ゲーム世界で幼少期から最強を目指した結果がこれだよ!!

@fuyuzora

第1話 転生〜入学試験まで


 トラックに轢かれたわけでもブラック企業で過労死したわけでもないのに俺は異世界に転生してしまった。


 しかも、白い空間に呼び出されて神様的な存在にチートスキルを貰う展開とか、そういったテンプレ的な要素も無かった。


 ただ、最も重要な「やり込んでいたゲームの世界に転生してしまった!」というテンプレは守ってくれたので……まあ、許してやらないこともないかな?って感じ。



 転生先は……学園RPG『ゆるふわシーカー』シリーズの舞台である霧雨学園都市の一般家庭だった。


 このシリーズの世界感とか、突如流れだしたゲームのオープニングとか、ノリノリのBGMやゲーム同様のシステムUIが使えるようになったとか、同時多発的に事件が頻発したのだが、わりとどうでもいいので割愛する。


ここで重要なのはこの世界が現代日本の皮を被った超野蛮な世界で、力こそ正義。


 暴力……!暴力は全てを解決する……!って感じの展開が多い世界観なのだ……



 つまり、生き残るには強くなるしかないということ。



 幸いにも時間はある。


 ゲーム本編は高校2年の春に主人公が転入してから翌年の3学期終了までだ。


 前世からの連続した記憶を取り戻し、ゲームの世界に転生した事に気付いたのが六歳になり入学式を目前に控えた春だ。


 力を蓄える時間は十分過ぎるほどに存在する。あとは高校二年の本編開始までに何処まで詰めれるか、それだけだった。



◆◆◆◆◆◆



 鳴海明。

 それがこの世界『ゆるふわシーカー』における俺の名前だった。


 鳴海というのは俺の前世においては母方の旧姓であり、不思議と前世との繋がりを感じる苗字であった。


 ちなみに、ゲーム本編において『鳴海明』という名前に聞き覚えは無い。


 ゆるふわシーカー……略して『ゆるシカ』は学園RPGなので無数のキャラクターが存在するが、名前がついているのは本編に深く関わる主要キャラ又は敵役ぐらいであり無名の、いわゆるモブという扱いのキャラクターもたくさん居たので、もしかしたらそのうちの1人だったのかもしれないが、今となっては確かめようのない事だ。


 記憶を取り戻した当初はかなり不思議な感覚だった。前世の記憶と今生の記憶。それが当たり前のように共在し、自然と受け入れられてしまうという不自然な感覚に苛まれながらも、なるようにしかならないと早々に諦め、現状に目線を向ける。


 六歳。

 今までお世話になった幼稚園を卒園し、今年からは小学生になる。

 身体は人形のように小さく、大人と目線を合わせるには90度近く真上を向かなければならないほどだ。


 顔立ちはなかなか可愛らしい感じ。


 ただ、この年頃の『顔の良さ』はあまり当てにならないと経験則から理解しているが。


 前世、母が子供の頃のアルバムを見つつ「この頃は可愛かったのにねえ……」なんて嫌味を言われた回数は両の指で足りないほどだ。


 言われるたびに「遺伝子が悪いんじゃないの〜?親ガチャ敗北勢でつれえわぁ」と思っていたのは内緒だ。当然口には出さない程度の理性は残していた。


 ともあれ、人生二度目の小学生生活だが、始めてみるとはっきり言ってめちゃくちゃ苦痛だった。


 幼稚園生の時は周囲の子供たちはウザさより可愛らしさや微笑ましさの割合が強く適当に受け流してきたが……


 小学生低学年にもなると幼稚なイジメや暴力が横行し教室の空気感についていけなくなっていた。


 とはいえ、孤立するのも無駄にリスキーなのでほどほどの距離感を保ちつつ頑張って埋没した。


 よく分からないアニメやら動画の話に付き合うのは修行より修行じみていたけども……


 六年間も義務で教育を施される地獄のような施設に入る羽目になったが、それだけでなく、楽しいイベントも待っていた!


