋風の正装をルビシャル達、デウスマキナ機神人類の学生が並んでいる。


 ティリオの後ろにいるアヌビスへファクドが近づき

「ようこそ、我らファーストエクソダスの総大主様」


 ルビシャルが充人に近づき

「お初にお目に掛かります。わたくし、ファイブエクソダスⅦの系譜に連なる末席でございます。始祖Zeroであります龍神 充人様にお会い出来た事、光栄の極みにございます」


 ファクドとルビシャルが跪くと、それに続いて後ろにいる同族の学生達も跪く。


 アヌビスが困った顔をして

「ここでは、ファーストエクソダスの代表ではなく、同属の甥っ子で来ている伯父だ。敬礼は不要だ」


 充人も頭を振りって困り

「もう、お前達はお前達で前を歩んでいる。老害なんかに構うな」 


 ファクドが

「我らにとっては、偉大なる御方。礼節を尽くせぬは、生涯の恥でございます」


 ルビシャルも

「わたくしも同じにございます」


 そして、ファクドとルビシャルが静かにティリオに流し目をする。

 それをティリオは察して少し戸惑いつつ

「そうだね。充人おじさん。アヌビスおじさん。彼らは…その…話を少ししたいみたいだし、この事が終わったら聞いてみても…」


 アヌビスと充人は、アイコンタクトで

”どうする充人?”

”まあ、ティリオの顔を立ててやろう。アヌビス”


 アヌビスが

「分かった。時間があれば暫し話をするとしようか…ファクド・ディフィス」


 充人がルビシャルに

「君の名は…」


 ルビシャルが笑み

「クマイエル・ルビシャル・セブンズでございます」


 充人は困り顔で

「名の部分は? どう呼べば…」


 ルビシャルが

「ルビシャルと…」


 充人が

「ルビシャル。あとで話を伺う」


 ファクド達とルビシャル達が跪いたまま深く頭を下げた。


 それを見たティリオは、額を抱える。

 面倒な事が後からありそうだ。


 ◇◇◇◇◇


 ティリオ達は理事長室で色々と話し合う。

 父ディオスを主に今後、ティリオの事についてどうするか?


 ディオスが

「結局、落とし所としては、ティリオをそのデュエロタクトのランキング・クラブへ入れるしか…」


 ディオスとアヌビスに充人、ナトゥムラがティリオの顔を見ると、ティリオは…どこか諦めたような顔だ。


 ヴィルガメスが

「ランキング・ファバンドには、軍属をマキナのデュエロタクトに参加させないという規約がある。所属したとしても、技術的なアドバイザーになるから。目立つ事はないですから」


 ティリオは…。


 ◇◇◇◇◇


 翌日、ティリオはデュエロタクトのラウンジへジュリアとナリルとアリルを連れて現れる。


 それにファクドが

「ようこそ! ティリオ・グレンテルくん」


 ルビシャルが

「いやぁぁぁぁ! 来てくれて良かった」

 

 二人はクラッカーを鳴らした。


 ティリオは皮肉な笑みで答えた。



 ◇◇◇◇◇


 とある時空と繋がる場で、スラッシャーが鋭い笑みの顔で向き合うのは…

「よう、聖ゾロアス。お前のお気に入りは元気だぜ」


 スラッシャーが見つめる先にいるのは、金髪と黒髪が混じる男だが、人ではない。

 人の形をした神であり、完璧な存在アヌンナキホモデウス神人、聖ゾロアスだ。

 聖ゾロアスは嬉しげに

「さて…この後の計画をどうするか? 聞かせてくれないか? 仮面売りスラッシャー


 スラッシャーは、楽しげに今後の案を聞かせた。


 

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