37 卒業式


 卒業式は厳かに執り行われた。

 卒業生の挨拶はエリザベスで、在校生の挨拶はエドワードだ。


 今ではすっかりエドワードの想い人がエリザベスだったことが広まっており、好感度の高い二人だったため、そういう人選になるのも頷けるのだ。

 

 エドワードは、もともと成績は良い方だったが、エリザベスと婚約してからは、奮起して、主席をキープしているということもある。


 式中のエドワードは第二王子としてきっちり対応していたが、卒業式の後、エリザベスに駆け寄り、エドワード自身の言葉を告げた。

「ベス、僕はベスのいない学園にこれっぽっちも魅力を感じないんだ。あと1年で飛び級で卒業するから。待っててほしい」


 ソフィアとマリアベルは、エリザベスがわかりやすく赤面するのを初めて見た。


「私たちも卒業してしまったら、すぐに会える環境ではなくなるわね」

「ソフィーとマリィは帝国でいつでも会えるでしょうけど、私は寂しいわ」

「寂しいのは私たちも同じよ。ちゃんと手紙も書くし、交流しましょう」

「その寂しさもエドワード殿下が埋めてくれそうだけどね」

「マリィまでエドの話なの? 最近、来る人来る人、エドの話ばかり振ってくるのよ。なぜかしら」


 順調そうで良かったな、と思う二人だった。



 式の後の卒業パーティーは、卒業生とその家族や婚約者が参加する最後の行事だ。


 女子生徒の控室では、ドレスに着替え準備を終えた令嬢たちが集まっていた。


「今日の卒業パーティーは、誰が誰のエスコートをするか興味がありますわね」

「婚約者がいる方は、間違いなくそのペアですわね」

「意外なカップル誕生! とかならないかしら」

「レオナルド殿下は噂の美少女でしょうか?」

「結局その美少女が誰だったのかわからないままでしたわね」

「ダミアン殿下は?」

「そ、それは禁句ですわ」


「でもこの間学園に入学したと思ったら、もう卒業式ですわね。早かったですわ」

「今までたくさんおしゃべりできて楽しかったわ」

「卒業しても、お茶会したり旅行に行ったりしましょうね」

「そうね」

「賛成よ」

「私たちABC嬢は不滅ですもの」


 今更だが、クラスでおしゃべりが大好きな令嬢3人組は、本人たち公認でABC嬢と呼ばれていた。

 アリス、ブリジット、キャロルの名前から頭文字をとってABCなのだ。


 クラスの中では、彼女たちの噂話は密かに人気があったのだ。

 これも今日で聞き納めかと思うと少し寂しい気持ちになるのだった。



 卒業パーティーでは、ソフィアはレオナルドのエスコートを受けることとなっている。


 カチューシャをつけたソフィアのエスコートは、本当は父や兄に任せれば余計な噂を立てずに済むのだが、レオナルドはどんな姿であってもソフィアのエスコートをこの先誰にも譲る気はなかったのだ。


 卒業パーティーの会場に移動し入場する。


 エリザベスとエドワードは微笑ましく迎えられた。


 マリアベルとルイスのペアも、二人の仲の良さはクラスの公認だったため、やっぱりかという空気とともに、何人かの令嬢令息がうなだれた。


 そしてレオナルドがソフィアと入場した時は、少し会場がざわついた。

 もしかするとレオナルドは噂の美少女と参加するのではと勝手な憶測が飛び交っていたためだ。

 

A「こ、これは意外なカップル? なのかしら?」

B「やっぱり例の超絶美少女は見つけられなかったということ?」

C「身分的にはこの組み合わせはありかもしれないわ」


 残念ながらをエスコートし、嬉しそうにダンスをするレオナルドを見て、私も行けるのではないかと勘違いした令嬢が続出してしまったのだ。

 マナー違反にもかかわらずダンスの希望が殺到したが、レオナルドはソフィア以外の令嬢の手を取ることはなかった。



 ◇◇◇


 卒業式の後は、数日後に開催される王国の夜会で婚約を発表し、その後レオナルドの帰国に合わせて帝国に渡る予定となっている。



 ソフィアは、今日も引っ越しの準備をしていた。

 荷造りは使用人が行うものの、持っていきたいものの選別はソフィアの仕事だ。

 

 レオナルドも、帰国までソフィアの側にいたいと、学園の寮を出た後は秘密裏にエトワール侯爵家のタウンハウスに滞在していた。


 客室は父のでソフィアの部屋から一番遠い部屋だ。


 だが、常にソフィアを愛でたいレオナルドが日中ずっと側にいたがるので、引っ越しの準備に思いのほか時間がかかっていた。


「フィフィ、俺も手伝うよ」

「私の私物を見ても面白いものはないと思うわ」

「フィフィの私物という響きもいいな。思い出の品々にも興味しかない」


 一緒にドレスルームに入った時、過去の女子旅で着たルームウェア「魔女&メイド」を目ざとく見つけたレオナルドは、これも持っていくんだと張り切っていたが、ソフィアは荷物になるから断ろうとした。


「レオ、残念ですがその衣装は持って行ってももう着られないのです。いろいろきつくなってしまって」

「なっ……」


 なぜきつくなってしまったのかを瞬時に理解したレオナルドは慌てて部屋を出て行き、しばらく帰ってこなかった。


 結局「魔女&メイド&黒猫」セットはレオナルドの熱烈な要望により、帝国行きのボックスに収納されることになった。


 レオナルドが、今のソフィアに合わせてリサイズし、着せようと思っている、などということは、このセットが無事に帝国に届くまではソフィアには隠し通さねばならない。



 使用人たちも二人の甘さに、初めのうちは目を逸らしていたものの、だんだん慣れてきた。スルー力も必要なのだ。

 優秀な彼らの手によって準備は着々と進んだのだった。



 あとは王国の夜会を残すのみ。

 ソフィアがカチューシャを外す日が近づいていた。

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