アメージング・フェスティバル(一般サイド)

 僕の同棲している彼女は、プラモデルなどの模型を製作してお金をもらっている、いわゆるプロのモデラーだ。


 今日は、そういった模型の全国的な展示会『アメージング・フェスティバル』略称『アメフェス』というのがあるそうで、朝から出かけて行った。


 作成した模型の個人販売もするそうで、いつもは彼女のお父さんが手伝っているらしいが今日は都合が悪いそうで、僕が応援に行くことになっている。

 一緒に出発するって昨日提案したんだけど、なぜか固辞された。正午前に来てくれれば良いとのこと。幕張メッセは仕事のフォーラムや商品展示会で行ったことあるけど、模型の展示会ってどんなイベントなんだろう。


 コーヒーでも飲んでから準備をしようと、マグカップを持ってコタツに向かう。


「テーブルの隙間に、なんか粉詰まってるな……これどうしたら取れるんだろ」


 模型作りというのは、とにかく粉やらカスやらが出て、掃除してもなかなか全部は取り切れない。

 汚すなと怒るのも違うし、彼女の製作スペースの部屋を作ってあげれれば一番いいんだけど。


「広いところ引っ越したいなぁ。給料あがらんかなぁ」


 そんなことを独りごちながら、こたつのテーブルの隙間のゴミを楊枝で取っていると、テーブルの上のメモに気が付いた。僕宛のようだ。中を開く。


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今日、一緒にブースを出展する子と服の雰囲気を揃えようと思ってます。

↓こんな感じです。できる範囲でいいです。

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 メッセージとともにイラストが描いてあった。いつも思うけど、絵上手すぎないか。模型作る人って、みんなこうなのか。あと服の雰囲気を揃えるというわりには、やたら具体的な絵だな。


 ってか、そもそも髪の色がプラチナ寄りのライトベージュなんだけど。「できる範囲」だから、髪の色はまぁいいか。


 黒と白のライダースジャケットに、赤のカーゴパンツ。赤はねぇだろ、さすがに。若干ダークレッドの入ったジーンズでいいか。インナーは青寄りのグリーン。白のハイカットなミリタリーブーツ……持ってたかな。

 あとハーフリムの銀縁メガネね。視力はいいが、伊達メガネならたくさん持っている。なんか頭よさそうに見えるし。


 クローゼットを開くと、もう目の前にそれっぽいのが出してあった。


「ああ、見繕っておいてくれたのか」


 自分じゃ絶対にしない組み合わせだけど、たまにはいいかも。なにより彼女がファッションに興味をもつのは嬉しい。

 ただ、なんとなくしっくりこなかったので、インナーは白のショート丈のワイシャツとボルトグリーンの細身のネクタイに変更した。ブーツはグレーので勘弁してもらおう。2月のいまにこれでライダースだけでは寒いので、中にキャメルのカーディガンを着る。


 玄関の姿見で最終確認し、ボディバッグに彼女から渡された『ディーラーパス』を入れて、家を出た。


◇◇◇


 幕張メッセに着くと、矢印の看板を持ったスタッフがいたので分かりやすくて助かる。道なりに歩いていくと、最後のところで『一般入場』『ディーラー・コスプレ受付』に矢印の方向が分かれていた。


 えっと、ディーラー受付だよね。結構、人が多いなぁ。大きなスーツケースとか持ってる人もいるし、なんだか凄いな。


 並んでる列の最後尾に並ぶと、前の女性がめちゃくちゃ振り返ってきて三度見された。なんだろう。確かに海浜幕張駅についてから、すごいチラチラ人から見られるんだよなぁ。格好、変かな。そんなにおかしくはないと思うんだけど。


 受付の順番が来ると、受付の男性にディーラーパスを見せた。すると、なぜか上から下まで格好を見られて溜め息をつかれた。


「本当は、入場前の着替えは認められてないですが」


 ん???


「まぁ、露出があるわけでもないから、今回は認めますけど、次回からは気を付けてください」


 んんん????


「事前登録済でしたら、登録完了メール見せてください」


 ちょっと待て! 何の話だかサッパリわからない。


「あの。すいません。知人のブースの手伝いに来たのですが、事前の登録が必要だったのでしょうか?」


 もう登録必要なら先に言っておいてほしかった……。確かに販売の手伝いもするんだから登録必要なのかも。


 男性は、また溜め息をつくと、バインダーに挟まった参加登録用紙を出してくれた。後ろもつかえてるので、列から外れて記入をする。


 えっと「性別:男」、「年齢:25歳」、「参加経験:初めて」……


 ん?


「コスプレキャラクターが登場する作品名」・「コスプレするキャラクター名」


 ちょっと待て……待て待て待て……


「すいません……」


 受付の男性にまた声をかけると、ウンザリした顔で返される。


「もしかして、僕の格好、なにかのキャラクターなんでしょうか……?」


「そういうのいいから。早く書いてよ」


 これは……完全にハメられたな。とくかく彼女に電話しよう……。

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