40話。聖者ヨハン、アンデッドとなって滅びる

「嫌だぁあああ、死にたくない! 私は2週目の世界にぃいいいい!」


 ヨハンは最後の力を振り絞って、身を焼く魔剣の黒炎に抗っていた。さすがは最高レベルに近い聖者だな。


「お前を2週目の世界に連れて行ってやる約束だったな」


 俺は燃え尽きようとするヨハンの顔に手を触れた。

 コイツには最後に役に立ってもらうつもりだ。


『【イヴィル・ポイント】1000を消費して、スキル【高速詠唱】を修得しました!

 魔法の発動を高速化するスキルです。極大魔法の詠唱も一工程で完了させます』


「【イヴィル・デッド】!」


 これは人間を生きたまま不死の魔物に転生させる魔法だ。本来なら、長大な詠唱が必要となるのだが、スキル【高速詠唱】のおかげで、魔法名を唱えるだけで発動できた。


 俺から注ぎ込まれた闇の波動が、ヨハンの肉体を組み換え、まったく別の存在へと構築し直していく。


「ぎゃああああッ! 痛い、痛い! 貴様、何ぉおおおお!?」


 ヨハンは黒炎に焼かれたまま死ねない身体となった。

 炎に強い耐性のある最上級アンデッド【ダーク・フレイム】に転生したのだ。


「望み通り、新しい人生を……2週目の新たな世界を歩ませてやったぞ」

「炎、炎が消えなぃいいいい!? ひぎゃあああああ! 殺せぇ! 殺してぇええ!」

「カイ、何を……?」


 コレットが俺の行動をいぶかしむ。

 俺は彼女を手で制した。


「ヨハン、【レベル・ブースター】の製造、研究に携わっている人間と施設をすべて教えろ。そうすれば、楽にしてやる」


 5年後の世界では、【レベル・ブースター】はより進化し、レベル900まで上昇させられる代物になっていた。


 だが、肉体が崩壊する副作用は克服できず、魔王軍に対抗するための使い捨ての戦士に使われていた。

 人の生命をもてあそぶ邪悪な研究……

 なにより、こんな物を量産されては、俺とコレットが幸せに生きるための障害となりうる。

 聖教会の魔法薬の研究を、完全にぶち壊す必要があった。


「あれは教皇が直接指揮を取っている計画だぁあああッ! 私も詳細は知らない! 知らないんだぁああああッ!」

「なにぃ……?」


 【レベル・ブースター】は魔王への切り札だと思っていたが……

 聖教会の幹部であるヨハンが、詳細を知らないだと?


「教皇は勇者を超える究極の戦士を造り出すための研究だと言っていた! だが、それ以上のことは……何を原材料としているのかも。誰が研究しているのかも、わからないッッッ!」

「そうか。お前は教皇から、信用されてはいなかったんだな」


 俺は暴れるヨハンの頭を掴むと、窓から投げ捨てた。

 もうコイツには用はない。

 アンデッド殺しの専門家たちに、後始末を任せるとしよう。


「ひぎゃああああッ!」


 ヨハンが落ちた先は、中庭に増設された聖堂騎士団の詰め所の天幕だった。


「ア、アンデッドが降って来たぞぉおお!」

「早く、光魔法で浄化しろ!」

「待て、貴様らぁあああ! この私は聖者ヨハン……ッ!」


 ヨハンは配下の聖堂騎士たちによって、徹底的に蹂躙された。

 アンデッドに効果てきめんの光魔法を四方八方から浴びせられて、悲鳴を上げる。


「聖者を騙るとは不遜なる化け物め! 消え去れぇえええ!」

「邪悪なる者に生きる資格なし!」

「ぎゃああああッ!」


 ヨハンの断末魔の叫びが轟く。

 奴隷のごとく扱っていた聖堂騎士たちによって、ヨハンはこの世から跡形もなく消滅させられた。


 それにしても、「邪悪なる者に生きる資格なし!」とは。皮肉にもヨハンが魔女狩りをする時の常套文句だったな。


『聖者ヨハンを倒し、聖女コレットを奪いました。おめでとうございます。【イヴィル・ポイント】5000を獲得しました!』


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名前 :カイ=オースティン

クラス:黒魔術師(ダーク・スター)

レベル:999

スキル:【魔剣召喚】。【従魔の契約】。【アイテム鑑定】。【闇属性強化Lv10】【MPドレインLv5】

【死神の手】【MPアップLv20】【斬撃強化Lv50】【ハッキング】【鑑定偽装】【高速詠唱】

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