「は〜い、『きりさめだんじょんわーるど』へようこそ!ぼくははじめてかな〜?」

「うん!はじめて!」

「そっかぁ〜、じゃあおかあさんといっしょによーくおねえさんのおはなしをきいてね?」

「はーい!」


 と、いうことでね。


 この世界に来てはじめてのダンジョンですよ!場所は『霧雨ダンジョンワールド』。


 ちょっとした自然公園くらいの広さの中に3つの人工ダンジョンを備えた子供から大人まで楽しめるアミューズメントパークだ。


 ホンモノのダンジョンに潜るのは厳しい小中学生やダンジョンとは無関係の仕事をしている大人でも安全にレベリングしたり魔物を倒す経験を積める施設だ。


「まだそのスライムで遊ぶの〜?」

「うん!今日はずーっとそうするつもり!」

「あらあら、それならママがアキラくんに付き合って、アカリちゃんはパパと先に進む?」

「ああ、そうしようか」


 子供向けダンジョンに入場してから俺がずーーーーっと緑色のスライムと戦っていると妹が飽きたようで父に連れられて先に進んでいった。


 家族のことも考えろよ!って思われそうだが妥協するつもりはない。


 今、レベルを上げるわけにはいかないからだ。


 最強を目指すなら初期ジョブの「ノービス」でレベルを上げるわけにはいかない。

 何故ならレベルアップ時のステータス上昇値は選択中のジョブに依存するので……本当に強さを求めるなら目の前で美味しそうに下生えの草を食んでいるグリーンスライム(経験値0、ジョブ経験値3)を乱獲して最上位ジョブにしてからレベルを上げる必要があるからだ。


 最下級の魔物で複数のジョブを育てきる。それはマサ○タウンの横の草むらでフシ○バナをレベル100にしたり、ビサイ○島から出ずにスフィ○盤を埋めるのと大差ない狂気の沙汰だ。


 この苦行を成すには膨大な時間が必要な筈だが元々小学生ではまともなダンジョンなんて入れない。

 

 ここまで徹底する必要があるのか?

 という想いを抱きつつも俺はこん棒でスライム叩きに没頭した。



 そして俺は十歳になった。


 家族はもちろん施設の関係者から「狂人」認定を受けながらもジョブを育て続けた結果、遂に目的の最上位ジョブである「剣聖」にまで辿り着いた。


 親にそれ以外のあらゆる娯楽を求めない代わりに毎年買ってもらった施設の年間パスポートを片手に四年間、ゲーム本編4周分の時間を割いて手に入れたチカラだった。


 あほくさ。

 そう思いつつも神経質な俺は自分の想像し得る最強像を諦めきれなかった。


 これも一種の厨二病だろうか?

 非常にどうでもいい補足だが前世は中学二年生のクリスマスを間近に控えた夜に死んでいる。


 剣聖というより仙人や僧侶に近い状態に至りつつも四年の歳月を経てダンジョンの奥へ進む。


 俺を見送るグリーンスライムたちも嬉しそうだった、数百年自分達を家畜同然に虐げてきた魔王が勇者によって討伐された事を知って喝采をあげる村人たちのような躍動感のある喜びようだった。文字通り飛び跳ねるように喜んでいるな。


 普通の小学生ならイラッとして潰しにかかったかもしれないが、前世で中二まで生きた人生二周目のオトナな俺は用済みの雑魚には目もくれずさっさと先に進むことにした。


 剣聖の力は圧倒的だった。

 手にしているのは剣ではなく、こん棒だけど。


 本来レベル1で剣聖になるなんて不可能だから通常プレイでは決して味わえないレベルの一騎当千っぷりでレベルがガンガン上がっていく。


 戦う相手が低級のスライムなので当て馬にすらならないわけだけどレベルが上がるたびにグググッとステータスが伸びていく感覚は筆舌に尽くしがたく脳内麻薬がドバドバ溢れて汁だく状態だぜ!!


