10-2.【事例7】「裁判所」のゲーム

 さて、この話はどのように解釈すればよいのでしょうか?


 私の知らないところで、悪意のある噂を立てられるという点では、【事例4】の怪文書や【事例6】のXX先輩の話とよく似ています。しかし、 この事例がこれらと大きく違うのは、 噂の内容が、工事費の横領という「犯罪の告発」になっているという点です。「犯罪の告発」という行為のため、告発した側は正義の立場に立つことになります。このため、告発された標的に与えるダメージは、計り知れないものがあります。逆に言うと、この事例は、それだけ【事例4】や【事例6】と比べて、たちが悪いということができるのです。


 実はこの事例は「裁判所」といわれるゲームなのです。バーンは、このゲームが夫婦間で行われやすいと分類しています。例えば、次のようなケースが当てはまります。


 ある子どもが友たちと喧嘩をしたとします。そして、その母親が子どもたちの喧嘩を止めようとしますが、逆に自分の子どもと言い合いになってしまいます。そこへ、父親が会社から帰ってきて、裁判官役になって、子どもと母親の葛藤を裁くといったケースです。


 あるいは、夫婦が喧嘩を始めて、その仲裁を結婚カウンセラーのような第三者に依頼するといったケースもあげることができます。この場合は、結婚カウンセラーが裁判官役になります。


 前者のケースでは子どもと母親が、後者のケースでは夫と妻が、それぞれ「自分のほうが正しいと言ってくれ」と裁判官役の人物に願うことになります。しかし、裁判官役は、自分の価値観だけで「こちらが正しくて、こちらが悪い」といった判定を下すことができるのです。つまり、裁判官役は、第三者という立場を利用して、どちらかを善、どちらかを悪と自由自在に決めつけることが可能なのです。 もちろん、裁判官役の人の中には、厳密に両者の言い分を聞いて、子どもと母親、あるいは夫と妻の両方が納得できる裁定を下す人もいるでしょう。しかし一方で、裁判官役は独善的に、こちらが悪いと断定することも可能なのです。もし、裁判官役が、どちらかに悪意を持っていれば、意図してこちらが悪いと断定することができるという点が、このゲームの特徴なのです。


 さて、 私のケースを見てみましょう。


 私は、自分の知らないところで、「会社の工事費を横領している」というデマをでっち上げられました。誰が首謀者かは知る由もありませんが、この首謀者は、裁判官役になって、「私が工事費を横領している」という「正義の判決」を下して、それを「噂」として、ばらまいたということなのです。周りの人は、その「噂」を否定する材料を持っていませんので、首謀者の言うことを「そうだったのか」と単純に聞き入れることになります。


 これが、「裁判所」というゲームの仕組みなのです。


 この「裁判所」というゲームでは、裁判官役(陰に隠れている首謀者)の裁定(流した噂)が絶対的権威を持ちますので、裁判官役の裁定に不服を唱えようとすれば、もう一人裁判官役を見つけてきて、「裁判」をやり直すしかありません。しかし、 私のケースでは、裁判官役である首謀者が陰に隠れており、対処は極めて難しいと言えます。もっと、はっきり言うと、このような悪意のある噂を立てられることを防止する手段はないといえます。まさに「人の口には戸は立てられない」ということわざ通りなのです。


 そして、その首謀者が私を標的とした理由も多種多様で限定することは困難です。他の事例のように、首謀者が自分に自信が無くて、私に攻撃を仕掛けたのかも分かりません。また、単に愉快犯的に、あらぬ噂をでっち上げたとも考えることもできます。はたまた、単なる嫌がらせだったのかも分かりません。


 従って、この事例のような場合は、首謀者の意図をあれこれ詮索しても仕方がありません。そして、この「噂」に騒ぎ立てると、ますます騒ぎが大きくなりますので、首謀者の思う壺にはまってしまうのです。このため、あくまで「噂」など取るに足らないことであり、自分は少しも怖くないといった毅然とした態度をとることが重要になります。


 しかし、 その一方で(私はやりませんでしたが)、誰か信頼できる人や上司に「このような噂を立てられて困っているが、事実無根である」ことを、はっきりと申し述べて、万一の事態に備えて対抗策を取っておくことも非常に重要なのです。


 隠れている首謀者の狙いは、「火のないところに煙は立たない」ということわざに集約できます。「噂」を聞いた人たちは「いくらなんでも、そんなことはないだろう」と思っても、その一方で「そんな噂があるということは、本当は何かあるのではないか」と疑ってしまうのです。ここが、このゲームの恐ろしいところなのです。


 このため、 表では「噂」を相手にしない毅然とした態度を取りながらも、その一方では、信頼できる人や関係者にしっかりと自分の無実を訴えて、相談をしておくことも大切になります。最近、SNS等を通じた無責任な誹謗中傷が問題になっていますが、それもこの「裁判所」のゲームなのです。ケースによっては、無責任な誹謗中傷を受けたことが原因で自殺を図るようなところまで、追い込まれてしまうことも多いのです。誹謗中傷を受けたら、周囲に相談して対処することの重要性がお分かりいただけると思います。


 繰り返しますが、犯罪の告発というような形で、この「裁判所」のゲームを仕掛けられると、仕掛けた側が「正義」の側となりますので、非常に厄介なのです。私の場合は相手にせず、しばらく静観することだけで対処しましたが、場合によっては、静観するだけというやり方はあまりお勧めできません。名誉棄損罪などの犯罪に該当する場合も当然あり得ますので、相手にしないという毅然とした態度を取るとともに、一方では、信頼できる人や関係者に訴えて相談をしておくといった、しっかりした対策を必ず講じておくことを考えていただきたいと思います。


 「裁判所」のゲームの対処法

 噂や誹謗中傷を相手にしないという態度を取りながら、必ず、自分の無実を信頼できる人や関係者に訴えて相談をしておく。

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