25話「全てを終えて学園へと帰還ス」

 準備を整えて外へと出ると朝日が昇っていることから昨日の夜とは一転して周囲の状況がよく見えると優司達は白装束が生首を放り投げた茂みの近くへと来ていた。


「恐らくこの辺りだった気がするんですけどね……」


 優司が周囲を見渡しながら茂みの中を掻き分けて入っていく。


「もうちょっとこっちじゃないか?」


 その横では京一が指で方角を示すと全員は彼の指示に従って移動した。


 だがその中でも野村の行動力は桁違いであり仕事終わりで寝ずに来ていると言うのにも関わらず、率先して茂みの中へと身を投じると飛び出した枝や棘のある葉を諸共せずに生首を探しているのだ。


 既に頬や手には切り傷のようなものが何箇所も出来ていて、優司はそんな彼女の行動を見ると自分も本気で探さないといけないと、より一層注意深く周囲の捜索を行った。


「んー……一体どこに……」


 既に捜索を初めて三十分が経過しようとすると横から幽香の小声で呟く声が聞こえてくる。


「早く見つけ出して野村さんに報告してあげないとな……。どっちの結界だったとしても……」


 優司は地を這い蹲うようにして体を沈ませると視線を注意深く左右に向けた。


 そして暫く周囲を捜索したが一向に見つかる気配がなく、この辺りではないのかと考えて違う場所を捜索しようと彼が動き出した時に事態は急変した。


「おーいみんなァ! 見つかったぞー!」


 その大きな声は京一のもので一瞬にして周囲一帯に木霊すると、奥の方で捜索していた野村が手を止めて一目散に駆け寄っていた。優司も男性の頭部を確認する為に走り出すと、隣では幽香も捜索を中断して彼の元へと駆け寄ろうとしていた。


「せ、先輩……見つかったって本当に……?」


 優司は息を荒げて彼の元へとたどり着くと直ぐに頭部の在処を訊ねる。


「ああ、見つかったよ。……でも不自然なんだ。昨日の夜に俺達が見た頭部はまだ首から血が流れていたよね?」


 京一は難しい表情を浮かべると昨日の白装束と対峙した時に見た頭部の状況を聞き返してきた。


「は、はいそうです。確かに首から鮮血が流れ出ていたのを俺はこの目でしっかりと見ました」


 優司はその質問になんの意味があるのかと不思議に思うが、ありのままに自分の見たことを正直に話す。


「うーん……だとしたらこれはどう説明をするべきなんだろうねぇ」


 すると京一は頭を悩ませるように眉間を指で押さえながら、隣で魂が抜けたかのようにしゃがみ込んでいる野村へと視線を向けた。


「なっ!? こ、これは!」


 彼に釣られて優司も視線を向けると、そこには驚愕の事実があって自分は幻覚でも見ているのかと思わされるほどの衝撃が全身を駆け巡った。


「ま、まるで死後数週間は経過しているような状態じゃないですか……」


 彼が驚愕しているのを横に幽香は恐る恐るといった風に声を出すと、それが全ての答えであった。そう、優司が見て衝撃を受けたのは野村の目の前に転がる生首が死後数週間は経過しているであろう状態であったからだ。

 

 男性の頭部は既に水分が抜け切っているのか平乾びていて、そこには到底昨日見た血が滴るような鮮度はなかった。

 しかも頭部には動物に齧られたのであろうか皮膚が避けていりと所々に損傷が伺えるのだ。 


「ああ……あああ……あ”あ”あ”あ”!」


 野村は暫く放心状態であったが自身の中で漸く状況が追いついたのか目の前に転がる頭部に向けて泣き叫びながら何度も地面を手で叩いていた。


「せ、先輩……」


 彼女の悲痛な後ろ姿を見て優司はなんて声を掛けたらいいのかと悩む。


「言わずとも分かっているよ優司くん。どうやら俺達は最も最悪な展開を引いたらしい」


 京一は何処か達観したような表情をして空を見上げながら呟いていた。


「そんなぁ……嫌だぁ……どうしてこんな事に……あ”あ”あ”あ”」


 野村の泣き叫ぶ声が優司の鼓膜に響き渡ると、如何にその現実が受け入れがたいものかという彼女の心情が何となくだが理解出来た。

 そして同時に他人の自分がいくら慰めの声を掛けたとしても意味がないということも。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから暫くして野村が多少の落ち着きを取り戻すと警察に連絡して、数人の警官が現地へと到着すると色々と調べ始めた。


