第37話 王宮への報告

「監視と工作を怠るな。我はそう言った筈だ」

「ハン、必要ねぇだろ?」

「ミノゾス。貴様が楽観する間にダームは斃されてしまったぞ?」

「はあ?何の冗談だ?ライガス」

「全く。使えんな、ミノゾス。どうやら魔将の名はお前には荷が重い様だな」

「ぐ、ぐげ…げぇふ」


「本当に何も見ておらぬ様だが。念には念をいれて、監視役にはココらで消えて貰うと。さて、2人のレベッカ様はどう動かれるのかな。クックックッ、フ、フハハハハハ」


 どうぞ、ライガスを存分に楽しませて下さいませ、レベッカ様。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「では、ミルキィが倒したのは魔将だと」

「魔将ダームと。ミルキィの受け応えから察するに、彼女はかなり魔族を知っているのでは?」


 王都での魔族暗躍に端を発した警備強化と戦闘防御力の増強。その一環として、王立学院の特Aクラスの底上げを図るために組まれた野外演習カリキュラムにて、初年度特Aクラスに王族2人を加えた特別編成の実習は、当の魔族の乱入と言う事態を生んでしまった。

 ジャック=シルバーが対処するより早く、ミルキィが動いていた。


 結界と防御魔法の重ね掛けを指示して。


 確かに、魔族の魔法や剣戟を防ぐ事は出来た。

 だが、此方からは何も手出しが叶わず、ミルキィ1人に全てを任せる結果になってしまう。


 …我が目が信じられない。

 ミルキィは魔族の爪が化した剣を腕ごと斬り飛ばした。


 何?何を言ってる?

 あの魔族は、何故魔法を撃たなくなった?


 ミルキィ?攻撃魔法を使ったのか?

 …ま、魔族を倒した?


 あれは?

 魔族がもう1人?

 何?何を話してる?


 結界と防御魔法が切れた時には、ミルキィが斬り落とした角をもって1人佇んでいた。


「ミルキィ君!」

「…魔族は倒しました」


 やっぱり、前の神官ソンダクに化けていた魔族を倒したのも君なのですね?ミルキィ。


 従魔が追い払った。


 君はそう言っていたが、その魔族の足取りも途絶えていた。まさかとは思っていたけど…。


 兎も角、演習を切り上げ私達は学院へと戻りました。生徒達を解散させ、学院長へと報告した後、そのまま王宮へと報告する事に。


「ミルキィは魔族を知っている。魔族を、いや魔将すら単独で倒せる力を持つ、か」

「とても…、その、我が目すら信じられない事です。こうなると重ね掛けの結界や防御魔法の為に詳細を見届けられなかった事が惜しまれます」

「或いは、その意図もあったやも知れぬの。とは言え、1度は従魔が撃退したと言っておるのだ。此度も己が実力を示す気は本来無かったで有ろうが、それでも魔族と単身戦った訳だな」

「そうですね。自身の実力を曝す事より友人クラスメートの安全をとった。あの子らしい」


 陛下の意に学院長も同感する。

 私もだ。単独戦闘はミルキィの本意ではないのは日頃の彼女を見ればよく分かる。錬金術師はある意味裏方だ。ミルキィもその本分に徹したいと思っている様だし。


「それと、彼女が攻撃魔法を行使したとの事だが?」

「そう見えたのです。また、魔族の魔法を打ち消した様にも見えました」

「ティオーリア?これは」

「おそらく解析消去マテリアルキャンセル。それが独自オリジナルの魔法であろうとも生成陣を解析し同じ魔法を打つける事で相殺してしまうスキル。…そうか、だからか」

「ティオーリア?」

「ミルキィの左眼です。いくらMIXでもオッドアイは珍しい。何か他の亜人の血が入っているのかと思っていたのですが金色の瞳、このスキルが故の事だったのですね」


 ミルキィは右が紅眼、左が金眼だ。

 その可憐な童顔に似つかわしくない神秘さを印象付ける目。魔人族もだがMIXの証として受け入れられているが、それも人種差別の少ないこのレクサンダルならではの事だ。


解析消去マテリアルキャンセル…。まるで夢でも見ている様なスキルの持ち主じゃな」

「陛下、彼女にはまだ秘密がありそうですが?」

「構わん。下手に詮索して我が国から出奔されては元も子もなくなる。最早『勇者』とも思える程の存在になってきておるのじゃ」


 そうだ。

 君が、この世界に本当に必要なんだよ。


 ミルキィ。

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