第12話 ミルキィ、動く

 大魔王レベッカ。


 バリンゲン墓地。つまりは王都で暗躍していた魔族から聞かされた魔界の内情。

 新たな大魔王の即位。

 よりにもよって、大魔王ベルドの娘レベッカが?

 あり得ないよ。


 転生体だけど、ココにいるもん。


 私を語る程の魔力持ち。

 強力な攻撃魔法を駆使できる女魔族なんて、そうそういるもんじゃない。

 心当たりは1人。

 姉の様な幼馴染。魔女ソーン。


 でも彼女は穏健派って言うより、無関心派とも言える存在だった。

 その、言ってしまえば『魔法馬鹿』。

 魔法を突き詰める事を至上命題としていて、それ以外の事についてはあまりにも無頓着、興味無し。人族がどうなろうが、魔界が滅ぼうがカケラも興味を示さなかった。


 その意味では、彼女が私の名を騙り女帝として君臨するなんて事、ホラ話にもならない筈。


 それとも、何か彼女に心境の変化があったのだろうか?


 直接聞く訳にもいかないよねー。


 フム、角さえあれば誤魔化せるか?


 創世女神サンディアの小細工のせいで、私の身体ステータスは魔族の時と殆ど変わらない。

 人族に転生を希望して、少しでも近付ける為に人族生まれの魔人族MIXだった筈なのに。


 私が、その事に気付いたのは5歳の時。

 「洗礼式」があり、女神より与えられし才が決まる…、その人の一生を決定付ける儀式。


 村長に連れられて教会で受けた洗礼。

 そこで『錬金術師』としての才と、身体についての女神の謝罪を受けた。


 魔族の時のスキル解析消去マテリアルキャンセル。女神が種族変更を試みた時も発動してしまったらしい。外見を変えるのが精一杯だったと。

 だから身体ステータス鑑定の時、私の意思で虚実切替ができる様になってるとの事。

 

 錬金術の才を持つ魔人族MIX。通常はコッチが表示される事になってる。

 錬金術の才を持つ魔族。私の真のステータス。

 だから角さえあれば、魔族の中にいても多分身バレしないと思う…。


 それに、方法も有る…んだよねー。


 高位魔族しか使えない呪文で『変幻チェンジ』がある。文字通り、見た目を変える呪文。

 かなり魔力を食う上に、変化中は魔力を消費し続ける。そして魔人族特有の探査魔力マナサーチで簡単に破れてしまう。

 魔界にも、魔人族はいる。


 祖は人族に味方したものの、魔族寄りの種であるが故に人族世界に馴染めず、再び魔族に戻ろうとした者の末裔。

 角を取り戻せず、下級魔族にもなれなかったものの、容姿は魔族と言っていい形になってる。


「やってみるか…」

 ちょいリスクは大きいけど…。


 この事で、私は1週間程学院を休み、尚且つ行方不明になった。


 …学院中が大騒ぎになったらしい。


 手紙位置いときゃよかった…。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「そうです。昨夜から帰ってなくて。その、素材集めで遅くなっているのかと思って。前にもあったので」

 同室ルームメイトのクラリスも心配気。確かに何の連絡・届出もない外泊をミルキィは偶にやらかす。でも欠席まで一緒に、という事は初めてだ。

「先生」

「そうですね。彼女はある意味特別な存在です。学院長へ報告しましょう」

 特Aクラス担任のジャック=シルバーも他に考えようがなかった。


 ティオーリア学院長も驚いていた。


「確かに外泊は、もう既に数回していますね。でも翌日の講義を休む事はなかったわね。実習時に寝る事はあったとしても」


 首席の学生によくある自由奔放さがミルキィにもあり、また錬金術科は何よりも素材集めが基本中の基本だ。薬草等の素材は図鑑なんかで覚えても何の意味もない。

 見て、手に取り、実際に錬成してこそ身につくのが錬金術。ミルキィは天才的で類稀な魔法調整と発想力を持つけど、彼女も5歳の洗礼式の後、手に入れた錬金術読本を片手に、毎日片っ端から錬成し、試しての失敗を繰り返したと言っていた。

 故郷があまりにも辺鄙な村だった為、野山で錬成し放題の子供時代だったと。


 必殺的に、彼女の受講する講義は野外実習が多くなる。何をやってるのか、目の届かない事もあったのだが、彼女は毎回何かかしらの成果を出していたし、活動報告レポートもキチンと提出していた。錬金術講師のターク先生からも報告と考課が私の元に届いていて、新入生首席の座は揺るぎないモノとなっていたのだけど。


「学院長?」

「魔族について、彼女は何か、隠している事があるのかもしれませんね」

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