第12話 Clock-9

「いつもすみません」

「いえいえ、遠慮することないのよ。たくさん食べていってね」

「ありがとうございます」


 にこにこと愛想のよい、安藤良子。

 一方で、英治の隣の席娘の安藤美緒は不機嫌な顔をしている。


「美緒、なにむくれているの?」

「・・・・最近、英治兄ちゃん全然遊んでくれないからつまんない!」

「英治君は高校生なんだから、勉強忙しんだからしょうがないでしょ?」

「むう・・・」


 ふくれっつらをする。

 英治は、ここの最近は学校帰りに図書館に寄ってから帰ってきているため、帰りが遅くなっている。美緒はそれが不満なのである。


「ごめん、美緒ちゃん。ご飯食べたらゲームしよっか」

「あと、日曜日も遊んでくれる?」

「うん、いいよ」

「約束だよ!」


 ようやく機嫌が直った美緒。

 もともと、美緒は英治になついていたのだが、あの事件の後はさらに顕著となった。


「美緒、駄目よ。宿題終わってないでしょ?」

「じゃあ、英治兄ちゃんと一緒にやる」

「もう・・・ごめんなさいね、英治君。勉強の邪魔にならない?」

「大丈夫ですよ」

 笑って答える英治。

 その隣に座る美緒は、にこにこと満面の笑顔であった。


 

 美緒の部屋で、英治が宿題の手伝いをしているころ。

父親の安藤幹人が帰宅し、良子が出迎えた。

 リビングに入り、スーツのジャケットを脱ぎクローゼットのハンガーにかける。

「美緒はどうした?」

「自分の部屋で勉強中ですよ。英治君が宿題を見てくれています」

「それは助かるな。英治君は成績いらしいね」

「まじめでちゃんと勉強しているようですよ。本当いい子ね。あんなことがあったから、どうなるかと思ったけど反抗期もなく優等生に育ってくれたわ」

「そうだな。家庭環境も複雑だから、うちもできるだけのサポートはしてあげないといけないな」


 すると、バタンとドアの開く音。パタパタと走る音。

「英治兄ちゃん。早く! あ、パパおかえり~」

 リビングに美緒が走りこんできた。宿題が終わったらしい。

「あ、お邪魔してます」

「やあ、英治君こんばんわ。すまないね、美緒の面倒見てもらって」


 ぐれる様子もなく、真面目そうな容姿の時田英治。

 幹人は笑顔で歓迎するのであった。



 

 英治が自宅の自分の部屋に戻ってきたのは、夜の9時。

 カバンの中から、図書館で借りてきた本を出す。

 物理学の分厚い英語で書かれた原書。

 もはや、日本語の書籍では満足できずに、海外の書籍を読み漁っている。


 机の上に本を置いて、引き出しの中から”スマホ”を取りだし電源を入れた。



 フィィィィィ・・・・

 高速回転するファンの音。ベルチェ素子を複数設置し冷却をしているが、それでも動作させられるのは5分が限界である。

 5分の間に、ニュースサイトをチェックしなければならない。

 小さい事件などは、ニュースサイトにも扱われないため、市内に限って言えば毎日事件があるわけではない。

 ここ数日は、何も事件もなく平和であった。


 だが、今日はニュース速報が入っている。詳細はまだ不明とのことだが・・・


「火事か・・・・・」

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