ロボット手術

月森 乙@「弁当男子の白石くん」文芸社刊

第1話

 今まで近況ノートにて、「WIFIが使えない環境に行く」だの「音信不通になる」だの言って、ミステリアスな女を演じてきましたが。


 なんのことはない、ただの検査をしていただけでした。


 きっかけは、友達から無理に検査の予約を入れられてしまったこと。


 そしてとうとう、手術をすることになってしまいました。


 とはいっても、深刻なものじゃないです。「取っても取らなくてもいいけど、取らなかったら薬で対処療法するしかないんだから、いっそのこと取っちゃえば?」 程度のノリです。失敗しない女医にお願いしなければいけないことも、トラベルするナースにお手伝いいただかなければならない、ということでもありません。


 そしてなんと。


 執刀するのは、ロボットです。


 先生曰く、

「ほらー、あたしたちがやると、傷口から棒みたいの突っ込んで広範囲に広がったのを切除するからさ、ぐりぐり動かして傷口広がっちゃうじゃん? でもロボットだったら、中でシャキーンって腕が広がって切除してくれるから、傷口が浅くて済むのよねえ」

 とまあ、かるーい感じで言われたので、こっちもかるーい感じで、

「えー、やるやる!」

 ということになったのでした。


 人生初の手術がロボット、というのは、私的には大変ワクワクすることですが、そんなことを言ったら家族に怒られてしまいました。


 不謹慎だ、と。


 でも、仕方ないですよね。気分は医療ドラマの出演者なんですから。担当医はフツーの女医さんですが、カルテの中の「施術者 チームDr.〇〇」って書かれているのを見たり、「彼女、ロボ手術のエキスパートなの。当日はヘルプに入ってもらうから」などと、ほかの先生まで紹介されると、まるで悪徳患者役になったみたいでテンション爆上がりです。全員がチームバチスタとか失敗しない女医に見えてきます。

 手術時間は六時間。どんな施術をしているのか、二時間ごとに写真を撮ってダンナのスマホに送信までしてくれるそうです。「せっかくなので、私の体にロボットアームがつきささっている写真も送ってほしいのです」と言ったのですが、こちらは、「ググれ!」といわれてしまいました。持ち場は離れちゃいけないみたいです。


 完治するまでには四週間から六週間はかかるらしいですが、術後は麻酔から覚めたら家に帰れるそうですから、これほど心強いことはありません。


 だって、アメリカの病院に入院とか、絶対イヤですから。


 ナースは優しくないし、入院食はフツーにハンバーガーとかだし、私の知っている病室と言えば、だだっ広いところに何台もベッドを並べてカーテンで仕切っていて、機材とか、ナースステーションとか、一か所にごちゃごちゃある、まるで野戦病院のようなところだからです。


 そうじゃない病院もあるとは思うのですが、そうだったらいやですよね。だから、ここは大事をとって家で療養、ということに決めました。

 病院の先生曰く、「家で療養する方が治りが格段に速い」ということで、積極的に家に返しているとのこと。


 ありがたい話です。


 なんか面白そうじゃないですか? ロボット手術。





 はい。ここからはグロいことが出てきます。お食事中の方、スプラッターお嫌いな方、この一節だけは飛ばしてください。




 昨日、Pre-Opというのに行ってきました。手術前に色々説明されるやつです。

 では、私の症状からご説明。

 英語なのでよくわからないのですが、子宮筋腫と子宮肥大とか、そういうやつだと思うんです。調べたんですけど、先生の説明とグー〇ル翻訳がかみ合わない。子宮の外に七センチ大のできものがふたつ(こっちをpolypsと説明してました)。で、内側にfibroidsがたくさん。中にできてるか外にできてるかの違いだけで、どっちでも同じじゃないの、と思ったんですが、どうしてもその二つを別物だとカウントしたかったらしいので、そうさせてあげました。


 というわけで、子宮全摘。


 いやあ、確かに生理時の出血はすごかったですよ。生理ナプキンの一番大きいやつが三十分で真っ赤に染まるほど。それを毎月三日間ぐらい乗り越えるわけです。けど、貧血にもならなかったし、倒れることはおろか、めまいさえ感じなかったんです。食欲は減らないし、おなかの痛みもぼんやりとしかないし。


 そもそも、大量出血が始まったのは長男を生んだ直後。生んだ後に、「小さいポリープが六個あって、一番大きいのが二センチくらいだから、そのままにしておいたよ」なんて言われて、「ああ、そうですか、どうも」と、言ったのは覚えています。


 ただ、その後の一年間、大量出血し続けたんですよね。でも先生に言ったら、「あー、産後あるあるだよ」というので、「あるあるなんだー」と返してそのままだったんです。


 まさか、十年の間にこんなことになっているとは。


 もともとこぶし大ぐらいしかない子宮が両脇腹と胃のところまで広がっている、とのこと。外から触っても中で動く気配がないので、下から取り出すのは不可能らしいです。


 本当はきれいなまま取り出した子宮がどれくらい成長したのかを見届けたかったのですがそれはかなわない模様。


 ロボットアームは胃の下に、アンダーバストのラインと平行に四本の穴をあけます。そのちょっと上に一つ。けれど、臓器を取り出すために、おへその下を五センチから十センチほど切り、砕いて取り出した子宮をそこから外に出すとのこと。


 ここまで聞いたらドラマの出演者気分はちょっとお預けでした。


 とにかく、実家の両親にはこれは説明できないな、と、思いました。

 同時に思ったこと。


 なぜ、食欲が減らないのか。


 どんなにお医者さんが、「胃のあたりの不快感とか、食欲減退とかない?」って、ほぼほぼ「あります」っていう答えを期待してるみたいに何度も聞いてくるのに、「いえ。男子高校生ぐらい食べてます」としか答えようがない。


 だから、おなかが妊娠六か月ぐらいの大きさになって来ても、「あー、最近食べ過ぎてるからなー」って言いながら、サイズの大きなズボンを買い直すだけだったんです。「アメリカのごはん、まずいからなー」って言いながら、食べまくるんですよ。


 それだけ大きな子宮を取るんだから、もう少しお腹が小さくなるといいなあ。


 今思うのは、そこですね。


 ……とまあ、現在の進捗状況はここまでです。

 術後にまた結果報告をしようと思います。手術はこっちの時間の12月8日です。

 乞う、ご期待!

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