第4話 購買部の悩み事

 レクタル学院購買部。

 それがスーラの職場。


 猫型獣人の私が王立学院の職員なのは、このレクサンダル王国でないと有り得ない。他国では獣人は亜人よりも扱いが酷い。奴隷階級しかない国だって存在する。


 勇者アレクが打ち立てたこの国は、勇者パーティに獣人戦士ガイラス、魔人族魔法剣士アッシュ、エルフ賢者ティアナと獣人亜人がいた事もあって人族と変わらない権利を持てている。

 確かに高位貴族爵位は人族しかない。が騎士処か男爵位迄授るのは世界広しと言ってもこの国だけだ。

 我家は商家だけど貴族相手の商いもしている為、一応騎士爵位を有している。だから私の名はスーラ=デントだ。


 まぁ、才が決め手とは言え、王立学院へ入学するなんて貴族籍か財力が無いと、ね。

 そのどちらも無いのに合格出来るのは一握りの常人を凌駕する程の才を持つ者だけだ。


 納品された回復薬ポーションを保管庫に入れ在庫を確認しつつ、これの製作者たる錬金術師の卵を思い浮かべる。


 錬金術科の新入生、ミルキィ。

 魔人族のMIXという珍しい存在。


 魔人族は少し排他的だ。元魔族という負い目?迫害?のせいか、あまり人族とは関わらない。勇者の願いと女神の慈悲により、魔力処か生命力の源とも言える角を折ってまで人族に与した魔族の一群を、新たなる種として魔人族に生まれ変わらせたのは勇者伝承でも有名な一節だ。


 でも、やはり魔族に近い魔力と寿命は人族に忌避の念を拭い去らせてはくれなかった。

 だから魔人族は人里離れた辺境に居を構える事が多いって聞く。

 実際、ミルキィの住む村も辺境という表現が可愛らしいと思える程の辺鄙な村だったとか。その村の用心棒的戦士として1人きりの魔人族がミルキィの父親らしく、村を守り抜いて壮絶な最期を遂げたらしい。村娘の母はミルキィの妊娠出産に耐え切れず出産後亡くなったと。


 5歳の女神の祝福の儀で錬金術師の才がわかったミルキィは、村長が街で買い求めた『錬金術読本』を読みながら独学で錬金術の初歩を学び取った。MIXならではの奇跡。魔人族に錬金術師の才が授る事は珍しい。高い魔力もだが知力と器用さが必要不可欠な錬金術師は、平均的にオールマイティな人族しか授かった事がなかったから。


 『魔人族の錬金術師。首席入学の天才』


 彼女のお陰で高品質の回復薬ポーションが入荷する様になった。まぁ、ポーションだけの話でもないんだけどね。


 面倒な話になってきたのは、この1ヶ月弱でミルキィ製作の各種薬が王都の噂になってきている事。

 何せ、効能1.5倍だ。通常の物より高性能だから使用量が市販よりも少なくてすむ。極端な話、5本必要だったものが3本ですむ。この差は地味にデカい。

 薬は通常専用瓶に詰めて売られている。冒険時には携帯ポーチやアイテムボックス等に入れる形になるけど、1つの薬の瓶本数が減れば他の瓶を入れるスペースがポーチに出来る。

 空いた2本分を他薬に出来るのだから、冒険に役立つ事幾万倍だ。

 冒険者にとっては死活問題な情報。

 学院もだが、購買部そのものにも問い合わせがチラホラ来始めている。


 でも、何せ学院の購買部。

 学生や教員、学院職員相手にしか販売する事は出来ないし、そもそもそれ以外の存在の者が学院内に入れる筈も無い。


 ミルキィ製作の各薬を冒険者ギルドにも卸して欲しいと再三言ってきていて…。


 本学院長はエルフ賢者ティオーリア。

 そう。勇者パーティにいた賢者ティアナの娘さんで御歳328歳の男爵位を自身が持っておられる。冒険者ギルドや商工ギルドからの要請圧力も突っぱねる女傑なんだけど、ギルドも様々な方法で圧力かけてきているらしい。


「で、とうとう王室からも問い合わせが来ちゃってね」


 穏便な言い方だけど、要はギルドの要望を考慮されたし、と言う事なんだとか。


「と言われましても、1学生が作る薬は量も限られてきます。確かにミルキィは常人の数倍の量で尚且つ高品質の薬を作る事は出来るでしょうが」


 学院長室に呼ばれた私は、疲れ切った表情の学院長ティオーリアから相談を受けた。

 学院長も分かってはいらっしゃるのだろう。

 昨日、冒険者ギルドと激しくやり有ったみたいだ。


「初年度学生に何を求めているのですか?」

「い、いや、そう言われると…」

「錬金術科で実習として作製しているポーションです。他学生の物もあります。薬錬成だけが授業ではありません。その事、判っている上で敢えて王国へ要望を出されたのですか?」

 学院長はギルドの要望を、あくまでも突っぱねたとの事。

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