25話。ドラゴンライダーを倒し、魔族を心服させる

 解放された魔族たちが、怒涛の勢いでエルザ一党に襲いかかっていく。

 俺はその先頭に立って、魔剣を振った。


「ひとりも逃すな! 叩き潰すんだ!」

「ハッ、魔王様!」

「おぅ! もちろんなのじゃ!」


 俺の魔剣が敵を薙ぎ払い、グリゼルダの拳が敵を空の彼方に吹っ飛ばす。


「す、すさまじい力だ! さすがは魔王様!」

「これなら勝てる! 我らの土地を取り戻すんだぁ!」


 俺とグリゼルダの活躍に、士気が最高潮に上がった。


「あぁあああああッ!? か、かすり傷で死んだだと!?」


 アンデッド軍団に押される敵が、悲鳴を上げた。

 スキル【死神の手】の効果だ。5%の確率で、攻撃に即死効果が乗る。

 個人戦においては微妙なスキルだが、集団戦においては有用なスキルだ。殲滅力に差が出るし、なによりアンデッドと組み合わせることで、恐怖を煽ることができる。


「ま、また死んだ! こ、こいつらは、ただのアンデッドじゃない。即死の呪いを持っているぞ!」


 敵がアンデッド軍団の特殊性に気づき出した。


「その通りだ。お前らにも、アンデッドになってもらう。魔族を奴隷にして虐げたツケを、払ってもらうぞ!」


 俺はここぞとばかりに叫んだ。

 恐怖を煽られ、敵の士気が崩壊する。


「うぁああああ! もう駄目だ! 逃げろ、逃げろ!」


 逃げ出す者の背中を、魔族たちが無慈悲に撃つ。人体は構造的に、背後からの攻撃にめっぽう弱いのだ。

 敵はバタバタと倒れた。

 

「カイ様の作戦通りなのじゃ! さすがはわらわの魔王様!」

「にゃにゃ! まさに魔族の救世主なのにゃ!」

「おおっ! 魔王カイ様、バンザイ!」

 

 味方から大歓声が上がった。

 人間を無慈悲に攻撃する姿を見て、みんな俺を魔王だと認めてくれたようだ。


「お、お前、人間の癖に魔王だと!? 俺たちを皆殺しにするつもりか!?」

「殺される覚悟も無いのに、魔族領を侵略したのか?」


 俺を非難してくる者がいるが、お笑い草だった。

 一方的に殴れるサンドバッグでも、相手にしているつもりでいたらしい。

 殴ったら、それ以上の力で殴り返されるのが、当然だろう。


「魔族は邪悪な存在だ。いくらぶっ殺そうが、奴隷にしようが、自由だろうが!?」

「なら、魔族が人間をぶっ殺すのも、奴隷にするのも自由じゃないか?」

「ぐっ……」


 俺の殺意に当てられて、敵は押し黙った。

 グリゼルダたちは、仲間や家族を想いやれる心を持っている。人間よりも、はるかに人間らしい存在だ。

 彼女たちを踏みにじるなら、その報いを受けるべきだ。


「ギャハハハハッ! 魔族ども。これで、お前らはおいしまいだあ!」


 突如、月明かりが陰ったと思うと、上空を巨大なドラゴンが飛んできた。

 魔族たちから悲鳴が上がる。

 最強生物の名を欲しいままにするドラゴンの威容は、見る者すべてを恐怖させた。


「レアクラス【ドラゴンライダー】の俺が戻ってきたぞ! そら、消し炭になっちまえ!」


 男の勝ち誇った声が響いた。

 ドラゴンが口腔を開けて、灼熱のブレスを放つ。


「【ブラックホール】!」


 俺は上空に、真っ黒い穴を出現させた。

 ドラゴンブレスが、ものすごい勢いで、その穴に吸い込まれていく。

 これは別次元へのトンネルを開けて、矢や魔法を吸収してしまう闇魔法だ。


「げぇええええ!? ド、ドラゴンブレスが消えただと!?」

「こいつは返礼だ」


 俺の周囲に、黒い火球がいくつも浮かんだ。

 生命を蝕む呪いの炎だ。例え、絶大な魔法防御を誇るドラゴンであろうとも、これを喰らえば、ただでは済まない。


「堕ちろ、【ヘルファイア】!」


 黒い火球が、ドラゴンに殺到した。

 ドラゴンは穴だらけになり、断末魔の声を上げて落下する。


「ひぎゃあああああ!?」


 無様な悲鳴が響いた。

 【ドラゴンライダー】も肝心なドラゴンがいなければ、ただの人だな。


「おっ、おおおおおおぉ──ッ!」


 味方から大歓声が、敵からは絶望の嘆きが上がる。


「す、すごいのじゃ、ドラゴンを瞬殺とは!? カイ様、次はぜひその魔法を教えて欲しいのじゃ!」


 グリゼルダが俺の腕を掴んでせがんだ。


「こ、ここここ降伏する! だから、命ばかりは助けてくれ!」


 敵は完全に戦意を失った。一斉に武器を投げ出して、その場に平伏する。

 無論、許すつもりはない。


「いいぞ。アンデッドに生まれ変わって、魔族の仲間になってくれるならな」

「なっ、ななななな……!」

「死んだ後なら、俺はお前たちを信用できる。これから仲良くやっていこう」


 アンデッド軍団が、彼らを取り囲んだ。もはや逃げ場はない。

 魔族たちの信用は得るため、なにより貴重な戦力を得るために、彼らには死んでもらわねばならない。


「おおっ、な、なんという冷酷さと絶大なる魔力。まさに魔王様とお呼びするのに、ふさわしきお方!」

「感服いたしました! 我らは魔王カイ様について行きます!」


 魔族たちが俺に、いっせいに頭を垂れた。


『エルザ一党を倒して、ミスリル鉱山を奪いました。おめでとうございます。【イヴィル・ポイント】2000を獲得しました!』

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