おっぱいは最強の矛盾(ほこたて)! ~短編~

夕日ゆうや

第1話 おっぱいヽ(゜Q。)ノ?

 おっぱいは最強のほこであり、たてである。


 おっぱいの大きな彼女は一人この世界をさまよい歩いている。復讐のために。


 魔法と剣のファンタジー。

 アルスエイトからアルスシックスまでを掌握している虚竜王きょりゅうおう『ガリア』。

 その部下であるアリア。

 陶磁器のように白い肌に、エメラルド色の瞳。金色の髪を腰までながし、彼女の前に対峙する。

「私はアリア! ガリアの憲兵だ!」

 錫杖を構えると、詠唱を始めるアリア。

 放たれた火球は彼女に遅いかかかる。

 受けた火球が爆炎を吹き上げ、蛇がのたうち回ったかのように焔をまき散らす。

 だが――。

「これが火炎魔法? サウナかと思ったわ」

 彼女は紅蓮の焔の中、おっぱいを揺らしていた。

「お、お前はなんだ……?」

 すべての焔がおっぱいに吸われていき、やがて消えていく。

「わたしの名はマリュー。マリュー・ディッフング」

 マリューは大きなおっぱいと並外れた綺麗な顔をしている。その小柄な体躯は一部を除いて幼女じみている。

 アリアは剣に構え直し、睨み付ける。

 殺気。

 それだけで低級悪魔なら殺せてしまうほどの圧。

 それをアリアは向けているのだ。

 アリアは地を蹴り、一気に肉迫。剣を振り下ろす。

 一連の動作がまるで芸術品を見るかのように美しい。

 と、マリューはおっぱいを前に逸らす。

 ボイイイン。

 胸は衝撃を吸収し、切れることなく弾いていく。

 わたしはそのままおっぱいで殴りつける。

「ぐっ!」

 アリアはそのまま、後ろにのけぞる。

 逃げようと亜竜ありゅうの背に乗る。

「逃がさないんだから!」

 おっぱいの先端をアリアに向けるマリュー。

「おっぱいビーム!」

 おっぱいからビームが放たれた。

 荷電粒子砲。

 電荷を持った粒子が高速で放たれた斥力。

 アリアの腹を穿つその力は魔法とも、神通力でもない。

 おっぱいの力なのだ。

「ぱ、パイオツから、……貴様、何者……」

 血の泡を吹き出すアリアは途切れ途切れに言葉を発する。

「ふむ。このまま死なすのは惜しいな。わたしの仲間にならないか? アリア」

「そんな、の……!」

 アリアは認めるか、と言った顔で睨む。

「残念だ。一人旅も飽きたというのに」

 マリューは落ち着き払った顔でアリアを見つめる。


 墓を作ったあと、マリューは近くの街に止まることにした。

 門を見つけると、門番と少しやりとりをする。

「しかし、いいパイオツを、いやなんでもない。旅人か?」

「見て分からない?」

「その年で旅とは。大変だな」

 門番はわたしのおっぱいばかりみている。

「ふふ。ありがと」

「良い宿屋、知っているぜ? おれが紹介するぜ?」

「考えておくわ。じゃあね」

 マリューは手を振り、町中の雑踏に消えていく。

 先ほどのナンパはマリューにとっては嫌いなタイプの人間だ。

 食堂に着くと、マリューは栄養を貯め込むために、大きなマンガ肉にかぶりつく。

「相席、いいですか?」

 またナンパか。

「どうぞ」

 対応する気もなく、適当にあしらうつもりだ。

 しかし、目の前の焦げ茶の外套を身に纏った少年は、本当に、ただ本当に食事をしているだけだった。

「きみ……?」

「ん? 姉ちゃんも旅人かい?」

 おっぱいばかり見てくるそこらの男とは違う。

 マリューにとって、顔しか見ていないこの少年が気になるのだった。

「そうだ。この辺りに良い宿屋知らない?」

「ん? じゃあ、俺の借りている宿屋に来る? 空き部屋があるかは分からないけど」

「そうね。行ってみようかしら?」

 これが彼なりのナンパだったのかもしれない、とマリューは思ったが、それも実際はどうなのか分からない。

「あなたの名前は?」

「俺? 俺はソル。ソル・ブラッド 姉ちゃんは?」

「わたしはマリュー・ディッフング」

 屈託のない笑みを浮かべるソル。

 その可愛さに電気が走ったかのように顔をほころばせるマリュー。



 宿屋『ばくらい』。

 店主はアンチ=ビームと名乗っている。

 いかにも偽名だが、ソルはここを気に入っているらしい。

 ソルが前に出て訊ねる。

「もう一部屋空いていますか?」

「ああ。空いているぞ。そっちの爆乳ねーちゃんが、か?」

「そうよ。料金は?」

「そこに書いてあるぜ?」

 店主が横目に見やる。そこにある紙に書いてある金額を見て、妥当な値段だと判断する。

「じゃあ、一泊」

 マリューはにこりと笑い、金貨一枚を渡すと、部屋に案内される。

「俺も明日にはここを旅立つ。姉ちゃんは?」

「わたしは北のガリアを討つ」

 ひゅーっと口笛を鳴らす店主。

「それなら、道中、俺が案内するよ」

「え。でも、ソルは自分の旅があるでしょう?」

「王を討ち取る。それは俺の旅の理由なんだ」

 ソルは自慢げに胸を張る。

「そっか。分かった。一緒に行こう」

 マリューはソルの笑みに救われたのだ。

 今まで一人で闘ってきたせいか、仲間の存在がいるのを感じて嬉しくなる。

 その日の夕食はソルと一緒に囲んで食べた。

 他愛のない話で盛り上がり、自分たちの過去や住んでいた街などを話しているうちに、親密度を上げていった。

 マリューは12の時からおっぱいが大きくなり、そのまま成長を続けたという。

 ソルは14の時に神から天啓を受けて、旅を始めたという。ソルは二つ下の15歳。それはマリューにとっては驚きであった。

 15で成人を迎えるこの国。結婚など、浮ついたことの一つや二つはあるのだ。

 そして17になったマリューはそれこそ、もらい手のない年齢になっていた。

 だが、マリューは両親のかたきを、弟のレイの仇を討つため、生きてきたのだ。

 喩え、この身が怨嗟の焔で焼かれようとも、復讐を成し遂げる。

 それがマリューが生きている証であり、意味であった。


 深くまで知ったが、二人は一緒の部屋に行くわけでもない。

 意気投合したところもあるが、やはり他人としての気持ちが強い。

「俺は、……爆乳が嫌いだ」

 そう呟くソルの言葉は闇夜の空に霧散して消えていく。

 ソルは爆乳が嫌いだったのだ。

 だが、それでもマリューは好ましいと思った。

 見た目ではない。中身に触れたのだ。

 姉ちゃんと変わらない年で、復讐と言っているのは、危なっかしさと同情を誘った。ソルが動くには十分な話だった。

 一方のマリューは死んだ弟レイに似たソルが放っておけなかった。しかもその若さで王の討伐を命じられているとは。

 彼は何かしら特別な才能を持っているに違いない。

 そう思い、二人は別々の部屋で眠りにつく。


 明日から、虚竜王きょりゅうおう『ガリア』の討伐に向かうのだ。不安は隠しきれない。

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