 しかし、そんなハッピータイムも数日で終わってしまう。


 この施設のダンジョンはあまりにも低級で最も強い魔物であるブラックスライムでもレベルが5を迎える頃には経験値が全然入らなくなってしまった。


 ゆるシカには「レベル差補正」というものが存在し、高レベルのキャラや魔物は低レベルの相手に対して絶対的な強さを発揮すると共に取得経験値もその格差に比例して減少してしまう。


 とはいえ適正レベル+1程度なら取得経験値は0ではないので、グリーンスライムで最上位ジョブに至った自他共に認める狂人の俺はしばらく通い詰め、6レベルまでは施設で上げきったのち、この施設を卒業することにした。


 施設に向かって最後に一礼するとパークの従業員と来園した家族連れからUMAを見るような目で見られた。が、グリーンスライム狩りでジョブ熟練度と共に鍛え上げた羞恥耐性スキルを有する俺にはノーダメだった。今なら全裸で山手線を五周出来そうなレベル。


 施設を卒業した俺には次なる鍛錬場が必要だった。


 13歳になればやりようによっては大手を振ってダンジョン探索する事が可能なのだが、3年間を無為に過ごすのはあまりにももったいない。


 なので、俺はダンジョンに不法侵入する事にした。


 朝から昼にかけては普通に小学生として過ごし、深夜に家から抜け出しダンジョンに忍び込む。これが非常にうまくいって、レベルはガンガン上がるし装備も整っていって最高だった!インベントリの中がどんどん充実していく。


 剣聖としてのスキルも充実してきて殲滅速度は更に加速していく!!溜めてきた鬱憤を全て晴らすかの如く暴れまわり、気付けばレベルはひとつの節目である30に到達していた。


 レベル30になると今まで出来なかったコンテンツが解放され、ゲーム性が大きく変わってくる。


 解放されるコンテンツは三つあり「スキルレベル」「使い魔召喚」「武器強化」となっている。


・スキルレベル

 文字通りスキルのレベル。

 初期が1で最大で10。

 レベルの上昇には使用回数を重ねるごとに上昇する熟練度上げと30レベル以降のレベルアップ時に取得出来るスキルポイントが必要。

 スキルレベルは3の倍数とマスターする10になる際に大きく効果が増大する。


・使い魔召喚

 召喚陣と特定のアイテムを使用する事で異界の住人を召喚し使役する事が出来る。通常プレイではヒロインとパーティーを組む機会が多いので活躍の場が少ない(パーティーの枠を食うので)が、アルティメットスキル(必殺技のようなもの)を使用出来ないデメリットを持つかわりに優れたステータスやスキルを持つ者が多い。


・武器強化

 みんな大好きエンドコンテンツ。

 特定の素材を集めて能力値を上げたり、武器の特殊能力であるエンチャントを付与したり強化したりする。中盤以降は必須の要素。


 ということでね。

 さっそく使い魔召喚からやっていく。

 使い魔を使役出来る人数は主人公だと一枠だけだったんだけど……何故か俺には二枠あった。


 多分ゲーム主人公の枠が少ないのはヒロインの誰かしらと一緒に行動する事が多いからかな……あとクラスメイトに召喚の才能が無いと馬鹿にされるイベントの為に存在する設定だと思う。


 主人公はユニークスキルとモテる才能に全振りしてる男だからな。召喚の枠数は基本的に1〜3で、ごく稀に0や4の人がいる感じだ。


 だから枠数2というのは久しぶりのモブ要素だね。召喚する中身はモブらしさがカケラもない感じだけど(犯行予告)。




 深夜4時。

 ダンジョン『暗がり廃都』第四層某所。


 アンデッドモンスターが周囲を徘徊する中、俺は地面に召喚陣を書いていた。


 スマホを片手にドロップアイテムである魔牛の血で筆を濡らしつつ黙々と作業をこなしていく。


 この世界において使い魔召喚は非常にメジャーな技術であり、ネットでちょこちょこ検索してやれば召喚陣のテンプレートはいくらでも知る事が可能だ。


 ただ、当然原作知識が無ければ気付けない要素もあった。


 召喚対象の種族や性別、能力まで指定出来る事は意外にも知られていない。


 召喚する際に捧げる供物と召喚陣の一部を改変するだけで簡単に出来る為知識チート初心者にも安心(?)なヌルい仕様だった。


 召喚陣を描き終え、供物を置いて祈りを捧げる。薄暗い玄室の闇に溶け込みつつあった赤黒い召喚陣が黒から赤へ、赤から黄色へと色を変えながら発光していき遂には黄金色のまばゆい光を解き放ち、室内を一色に染め上げる。


