第3話 雨の音

 しばらく本を読んでいると、ふと空腹感が湧いてきた。左の壁に掛かっている時計を見ると、もう12時頃だった。寒さは朝よりもいくらか弱まり、ついに布団を出る決心をした。

 私は本を枕元に置き、申し訳ない気持ちを抱えながら私の胸で寝ている猫をそっと脇に下ろし、布団を出てベッドから立ち上がった。布団の中との温度差で、先程まで私の体を包んでいた布団の温もりがすぐに恋しくなった。起こされた猫は不機嫌をそうにこちらを見てから、すぐにまた丸くなって眠った。


 私はベッドの横のカーテンを閉めて部屋の明かりをつけた。そして、キッチンへと向かった。背伸びをして食器棚からコップを取りだし、麦茶を注いで一気に飲み干した。乾いていた口と喉が潤う心地良さから「あ゛ぁ゛っ…」と、思わず声を漏らした。

 麦茶を冷蔵庫にしまうと同時に冷蔵庫からソーセージを取りだした。卵焼き器にソーセージが少し浸かる程の水を入れて、コンロに置いた。

 寒さでかじかみ、思うように力が指先に入らない中、私はぐっと踏ん張ってソーセージの袋を開けた。ソーセージを先程の卵焼き器に入れて、コンロの点火ボタンを押し込む。「かちかちかち」と火花を散らしたあと、ぼわっと火が広がった。このコンロの火が揺れる光景は、真っ赤な草が風に揺られているかのようで少し面白い。

 そして、私はサトウのごはんを電子レンジに入れて温めた。ぶくぶくとお湯が沸騰する中、時折ソーセージをひっくり返しながら、私はキッチンの横の窓から聞こえる雨の音に耳を澄ませていた。


 どしゃどしゃと雨が地面に降り注ぐ音、ぱらぱらと窓に雨粒が当たる音、そして時折、窓枠の上から雫がぽちゃっと下の窓枠へと落ちる音。雨の音に耳を澄ませると、雨は実に様々な音を織り成していて、雨の陰気な美しさというか、暗い美しさというか、そういった美を感じるのであった。

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