第21話 OC-2

「・・・・というわけです。ですので、出張は取りやめにしていただけないでしょうか」

「ふむ・・・少し考えさせてくれないか」


 1時間後、再び電話がかかってきた。


「Dr.ヤング。一体、何をなさったのです?」


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 国内線の飛行機に乗客が次々に搭乗していく。

 それぞれが、予約した席をめざし荷物をもって通路を進んでいく。

「Dr. 荷物を収納しますよ」

「ジョンソン、ありがとう」


 ようやく席に着いたDr.ヤング。隣に座った同行者と世間話をしようとしたときに突然名を呼ばれた。


「Dr.ヤング。お久しぶりです。覚えええていらっしいますでしょうか?以前に学会の後のパーティーで挨拶させていただいた・・・」

「Mr.チャン。もちろん覚えていますとも。ご無沙汰しております」

「いやあ。覚えていただけたんですか。光栄です!」

 

 覚えていないわけがない。彼は、C国でも有数の企業グループのCEOである。

 まだ青年というほど若くは見えるが、30代半ばだったはず。


「Mr.チャン。こちらへはお仕事ですかな?」

「はい、東海岸でグループ会社の会議に行くんですよ。その会社というのがすごくてですね。素晴らしい製品を開発したんです。あ・・ここだけの秘密ですよ。それでですね・・」


 やれやれ

 前回会った時も、こうであった。この男はとにかく饒舌なのである。

ほっといたらいくらでも話し続けるだろう。


「それで、Dr.ヤングはお仕事で出張ですか?」

「いやなに、たまには顔を合わせようと古くからの同僚と会いに行くだけですよ」


 Dr.ヤングは慎重に言葉を選びながら答える。

 この男は、無邪気な笑顔で反しているが、相手の反応から情報を集めているのだろう。

 Mr.チャンは気にしたよ様子もなく無邪気に話し続ける。考えすぎかもしれないが、彼は一代で巨大企業を興した男である。油断はできない。


「そういえば、知っていますか?今、東海岸では新しい食べ物流行しているらしいですよ。なんでも・・・」


 ただ、Dr.ヤングはいつまでも続くその話にうんざりするのであった。



 離陸してから1時間ほどたった時、客室乗務員が慌ただしくいったり来たりしだした。彼女らは隠そうとはしているだろうが、何かあったことは明白である。


 Dr.ヤングは同行者に目配せして席を立つ。

 二人でコクピットのある方に向かう。当然、客室乗務員に止められた。


「お客様、ここから先は関係者以外立ち入りできませんん」

「私はFBI顧問をしているDr.ヤングです。何かあったかと思いましてな。こちらは友人であり航空学校の教官をしているMr.ジョンソン」

「D航空学校でパイロットの養成をしている元空軍のジョンソンです。この型の操縦経験もあるのでお手伝いできることないでしょうか?」


 その言葉を聞いた客室乗務員は、驚いた表情をする。

 そして座り込んでしまった。

 

「え・・・・そんな。本当に・・・・おぉ・・・神よ・・」

 


 客室乗務員に案内されたコクピットは悲惨な状況であった。

 血を流して死んでいる機長と副操縦士。


「・・・副操縦士が突然機長に銃を突き付けて・・・そのあとで自分で・・」


 青い顔をした客室乗務員が説明する。

 Dr.ヤングは首に手を当て脈を診てみるが・・・やはり二人とも絶命していた。

 ジョンソンと二人で死体を移動する。


 機長席に座ったジョンソンは手早く計器をチェックする。

「幸い、機体や景気に異常はなさそうです」

「それは良かった、では近くの空港に連絡を取って緊急着陸させてもらおう」

了解ラジャ

「あぁ・・・ちなみにD空港は事故で使用できないそうだ。O空港に向かってくれ」

「本当ですか?そんなことまでわかるんですか?」


 無線で状況を連絡するジョンソン。

 すると、やはりO空港に向かいように指示された。


「ほんと、信じられないですね」

 あきれたようにジョンソンは言った。

「繰り返して言うが、国家機密だからな。くれぐれも他言するなよ」

「いっても誰も信じませんよ」


 ジョンソンとDr.ヤングは数年来の友人である。

 昨日の深夜、突然Dr.ヤングに呼び出された。そして一緒に同行するように言われたのである。


”この飛行機は、何もしなければ墜落して数百人の犠牲者が出る。だが、一緒に来てくれればそれが防げるのだ”


 確信をもって話をする。そして、その理由を教えてもらったのだ。

 とても信じがたい話。だが今となっては、信じるしかない状況である。


「で、どうだ?無事着陸できそうか?」

「任せてください。天候も問題ないですし楽勝ですよ」


 その言葉通り、何事もなくO空港に無事着陸をしたのであった。





「Dr.ヤング!こちらでしたか。いやあ、大変な目にあいましたね」


 O空港のVIP用のラウンジで東海岸行きの飛行機を待っているときに、Mr.チャンが無邪気な笑顔で話しかけてきた。


「まったく、ついてないですな」


 当たり障りのない返事をしたつもりだった。

「いや、全然ついてましたよ。事故もなく着陸できたのですから」


 にこにこと笑顔。


「ところで、フライト中お連れの方と席を立っていきましたが、もしかしてDr.ヤングとお連れの方が解決なさったのではないですか?」


 Dr.ヤングはドキッとした。

 まさに核心をついてきている・・・


「たまたま、連れがパイロットの経験があったんですよ」

「へえ、


 Dr.ヤングは、彼の東洋人独特の笑顔の裏で何を考えているのか図りかねていた。

 どこまで気づかれた・・・?


「本当に、偶然ですな。運がよかった」

「全くです。では、またどこかでお会いしましょう」


 にこやかに去っていくMr.チャン。

 Dr.ヤングはラウンジのカウンターに腰かけてその後姿を見つめていた。


 C国に・・・彼の存在を知られてはならない。

 何か手を打たねば・・・

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