第4話 大切な出会い

 木陰で空を見上げている人に近づくと思っていたよりも若かった、というか同い年ぐらいだった。


 車椅子の座席まで届くような長髪は日の光に反射しそうな程に艶やかな銀髪で、後ろ姿しか見えないが車いすに座っているだけあってかなり華奢な体格のようだ。


 空を見上げて、物思いに耽っているようでこちらに気づく様子はない。

声をかけようとさらに一歩近づいたところでぼそりと呟くような声が聞こえた。


「鳥になりたい...」


 きっと、不意に零れてしまった溜め息のようなものだったんだと思う。

誰かに聞かれたくない類のものだということもなんとなく分かった。

でも、その一言にどうしようもない諦めとか焦がれるような憧れのようなものを感じて気づいたときには声をかけていた。


「鳥になりたいの?」


 少女は驚いてこちらを振り返り硬直してしまった。少し待ってみるが動きが無い。

なにか変な部分があっただろうかと疑問に思いながらもう一度声をかけてみる。


「?こんにちは」


「えぅ...コホンっ、えぇこんにちは」


 おぉ...!思ったより美人さんだった。これほどの美人はこれまでに見たことが無い...気がする。記憶喪失だから確証は持てないけれど...うん、多分そうだ。


 あまり日に当たってこなかったのであろう透明感のある白い肌。可愛いというよりは美人といった顔立ちではあるが驚愕を浮かべた表情には可愛らしさもしっかりと同居している。さて、話しかけたはいいけどどうやって会話を続けようか?


「その...男性、ですよね?」


 会話のネタに困っていると車椅子の少女はなんとも不可思議な質問をしてきた。他の何に見えるのだろうか?


「少なくとも女に間違えられたことは無いかな」


「ですよねぇ...コホン、えっとどうかされました?」


 ...どうやら先程の鳥になりたい発言はスルーの方向で話を進めるつもりらしい。別に何に憧れるのも自由だと思うけどなぁ。


「んーと、僕は今日この病院で目が覚めたんだけど、なんか暇になっちゃったから病院内を散策してて。そしたら君がいるのを見つけたから声をかけてみたんだけど」


「そ、そうですか。でもあんまり病棟から出ない方がいいですよ。うっかり通常病棟の患者にでも見つかったら大変ですから」


「? 通常病棟...?大変...?」


 どういうことだろうか?


「あぁ、ここはVIP向けの特別病棟ですから。通常病棟とは少し離れて建設された病棟です。国のお偉いさんがお忍びで来たり、滅多に無いことですけどあなたみたいに男性用に建てられたんだと思いますよ」


 少女の言葉に違和感を感じながらもその正体がいまいちはっきりとしないままに会話を続ける。


「へぇ~わざわざ男女で病棟を分けるなんて珍しいね。っていうか僕多分お金持ってないんだけどVIP病棟に入院したらもしかしてヤバい?」


「え?」


「ん?」


「...男性ですよね?」


「うん」


「だったら国が負担してくれるから大丈夫じゃないですか」


「うん?なんで男ってだけで国がそんなに優しくしてくれるの?」


「...?」


「...?あっ!そうだったそうだった。言い忘れてたんだけど僕記憶喪失らしいんだ」


「...はぁ?」


 困惑の表情の隠せない彼女に対して美人さんはどんな表情をしても美人さんなんだなぁとなんとなく思った。



「こんなところにいたっ!」


 お互いに首を傾げあいながら数秒程見つめあっていると病院の方から声が聞こえてきた。

そちらの方へ視線を移すとそこには青筋を浮かべた霧島先生が立っていた。


 ちょっとヤバいかも...


 その鬼のような形相に冷や汗がたらりと背中を伝った。

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