第2話 おっぱい?(*´・д・)ノ

 北にある雪深い街・コゴエジヌでマリューとソルは魔物と敵対していた。それはガリアの刺客だった。

「おっぱいぱい!」

 マリューはおっぱいで防御し、おっぱいで圧死させていった。

 おっぱいに埋もれ、幸せそうに消えていく魔物たち。

 おっぱいは魔物すら倒してしまうのだった。

 俺はジト目でマリューを見やる。

 この女の子、おっぱいを武器にすることに長けている。

 近寄ってきたガリアの軍勢。

 ダークウルフという狼種おおかみしゅの額に角が生えた魔物だ。

 魔物の角がおっぱいにぶつかると、ポキッと折れてしまう。

「へええい」

 マリューはそのおっぱいを揺らしながらダークウルフの脇腹を叩く。

 打撃を受けたダークウルフは骨を砕かれ、内臓が傷つき、そのまま霧散する。

 魔物は死ぬと遺体を残さずに煙りのように消えていくのだ。

 マリューはおっぱいをさすりながら、周囲を見渡す。

 俺は投げナイフでダークウルフの一匹を倒す。

 バルンバルンとおっぱいを揺らし、ダークウルフに迫る。

 が、ダークウルフはキャンキャンと鳴きながら森の中に消えていく。

「おっぱいが怖かったのかな?」

「そうかもね……」

 じっと見つめるおっぱい。

 その膨らみはつい目を奪う。

 男なら仕方のないことだ。うん。そうだ。


 サムイサムイ村についたのは午後十時頃。

 宿屋を探すといつの間にか十二時を過ぎていた。

 宿屋ではベッドに身体を預けるとそのまま眠りについた。


 次の日の朝。

 俺は顔を洗うため、宿屋の裏手にある井戸に向かう。

 と、そこには先客がいた。

 しかも生まれたままの姿で。

「きゃ、そ、ソル。覗きは禁止よ」

「す、すいません。そんなつもりじゃなかった!」

 俺はマリューに謝ると壁の裏に隠れる。

「もう。エッチなんだから」

 そうだ。俺はエッチな人間なのかもしれない。

 確かにあのふくよかな胸には興味を惹かれる――。

「ん?」

 よくよく思えば、なんで水浴びをしているんだ? しかもこんな時間に?

「えっと聞いていいか?」

「なに?」

 怪訝そうな声音を上げるマリュー。

「別に女子が使うとは言ってなくね?」

「あ」

 おけを落とす音が聞こえた。


「しかし、その胸、しぼんでない?」

 俺が訊ねるとマリューは困ったように眉根を寄せる。

「うん。そうなの。盾にも、矛にも使えるのだけど、使えば使うほど、小さくなっていくの」

 どんどんと小さくなっていくおっぱい。

 それに頼って戦っている以上、おっぱいの可能性は低い。

 おっぱいが健在ならば、いつでも戦える。でもそのおっぱいが弱まっているとき、人はどうすればいい。

「みんな貧乳派になるのかな?」

「ど、どういう意味!?」

 マリューが胸を隠すように俺と距離をとる。

「え。いや、そのまま小さくなったらみんな巨乳派ではなくなるのかな、って。そう思ったらつい……」

 言葉尻がしぼんでいく。

 無理もない。

 セクハラ発言だったのだ。

 デリカシーに欠けると言い切れるだろう。

「すみません。この話はやめましょう」

 俺はそう提案すると、マリューは未だに警戒しながら頷く。

 朝食をすませ、俺たちはナイナイ村に向かって歩き出す。

 そこにガリアがいるらしい。二日前の情報だ。

 まだ近くをうろついている可能性も高い。

 行く価値は十分にある。

 俺とマリューは朝支度を整えて、ナイナイ村に向かって歩き出す。


 その道中、しんしんと降り注ぐ雪の中、俺とマリューは防寒着を着込んでぎゅぎゅっと新雪の感触を楽しみながら歩き続ける。

 吐く息が白く、霧散していく。

 が、マリューはあんまり寒そうにしていない。

 おっぱいか? おっぱいの影響か?

 俺がジト目を向けていると、マリューが気がついたのか、胸元に手を伸ばす。

 やはり胸か。

 そこから、握られたものを見やる。

「これ火炎石かえんせき、熱を放出し続けるの」

「あー。デスヨネー」

 棒読みになる俺。

 何を期待していたのか。

 俺も胸で暖まりたいなどと、思っていたわけじゃないんだからな。


 おっぱい。

 それは胸部にある皮下脂肪の塊と勘違いされがちだが、実際は魔力の貯蔵庫といわれている。

 マリューはその貯蔵された魔力を使い、魔法を反射したり、武器に使ったりする。

 だが、これは通常ならあり得ない現象だ。

 まず魔力を操作できる人がいない。普通は体内を流れている魔力経路と呼ばれる場所から魔力穴まりょくけつと呼ばれる吹き出し口を使うのだ。それは胸には少なく、ほとんどが手のひらと足裏に集中している。

 魔力は通常、噴出している間に強化される。

 おっぱいは魔力強化されない――それがこの世界の常識だった。

 マリューはその敏感な操作でおっぱいからビームを出せるほどになっていた。

 そのビームも魔力をコヒーレント化したもので、簡単に言うと電磁波に変換しているのだ。


 マリューと一緒に歩くこと数時間。

 ナイナイ村にたどりつくと、俺とマリューは聞き込みにかかる。

 が、周りには人が少ない。

「失礼。ここの村人ですか?」

「おお。これは旅の方、すみませんが、この村はもう終わりじゃ」

 長老や村長と思われるご老人を見つけると、話しかけてみた。

 苦々しく吐き捨てるご老人。

「もう、お終いじゃ……」

「どうしたのですか?」

「わしらは目をつけられておる。もうじき、すべてが終わる」

 目を爛々らんらんと揺らして地面に手をつける。

「大丈夫ですか? 俺らに何か出来ることはありますか?」

「旅の方、逃げろ。すべてが終わる」

「それならわたしがなんとかするわよ」

 マリューは胸を強調するかのようにお腹辺りで手を組む。

「おお。おっぱいの大きい方、なにができましょうか?」

「まずは説明責任を果たしなさい。それにわたしはおっぱいじゃない。マリューよ」

「おっぱいの方。分かりました。すべてを話します」

 このナイナイ村にガリアの軍勢が押し寄せているという。

 畑や家畜をそのままに奪うつもりだそうだ。

 この村を攻めているというのは誤情報だったらしい。

「いいじゃない。これから攻めてくる軍勢を押しのける。わたしならできるわ」

「ああ。やってやろう」

 おっぱいを揺らしながら応えるマリュー。

「無駄死にする必要はありません。わしらだけで十分なのです」

 長老はそういい、俺たちを逃がす手はずを考える。

「いや、わたしは奴を倒すために生きてきた」

「俺もだ。長老。悪いが今回は俺たちのために逃げてくれ」

「わし、が逃げる……?」

「そうだ」

 俺は鷹揚に頷くと、長老から血の気が引いていく。

「わしに生きろと言うのか?」

「戦闘の邪魔になる。行け」

 俺とマリューはその場にとどまることを選択した。

 決戦は近い。

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