1日目 白い部屋の午後「廊下と入室」

 



 結局、昼食までの時間を、一人掛けの椅子に座って庭を眺めたり、向かいの長いソファに寝転びながら薪ストーブの窓の向こうの薪の炎を眺めたりして過ごした。

 ビリヤードでも… とも思ったが、玉はあっても、なぜか、撞くキューが見当たらずできなかった。

 

 昼食、といったって、元より、お昼の時間なのかどうかすらわからないの状態なわけだが、身体をほとんど動かしていないからお腹は減っておらず、食パンと卵と牛乳でフレンチトーストを1枚だけ作って食べた。

 まあ、昼食後の「白い部屋に入る」というルーティーンが気になってそそくさと昼食を済ませた、の方が言い得ていたかもしれない。



 ルーティーンに書かれている通りにビリヤード台が置いてある空間の白いドアを開けると、天井と壁が白くて、床だけが薄いグレーのカーペットが敷いてある廊下が前方に続いていた。ドアを開けてすぐの床に白いデッキシューズが置いてあったので、私はそれを履いて歩くことにした。薪割り用の長靴同様、このデッキシューズの履き心地も良かったので、私の足のサイズに合わせて置いてくれたのだろうと思った。


 廊下は、薪ストーブのある部屋と違って、空調が効いているらしく暖かだった。ただ、壁にも、天井にも温風の吹き出し口が無く、どのように温度管理しているかはわからなかった。

 廊下を歩いていくと、左右の壁に幾つかの白いドアが点在していたので、試しにいくつかのドアノブを動かしてみたが、鍵が掛かっているらしくどれも開かなかった。


 30メートルほど歩いただろうか、廊下は行き止まりになっていた。来た廊下を戻ろうと振り向くと、左側の白いドアに青い液体が入った白いバケツの小さな絵が貼られていることに気が付いた。そのドアノブを回すと手応えがあったので押し開くと、前方にまたもや白い天井と壁とグレーのカーペットが敷いてある廊下が前方に続いていた。そして、その廊下をしばらく歩いていくと、左側に青い液体が入ったバケツの絵が貼ってあるドアがあったのでそのドアを押し開いたら、また、長い廊下が前方に続いていた。


 私は、そうやって歩いて行き、8つか9つ目のバケツの絵があるドアを押し開いたところが目的地の「白い部屋」だった。

 私が部屋に入ると、天井にある蛍光灯が埋め込んであるらしい白いパネルが自動で明るくなって部屋の内部の様子が分かった。白い部屋は、窓が無く、床も壁も天井も真っ白い部屋だった。

 部屋の真ん中に茶色い木製の椅子が置いてあり、椅子の約2m前方に、白いバケツが置いてあった。バケツの中には青いペンキのような液体が8分目まで溜まっていた。

 この白い部屋にどれだけの時間、居ればよいのかはあの紙に書かれていなかったが、ルーティーンとして書かれてある以上は、一定時間、居なければならないのだろうと思い、とりあえず、私は木製の椅子に座った。


 私は、前方にある青い液体が入った白いバケツを見つめながら、この部屋にたどり着くまでのことを回想した。

 たくさんのドアを開けながら長い廊下を歩き続けた。時計が無いので正確な時間はわからないが、10分くらい歩いたのではないだろうか。10分といえば、500m強の距離があるはずだ。

 バケツの絵があるドアを開けて、廊下が続く方角に歩いてきたけれど、他にも開かないドアがたくさんあるわけだから、この廊下全体の構造はとても複雑で、その距離はとんでもなく長く、そんな廊下があるこの建物の敷地はとんでもなく大きいことが予想された。

 私は、広い敷地にあるこの建物を頭の中で絵に描き始めたけれどすぐに断念した。だいぶ疲れそうだったからだ。


 白い部屋を見渡してみても、薪ストーブの部屋に置いてあったようなルーティーンを書いた紙は無かった。


 あるのは、木製の椅子と青い液体が入った白いバケツだけだった。





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