12 それぞれの反応

 王宮では両陛下とダミアンが対面していた。

「ダミアンよ。婚約者候補の白紙撤回とは……。せっかく優秀な令嬢が揃っていたのに。まったく、なんてことをしてくれたんだ!」

「ですが父上、あの3人は身分を笠に着て、下の者をバカにしたりのけ者にしたりするような卑しい性格なんです。王子妃にふさわしくないではありませんか」

「馬鹿もの!! お前は、彼女たちが実際にそのような行動をとっている場面を見たのか? 証拠はあるのか? まさか、そのリリ何とかという娘の一方の意見しか聞いていないとか言わないだろうな」

「リリアーヌが嘘をついていると言うのですか? 彼女は泣いていたんですよ。そんなはずありません」

「ニセの涙にだまされおって。婚約者候補が白紙になったとしても、その娘を次の婚約者候補にすることはない!

 調べさせてもらったが、学力は下の中、マナーは5歳児レベル、なのに学園中の令息たちに手当たり次第声をかけて風紀を乱している。学園の女子生徒の中で一番王子妃にふさわしくないのがそのリリ何とかだ!」


「そんな……」

「もうよい。ダミアンは1週間、自分の部屋で謹慎するように。誰か連れていけ!」


 ダミアンは近衛騎士によって、連れ出された。


「あなた、あの3人に事情を説明してもう一度候補に戻ってもらうことはできないでしょうか」

「もう、難しいだろう。王家の名を使って宣言したんだ」

「では、仕方ありませんね。エドを呼びましょう」



 しばらくして、部屋に入ってきた第二王子エドワードに、両陛下が話をする。


「エド、ダミアンの婚約者候補が白紙となった件は知っているな?」

「はい。私も会場にいましたので」

「そうか。実はお前の婚約者をそろそろ決めたいと思うのだが、どうだ?」

「父上、母上、前にも話したとおり私は以前から慕っている女性がいるのです。片想いですが、まだ諦めたくありません」


「エド、その慕っている女性というのは、母に話せないような令嬢なのですか?」

「いえ……、実は*****嬢なのです」

「まぁ! まぁ、なんてこと。いつから想っていたの? 言い出せなかった理由もそう言うことね。あなた、早く打診を!!」

「母上、僕は彼女の気持ちを大切にしたいのです。先に告白させてください」

「そうね。エドらしいわ。頑張るのよ。では、母のお茶会として彼女を王宮に呼びましょう」



 ◇◇◇


 一方、エトワール侯爵家では……

「なにぃ! 婚約者候補が白紙だと!」

「父上、落ち着いてください」

「お父さま、私傷ついておりませんわ。むしろ嬉しさの方が勝ってしまって」

「いや、そうではない! 今日はもう遅いから明日だ、明日祝宴だ!! 使用人も入れてみんなで祝おうではないか。セバス、手配を頼む」

「かしこまりました」

「……お父さま……」


 もともとあのダミアン殿下の候補になったことを不服としていたエトワール侯爵家は皆大喜びだった。

 翌日宴会を開いて盛り上がったのだ。



「しかし、父上、国王様や王妃様がもう一度、候補者の復活を打診してきたりしないでしょうか?」

「流石に『王家の名のもと』の宣言だから可能性は低いだろう。今回の件は新聞にも載ってしまったからな。これでダミアン殿下の立太子は厳しくなるだろう」


「となると、今度は第二王子エドワード殿下の婚約者探しですかね……」

「なんだ、マックス、何か気になることがあるのか?」

「父上、エドワード殿下の想い人のことですが、それが誰かご存じですか?」

「いや、わからないよ。殿下は側近にも話をしないそうだ」


「実は……去年参加した王家主催の夜会で気づいてしまったんですが、おそらく殿下の想い人は……」


「……もしその令嬢なら、両陛下も反対しないだろう。これは急いで対策を取らないと、ソフィーの縁談が増えてしまいそうだな」


「そうです。ですが、ソフィーにふさわしい人物でなければ、認められません」

「私としても、ソフィーにずっと魔道具をつける人生を歩んでほしいわけではないんだ。冷静に考えてソフィーを守れるだけの力を持った人物は、悔しいがいま一人しか浮かばない」

「『精霊に導かれた帝国皇太子の唯一』をどうにかしようとする愚かな人間はまずいないでしょうからね」

「ソフィーに魔道具を外す心の準備をさせないとな」



 ◇◇◇


「レオ様、エトワール侯爵家の血縁関係でお年頃の令嬢はソフィア嬢以外はいませんでした」

「そうか、この線もダメだったか」

 普段、表情を顔に出さないレオナルドもルイスの前ではがっかり感をあらわにしていた。


「マクシミリアン卿は、亡き侯爵夫人ジュリア様にそっくりだそうです。ジュリア様の生家である伯爵家の血縁もかなりたどったんですが、お年頃に該当するのは男性ばかりでした。残念です」


「……マクシミリアン卿とソフィア嬢は兄妹だが似ていないんだな」

「それなんですが、エトワール公爵家の兄妹は二人ともプラチナブロンドだったと、かなり前に引退した元使用人が言っていたのが気になるところです」

「成長すると髪色は多少濃くなる場合もあるが、プラチナブロンドがあのブラウンになるものなのか? どういうことだ?」

「元使用人もだいぶお年を召しているので勘違いの可能性もありますが、もう少し調査を進めます。ただ……」

「……ただ?」

「エトワール侯爵家のガードが固く、いつものペースで密偵が動けない状況でして。本気を出す必要があります」

「わかった。影を使ってくれ」



「では、それまでの間、気慰みにマクシミリアン卿の絵姿でも手に入れてきましょうか?」

「さすがに男の絵姿を眺める趣味はない」


「でも、絵師に頼んで髪型をロングに描き加えれば妄想上の天使な令嬢ができ上がりますよ」

「……。だから妄想じゃないと言ってるだろう」

「そのは何ですか? 欲しいなら欲しいと素直に言えばいいのに」

 今日もレオナルドいじりは健在だった。

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