17 3人のお茶会

 次の週末、エトワール侯爵家ではお茶会が開かれていた。エリザベス、マリアベルとソフィア3人の恒例のお茶会だ。

 学園では話しにくいことを気兼ねなく話せるため、お互いの家を順番に会場にして、何度か開かれている。


「相変わらず、エトワール侯爵家はスイーツが充実しているわね」

「お兄さまが、たまたま偶然入手したって言うのよ?」

「それ、絶対偶然ではなくてよ」



 しばらく談笑していたが、エリザベスが改まった表情に変わる。

「実は二人に報告があるの」

「ベス、実は私も」

「えっ、マリィも? 実は私も聞いてほしいことがあって」

「ソフィーも? 今日は長くなりそうね」


「でも今から話す内容は、公になるまでは3人だけの秘密ね」

「「もちろん」」



「では、ベスからどうぞ」


「じゃあ報告するわね。私、婚約者が決まりました」

「ベス! おめでとう!」

「さすがベスね。引く手あまたですもの」


「お相手の方はまだ内緒なの?」

「準備が整ったら公表されると思うわ。だから二人には少しだけ先に伝えておくわね」

「ありがとう、ベス」

「うれしいわ」


「少し前に、王妃様からお茶会のお誘いがあって……、ダミアン殿下の婚約者候補の再打診だったら嫌だなと思ったけど、断れないでしょ? そうしたらそこにエドワード殿下が来たのよ」

 エリザベスは少しだけ恥ずかしそうに話を続ける。


「エドワードから『ずっとあなたのことが好きでした。僕は兄のようによそ見はしません。年下だけど頼れる男になるよう頑張るから、僕の婚約者になってください』って告白されたの」


「誰かさんより誠実でいいわね」


「今このタイミングでこんな告白をされたら……、エドワードを支えて行きたいなって感じてしまって、気づいたら「はい」って返事をしていたのよ」

「あら、慎重なベスにしては珍しいこともあるのね」

「こういうことは勢いとタイミングも大事だって何かの本で読んだわ」

 ソフィアとマリアベルは、嬉しそうに話をするエリザベスを見て本当に良かったと思うのだった。


 王妃様のお茶会名目で呼ばれたのなら両陛下公認といってもいいだろう。

 つまり、エドワード殿下が王太子最有力候補だ。そしてエリザベスなら王太子妃にふさわしいだろう。



「次は私ね」

 マリアベルが話し始める。

「私、あるお方と結婚を前提にお付き合いすることになったの」

「まあ、おめでとう! こちらもおめでたい話ね」


「実は、少し前からその人のことが気になっていたんだけど、ダミアン殿下の婚約者候補のうちは心に秘めておくしかなくて苦しかったの。だから、あのダンスパーティーの後に自分から告白することにしたのよ」

「マリィが自分から?」

「マリィはこういう積極的なところあるわよね」


「放課後、学園の庭園に来てもらっていざ告白しようとしたら『ちょっと待って』って止められちゃって。ふつうこの反応って見込みがないということでしょ?」

 マリアベルは恥ずかしそうに続ける。


「そう思っていたら、彼が私の前に跪いてこう言ったの。『マリアベル嬢、あなたが好きです。僕と結婚を前提にお付き合いしてください』って。このネックレスはその時にもらったのよ」


