7. 平穏

7.平穏

分厚いドアを開けると、人が十分に生活できそうなスペースの玄関が出迎えた。無人の館とは思えないほど、隅々まで手入れが行き届いている。


 定期的に人が入っているのかしら。


 はい。ご家族がいつでもお使いになれるよう月に一度、清掃を入れております。


少女はずかずかと上がり込み物色を始めた。


 私が来るまでもなかったようね。


目線の先には新聞紙が横たわっていた。


 16日の夕刊ですね。


ダイニングチェアに座り込み、いつものように高速でタブレット操作を始めた。


 あの、捜査はもう終わりでしょうか?


 ええ。2人を待つことにするわ。


 わかりました。それでは、お飲み物でも。ジュースはお好きですか?オレンジとぶどうがあったはずです。


 コーヒーがあればブラックでお願いできるかしら。


 飲み物まで大人なのですね。わかりました。お待ちください。


スマホの着信音が鳴った。


 メライよ。…ええ…ええ。そろそろここを出ることになると思うわ。次の事件の候補をお願い。


しばらく話し電話を切ったあと受信したメールには、いくつかの事件の概要が書かれていた。それぞれの事件名の横には1〜3つの星マークが付いている。少女は縦に1回だけスクロールし、タブレットを閉じた。


 手がかりになりそうな事件がないわね…こんなに難航するなんて…。


そう呟いたタイミングで食器を運ぶ音が聞こえ、だんだん近づいてきた。


 お待たせしました。


 ありがとう。暇だし雑談でもする?


 そうしましょうか。


 あなたとご主人様の関係が気になるわね。


 ふふ…そんな変な関係ではないですよ。ただのよくある主人とメイド。それだけです。


 それにしては、あなたのことを随分と信頼しているようね。


 そう見えますか?私はただ仕事をまっとうしているだけなのですが。でも、一つ言えることは、共に過ごした時間だけは…長いかも知れませんね。


 過ごした時間か…。まだ数年しか生きてない私には理解できなそうね。


 あなたはとても賢い方ですから…他人の数十年の経験すらも、その知識と能力で補えそうな気がします。


 うーん、そういうものもあれば、そうじゃないものもあると思うわ。


 ほら、やはりよく分かってらっしゃいます。


取り留めがなく、何気ない会話が少女には新鮮だったのか、珍しく会話に夢中になり、あっという間に辺りは暗くなっていった。

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