 目を焼くような光はしばらく放たれ続けたが、パシュン!という何かが弾けるような音と共に急速に収束していき……室内に再び暗闇が満ちると共に、先程までは居なかった少女が居た。


 肩に掛かる程度の艶やかな赤髪。

 左右から緩く巻かれた2房の髪がくるりんと垂れて、低い身長と童顔から感じさせる幼い印象をより強く強調している。


 円らな瞳はエメラルドを彷彿とさせる鮮やかな緑色の虹彩が印象的で見つめていると心の奥底を揺さぶられるような不思議な感覚を覚えた。


 小動物を思わせる小柄なフォルムに不釣り合いなクッッソデッッッッッカい胸とお尻は黒色のマイクロビキニにフード付きのコートでこれでもかと強調されている。


 めちゃくちゃエッチな格好の少女がそこに居た。


 ふむ。

 完璧だ。

 使い魔の管理画面を見てみると『サキュバス/マスターアサシンのリア』と表示されていた。リアちゃんか!なかなかかわいい名前じゃないか!


 原作ヒロインに手を出すのはNTRっぽいし嫌だなって思いつつもかわいい女の子の仲間が欲しい!と思って召喚ガチャに手を出してみたが、完全にあたりサキュバス(?)!!テンションが上がり過ぎて叫びたくなったが嫌われたくないので必死に平静を装う。


「あはっ♡ もしかして〜、もしかすると〜、わたしを呼んでくれたのはぁ〜、おにいさん??」

「そ、そうだ!」

「きゃー!ほんとにぃ〜?うれしいーっ!」


うおっ。

俺を上目遣いで見上げながらずいずいと近寄って来た少女が突然ぎゅーっと抱きついてきた。最高のチャンスなのに鎧を着ているせいで感触が分からない……!俺は無能な自分を思わず呪った。


「あたし絶対に役に立ちますから!これからよろしくお願いしますっ♡」


リアは満面の笑みを浮かべつつ、スリスリとこちらに甘えてくる。恐ろしいほどの人懐っこさ……こんなの勝てる男居ないだろ。


そんなかわいいリアと戯れながら、もうひとつ召喚陣を描いていく。


 リアに「えーっ、あたしだけで良くないですかぁ〜?」とちょっと拗ねた態度で見られながらもテキパキと作業を終わらせる。


「……」


 成功だ!

 今度の召喚陣から現れたのはロングストレートの銀髪、ツンッと伸びたとんがり耳と琥珀色の眠たげな瞳が印象的な美少女エルフだった。


 ダボっとした紺色のローブととんがり帽子、細くしなやかな右手には30cm前後の焦げ茶色のワンドが握られている。


 彼女は左右をきょろきょろと眺めたのち、俺のことをジッと見つめている。


「人間……あなたが私のマスター?」

「あぁ、俺は鳴海明。こっちがついさっき使い魔になったサキュバスのリアだ」

「リアですっ!よろしくねっ!エルフさん!」

「そう、私は……私はソフィアよ。使い魔としての経験は無いけれど、魔法使いに求められる魔法や術はひと通り扱えるつもりだから。末永くよろしく」


 ソフィアはそう言うとぺこりと頭を下げる。


 リアとソフィア、見た目的にも能力的にも最強格のふたりを仲間に加えて俺の最強化計画は更に加速していく!


 遂に13歳になった。

 中学校への入学……はどうでも良いとして、遂に正式にダンジョン攻略が許される年齢だ。誰でも許可が降りるわけではなく、試験に合格した優秀な人だけではあるけど……言うまでもなく一発で合格して資格をもぎ取った!


 最近はレベリングが停滞していた。

 というのも、深夜にこっそり行き来出来る範囲ではもう経験値がカケラほども入って来ない。良い機会だったのでドーピングアイテムの作製とまったく育ててなかったジョブのレベル上げをしていたので時間を無駄にはしてなかったけど。


 この世界の本編である高校入学までの3年間。ここからは今まで以上に真剣に強さを求めていく。




「遂にこの時が来たか……」


 そして現在。

 この世界に転生して幾星霜。

 前世の14年という短い生涯よりも長くこの世界での生を歩んだ俺は遂に決戦の地に挑む事となる。


 国立迷宮大学附属第一高校。

 その入学試験に挑む日がやって来たのだった。

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