 マリアベルの首にかけられたネックレスは、デザインが洗練されていて、ついている石も高価なもののようだ。


「その後、『告白は自分からしたかったから、君の言葉をさえぎってごめんね』って抱きしめてくれて。もう私、本当に嬉しくて、早く二人に報告したかったの」


「それで、その方は誰なの?」


「……帝国のルイス・クラーク様よ」

「「ええ~~~~!」」


「あら、いけませんわ。淑女らしからぬ反応をしてしまいましたわ」

 エリザベスがすまし顔に戻る。


「でも、驚いたわ。ルイス様ってそういう部分、ドライな感じに見えるのに案外ストレートなタイプだったのね」


「明日は、城下の美術館でお忍びデートの約束をしているの」

「素敵ね」

「デート、少し離れてついていこうかしら」

「ソフィー、それをお邪魔虫って言うのよ」

「冗談よ」



「最後は、ソフィーね」

「えっと、私の報告は、二人の話みたいにおめでたい感じとは違うけれどいいかしら?」

「もちろん」


「実は、私がいつもつけているこのカチューシャは魔道具なの」

「えっ、そういう話?」

「どんな魔道具なの?」

「見た目の印象を変える魔道具よ。家族と昔からの使用人と両陛下しか知らないことなの」

「ソフィー、そういう大事なことを私たちに言ってしまっていいの?」

「大丈夫。誰かに話すなら最初にベスとマリィにってずっと思っていたの。お父さまやお兄さまも二人にならいいだろうってことになって……。隠し続けるのもそろそろ限界なのよ。少し勇気がいるけど……外してみるわね」


 そう言うと、ソフィアは、そっとカチューシャを外す。


「「!!!」」

「ちょ、ちょっと待って、ソフィーあなた……印象変わりすぎよ」

「び、美少女すぎるわ。そのお顔では学園中、いいえ社交界が大騒ぎになるわ」


 エリザベスが思い出したように話し出す。

「私、一つ疑問が解決したわ。小さい頃、エトワール侯爵家のお子様は二人ともきれいなプラチナブロンドの髪をしているって聞いたことがあって。でも学園でソフィーに会った時、ブラウンの髪色だったから、私の記憶違いだったかなって思って納得していたの」


 ソフィアは、素顔を隠すことになった経緯を二人に簡単に説明した。


「でね……、音楽祭のちょっと前にレオナルド殿下にうっかりこの姿を見られてしまって……。殿下が探しているという令嬢は…… たぶん? 私?」


 エリザベスもマリアベルも絶句だ。


「『君は誰? 名前教えて!』って迫ってくるから『フィフィ』って愛称だけ伝えて逃げているの。まだ同じクラスのソフィアだって気づかれていないわ」


「……」

「……」


「ソフィー、なにもかも想定外だわ」

「ソフィーはこういう隠し玉を持っているタイプなのよ」


「言われて見れば、確かに、プラチナブロンドにエメラルドグリーンの瞳の美少女ね」

「マクシミリアン様にそっくりだわ。やっぱり兄妹なのね」


「噂では精霊に導かれたんでしょう? 精霊に会ったの?」

 エリザベスに聞かれソフィアは頷く。


「レオナルド殿下の精霊は、小さい黒猫の姿をしていて、普段は殿下の肩に乗っているのよ」

「小さい黒猫? 見てみたいわ」

「肩の上? いつも見えているの?」

「いないときもあるけど、見えてるわ。だから殿下のお顔より肩の上ばかり見てしまうの。本当に黒猫様がかわいくて」


((これは、レオナルド殿下片想い? なパターンかしら?))


「で、ソフィーは名乗り出ないつもりなの?」

「今はまだ心の準備ができていなくて。大勢の人の前でカチューシャを外すのが怖いの」

「とは言え、ソフィーが帝国皇太子のお妃にふさわしい令嬢なのでしょう?」

「う~ん。レオナルド殿下は、『交流を深めたい』とだけ言っていたから、たぶん私は妃としての縁ではないと思うの。ベスやマリィみたいに告白されたわけでもないし。たぶん『精霊が選んだから何かしらご縁はある』存在だけど、まだどういうご縁かわからず見極めようとしている段階ではないかと思っているの。ほら『他国の気が合うお友達』だってご縁と言えばご縁でしょ?」


「お友達……ね」

 エリザベスとマリアベルは、自己評価の低いソフィアがちょっと心配になった。


「マリィ、まだルイス様には内緒にしておいてね」

「もちろん親友の秘密は守るわ」

「ありがとう」


 3人のお茶会は、記者が聞いていたらスクープだらけの内容で幕を閉じた。


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