第20話 Clock-16

 周りがすっかり暗くなった深夜。

 駅から離れた住宅街にあるコンビニには2人の客しかいなかった。


 雑誌を物色している少年。

 お弁当を購入してレジで会計中の老婆。

 現金で払おうとしており、小銭を出すのに手間取っている。

 とはいえ、客がいないこともあり店員はのんびりと待っている。



 その時、入り口の自動ドアが開きニット帽をかぶりサングラスをした若い男が入ってきた。

 まっすぐレジの方に向かうと・・・上着のポケットからナイフを出し店員に向かって怒鳴った。


「金を出せ!早く!」


 アルバイトの店員は震えながらも両手を上げ、敵意をないことを見せる。


「いいから早くしろ!!」


 頭に血が上っている強盗はナイフを突きつけて台を蹴とばす。

 極度の興奮で、頭に血が上っているようだ。


 会計をしようとしている老婆は、強盗犯のすぐ傍でブルブルと震えながら立ちすくんでいた。

 恐怖で硬直してしまっているらしい。


「婆あ!邪魔だ!!」


 強盗は、大きく手を振り上げてナイフを持った手で老婆を殴ろうと・・・・



 その時。雑誌を物色していた中学生くらいの少年が老婆に覆いかぶさり引きずってレジから離れた。

 そのため強盗の手は空を切った。


「てめえ!なにすんだ!!」


 強盗が激怒して少年の方に一歩踏み出したとき・・


「あ・・・・あの。おかね・・」


 店員がレジから札を出してレジ台の上に置いた。

 強盗は舌打ちをし、金を握りしめると走ってコンビニから出て行った。



 強盗が出て行ったあと、店員は非常ボタンを押してそのあと電話で連絡を取っている。


 老婆は震えながら床に座っていた、。

 失禁したらしく、尿のにおいがしている。


「もう大丈夫ですよ」

 少年が、老婆の手を取って優しく言った。

「ありがとう・・・・ありがとう・・」

 老婆はぼろぼろと涙を流しながら何度も少年に頭を下げたのであった。

 店員もやってきて、老婆の手を取って立ち上がらせバックヤードに案内し椅子に座らせた。


「あれ?あの少年どこに行ったんだ?」

 警察官がコンビニに来た時・・・・店員は少年がいなくなっていることに気が付いた。いつの間にか出て行っていたらしい。






 住宅街の暗い夜道を歩いている。

 後ろから、パタパタと走ってくることがして振り向いた。


 パーカーを着た松下楓が走ってきて目の前に来る。ぜいぜいと息を切らしている。


「さっき・・・ぜんぶ・・見てましたよ」


 どうやらコンビニの外から一部始終を見ていたらしい。


「どうして、分かったんです?」

 英治は驚いた様子もなく聞いた。

 楓は、何度か深呼吸をして息を整えてから話始めた。


「だって、なんか様子が変だったから後をつけたのよ。そしたらコンビニ強盗に会うなんて・・・でも、なんであんなことしたのよ、刺されてたかもしれないじゃないの」

「ああしないと、お婆さんが殴られて頭をぶつけて亡くなってしまうからですよ」

「え・・・だとしても、あなたが死んじゃうかもしれないじゃないの」

「それでも・・・やっぱり、何もしないわけにはいかないです」


 そう、きっぱりと少年は答えた。

 楓は少年の瞳を見た。

 まだあどけない風貌なのに、瞳に強い意志を宿らせている。

 

「そう・・・でも、あなたがいなくなると私がとても困るの。それは分かってて欲しいの」

「困る?」

「だって、あなたは私の命の恩人だし。それに・・ほらバイトの雇い主だしね」

「・・・わかりました」


 二人並んで歩きだす。


「私、ちゃんと自己紹介してなかったわ。松下楓っていうの。あなたの名前は?」


 少年は口ごもる。しばらく無言となる。

 名を教えるかどうか悩んだのだ。

 だが、覚悟を決めて言った。


「僕は、時田英治といいます」

「英治・・・君?よろしくね」


 ようやく名前を教えてもらえた。

 それだけで楓は、胸の奥が温かくなっていることを感じた。

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