19話。聖堂騎士団を返り討ちにする

2日後──


「ふぅ〜っ。まさか、いきなり2個中隊も投入して、俺たちを襲いに来るなんてな。2週目の世界に行きたいのは、ヨハン個人じゃなくて……教皇か?」

「ひぃいいいいい! 殺さないで、殺さないでぇ!」


 俺の目の前には、一網打尽にした聖堂騎士団が折り重なって倒れていた。

 こいつらを誘うために野営したところ、300人規模で襲撃してきたのだ。

 土下座して必死に命乞いしているのは、指揮官だった。利用価値があるため、あえてひとりだけ残しておいた。


「この数を、魔法を使わずに倒すのは骨が折れたのじゃ」


 グリゼルダが、疲れた息を吐いていた。

 グリゼルダとサーシャには魔法を使わず、なるべく敵の肉体を損壊させずに、全滅させるように頼んでいた。


 俺が麻痺効果のある【黒雷(くろいかずち)】を放ち、グリゼルダたちが急所を貫くという戦法を取った。


「グリゼルダ、良くやってくれた。おかげで、グリゼルダの領地奪還に一歩近づいたぞ」

「なんと!? うれしいのじゃ!」


 俺がねぎらうと、グリゼルダは飛び上がって喜んだ。


 これであの魔法を試すことができる。

 使うだけで、神への反逆とみなされる禁断の闇魔法だ。1周目の世界では決して使わなかった。


「最後に残った、この方はいかがしましょうか?」

「はぁひゃあああああッ!」


 サーシャが男の首筋に、ナイフを突きつける。

 せっかく新しい服を買ってあげたのだが、サーシャはメイド服を着ていた。ゴミ掃除をするなら、この服なのだそうだ。


「死にたくなかったら、俺の質問に答えるんだ。聖女コレットは、王城のどこに幽閉されている? お前は誰の指示で俺を襲ったんだ?」

「知りません、知りません! 私は単なる現場指揮官です! 命令は伝令を通して上から来たので、わかりません!」


 男は必死に首を振った。

 ……そうだろうな。敗れた場合に、俺に情報を渡すような愚を聖教会は犯さないだろう。


「よし。準備ができたな、【ネクロマンス】発動!」


 地面に描いた魔法陣に魔力が満ち、禁断の魔法が発動する。

 死んだ300人の聖堂騎士が、緩慢な動作で起き上がった。


「ひぃいいいい!」


 指揮官が縮み上がった。


「なんと、300人規模の死霊操作とは! さすがはわらわの魔王様なのじゃ。恐るべき闇の力!」

「なるほど。なるべく損壊の少ない死体を手に入れたかったのは、死者の軍団を組織するためだったのですね」


 サーシャが感嘆の息を吐く。


「そうなんだ。俺が直接操る強力な軍団が欲しかったんだ」


 一糸乱れぬ統率の取れた行動と、死を恐れない勇猛さ。その両方を兼ね備えたのが、このアンデッド軍団だ。

 元となるのは、重武装した精鋭の聖堂騎士なので、戦力としてこれ以上無いものだった。


「こ、こここ、このようなこと、神はお許しにならんぞ! 邪悪な黒魔術師め!」


 指揮官が俺を断罪する。


「神が許さない? クズのような人間に勇者や聖者のクラスを与える神なんて、俺の方こそ許さない」

「ひぃ!」


 コレットのような心のやさしい人間が利用されて苦しみ、ヨハンのような下衆が高笑いしている。そんな状況を放置するどころか、あえて作り出した神など、俺は1ミリも信じていない。


 それに聖堂騎士団は、コレットを奪い去った憎い敵だ。俺の目の前に現れたら、全員、地獄に落とすと決めていた。


「マスターよ。監視者を片付けてきたぞ」


 アークデーモンが空を飛んで戻って来た。

 俺たちを追跡、監視していた聖教会の手の者を、アークデーモンに命じて討ち取らせたのだ。


「ご苦労。これで、ここで起きたことは聖教会には伝わらないな」


 俺が手勢を増やしたことは、誰にも知られたくなかった。

 未知の戦力があればこそ、奇襲は成功する。


「はひぃ、じょ、上位悪魔……ッ!?」


 アークデーモンを目の当たりにした指揮官は、声を震わせた。


「お前に選ばせてやる。こいつら同様、アンデッドになって俺の捨て駒にされるか。【魔王軍の幹部】の地位を得て、俺の元で栄華を極めるかだ。どうする? 5秒以内に選べ」

「……は、は、はひぃ! 忠誠を誓います! 魔王カイ様に忠誠を誓いますから、どうかアンデッドにはしないでくださぃいいいいッ!」


 指揮官は号泣して叫んだ。

 こいつは取るに足りない小物だが、指揮官クラスの者を寝返らせることができたのは大きい。

 せいぜい、利用させてもらうとしよう。


 俺はコレットの【時のミサンガ】を握り締めた。コレットを取り戻すためなら、俺はどんな手段でも取るつもりだ。

 

『聖堂騎士団300人を返り討ちにし、アンデッドの軍団にしました。おめでとうございます。最高の悪事です! 【イヴィル・ポイント】1200を獲得しました!』

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