第48話 ドリスとミルキィ
学院を早退して
マードック準男爵家は領地を持たない法衣貴族籍。なので本宅も王都にしかない。
流行病で家族全員を失うなんて。
だとしたら家は?使用人は?
家はあった。
それに、使用人はいるみたいだ。
自宅に入った途端、見知らぬ執事姿の者が。
「ここは現在王宮直轄の屋敷となっているが貴女は」
「マードック家の娘ドリスです」
王宮直轄なんて。
目の前に差し出される水晶球。
「確認出来ました。では、現時点をもって本屋敷をマードック準男爵家へ返還致します」
屋敷が返される?
「ついては、こちらへ。元は貴女の家なのですが、今回の事について内々のお話があるのです」
連れて来られたのは応接間。
客人を迎え、商談は勿論団欒の時を過ごした場所。
「私の名は、貴族院管理官バルゼイ侯爵の筆頭秘書官、騎士モートンと申します。さて、準男爵令嬢ドリス様。これから話す事は他言無用です」
貴族院管理官?
貴族を統括する王宮事務方のTOP?
兄ビル=マードックの上司?
「貴女も学院生であるので、此処最近の魔族の暗躍については聞き及んでおられると思います」
無論、私は黙って頷く。
「相手は魔将らしく、その暗躍を中々突き止められないのです。しかも、あまりにも裏をかかれっぱなしでした。その為王宮は、この王都に魔族の内通者がいると確信して調査してきました」
内通者?
は?魔族の内通者?
え?まさか?
「近衛騎士団や魔導師団、それに王宮の事務方に内通者が居る事がわかりました。魔導師団に於いては変化した魔族自身が紛れ込んでいまして。彼等を逮捕・拘禁し、即刻反逆罪で処刑致しました」
「あ、兄は処刑された…と?」
「そうです。御家族も連座…と言うよりマードック準男爵家は家族ぐるみで魔族に加担していた事がわかっています」
そんな…。
マードック家が反逆罪で?
「事を公にするには衝撃が大きく、今回は流行病の程をとらせていただいた次第です。さて、貴女の身柄なのですが」
家族ぐるみ。
私も処刑対象なんだ…。
「貴女は学院寮で生活しており、この夏期休暇も帰省されていません。連座制はあるのですが、まず反逆に加担する意思処か可能性すら無いだろうと言う事で、ティオーリア学院長預かりという形になりました。よって、マードック準男爵家は廃絶されず存続が王宮にて決定しております。貴女に屋敷を返すのは、その様な理由です」
学院長預かり…。
「私は…、私はこのまま学院に通っても?」
「貴女の身柄は現況のままです。学業を精進して卒業まで頑張って下さい。それ迄は貴女の後見として学院長と貴族院が、その任に着きます」
ティオーリア学院長のお陰で私は無罪放免…。
この時は、呆然と流されて何も考えつかなかった。私の処遇。学院長が骨を折って下されたのは勿論なんでしょうが、私が錬金術科だった事があったみたい。
錬金術科首席学院生ミルキィ。
同じ科だし、アドバイス貰ったりで多少の親交はあるでしょうけど。
そのミルキィが私の無罪放免を強く主張したと。
ミルキィの錬成した、奇跡の産物とまで言われた『自白剤』。それがマードック家を断絶へ追い込んだからと。
そんなのは八つ当たり。
ミルキィを恨むのは筋違い。
頭では分かっていても気持ちが整理出来ない。
なのに、ミルキィは正面から私に謝ってきた。
「…ミルキィのせいじゃない。兄が、兄がバカだったのよ」
「偽善、自己満。私だって分かってる。でも謝らせて」
綺麗さっぱり想いが流れた訳じゃない。
でも、2人抱き合って泣いた分、少しスッキリしたのは確か。
「ね、ミルキィ。どうやって無味無臭の自白剤作ったの?」
錬金術師としての興味。
自白作用成分の薬草は『バニラ草』って、まんまの名前の素材。勿論、アイスの原料じゃない。そっちはバニラ豆って小さな豆を潰してクリームに入れる事で、あの風味が出るんだけど、バニラ草は匂いだけが同じで、だからこそバニラ草って名前になってる。
で、この成分は水に溶けない。
溶けるのは『キマベリー』って、コレまた甘い木の実で生成した液体。コレが強烈な紫色なんだ。
これらを魔力水に混ぜ込んで撹拌錬成する為に自白剤は淡い紫色と甘い匂いに味の薬になる。
捕虜に無理矢理飲ませる場合位しか使えない代物だった自白剤。それをミルキィは無味無臭、無色透明の液体として完成・納品したって。
だから大凡目処を立てた全員にコッソリと飲ませる事が出来たんだと。
「それがね。レシピ、マル秘ファイルに入っちゃって」
流石に閲覧許可制のレシピになったらしい。
「もう作りたくもないけどー。あんな不幸しか生まない薬なんて」
ミルキィも後悔してる錬成製薬。
それでも奇跡と呼ばれる程の生成が出来るのが天才的なんだろうな。
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