「なるほど。つまり学校の授業の一環で神社を取材しているとたまたま見つけたと、そういう事だね?」


 中年ぐらい歳の警官が優司に発見時の事情を訊ねると胸ポケットからメモ帳を取り出してペンを走らせていた。だが警察には何か決まり事でもあるのか一人一人から事情を訊ねていて、少し離れた場所では幽香と京一も他の警官によって色々と質問されている様子である。


「は、はいそうです」


 けれどそんな二人を他所に優司は警官を相手に”嘘を付く”という行為に妙な緊張感を抱きながら返事をしていた。

 

 実は事前に京一から悪霊の事に関しては一切喋ってはいけないと念を押されていて、頭部を見つけた時の状況は先程警官が言っていた通りに”取材”という学校の授業の一環を利用して誤魔化す事になっているのだ。


 一応警察側にも除霊師は存在するのだが元々除霊師の人数が減少傾向にあり、その主な管轄は東京や名古屋や大阪と言った主要都市のみに限定されていて、警察署内でも限られたごく一部の人間しかその存在は知らないと京一はこの場に警官達が集まる少し前に小言を漏らしていた。


「んー……君も中々に難儀な事に遭遇したものだな」


 メモに何かを書き終えたのか警官はペンを動かす手を止めて帽子のつばにノック部分を当てると、その表情は随分と複雑そうなものであった。


 恐らく死体を目の当たりにした事で自分達がストレス障害か何かを患わはないか心配しているのであろうと優司は警官の顔を見ていて直感的に思う。


「あ、あの! 遺体の方はまだ見つからないんでしょうか……」


 だがそんな心配事をされるよりも今の彼は野村の弟の胴体の行方が気になって仕方がない。

 一体どこで悪霊は首と胴体を切断したのかと、一応警官に通報したあと優司達は捜索したのだ。

 ……だがそれでも胴体だけは見つからないで今に至る。

 

「目下捜索中とだけ言っておくよ。だけどまあ、こんな残忍な事件が田舎で起ころうとはね。ここに赴任してきて始めての出来事だよ」


 警官は探しているとだけ言ってはぐらかすように周囲を見渡すと帽子を脱いで頭を掻いた。


「そうですか……。あ、あとやはり男性の頭部ってあの人の……」


 優司はこの質問をこれ以上は続けても無駄だと悟ると、次に例の頭部が本当に野村の弟のものかと一部の希望を賭けて聞く事にした。

 仮に違うという言葉が警官から出れば少しは救われるとそう思ったのだ。


「ああ、弟さんので間違いないね。先程検証が終わって歯型が一致したよ」


 だが現実とは無情であって彼が淡々とした口調でそう告げる。


「……ッ」


 優司は何も返す言葉がなくり下唇を噛み締めることしか出来なかった。


「優司……こればかりは仕方ないよ。どれだけ頑張ろうとも僕達が来る前に起こった出来事は何とも出来ない。だけど僕達が悪霊を払った事できっとこれ以降は誰も死なないはずさ」


 軽い事情聴取を終えたのか幽香が後ろから声を掛けてくる。


「そう……だと良いな」


 優司は振り返りらずにそう呟いて静かに瞼を閉じて願う。

 これから先に、この神社に訪れる者達が二度と悪霊の被害に遭わないようにと。


「ああ、そうだった。君達には今から発見時の事情を詳しく聞かないといけないから一旦署まで来て貰えるかな?」


 警官がそう言って申し訳なさそうな顔を見せてくる。


「ええ、もちろんです」


 横から京一がしっかりとした声色で返事をしてから大きく頷いていた。

 どうやら彼も他の警官との話し合いが終わったようで優司のもとへと寄って来ていたらしい。


「じゃぁ早速で悪いけど下で車を留めているから行こうか」


 彼の返事を聞いて警官が先導を歩き出す。


「ま、待って下さい!」


 だが横からは急に優司達を呼び止める声が聞こえてきた。

 しかもその声が野村のものだと分かると直ぐに、


「野村さん? 一体どうしました?」


 京一は振り返りざまに困惑した様子で訊ねていた。


「こ、この度は私の依頼を受け入れて頂きましてありがとうございます。あとで学園の方に連絡を入れて依頼の事を報告します。ッ……今回は本当に……ありがとうござ……いました……」


 彼の元へと駆け寄ると野村は依然として涙を流しながら弟の死を悲しんでいる様子ではあったが、優司達が無事に任務を達成したことについて感謝の言葉を述べると頭を深々と下げていた。

 

「こちらこそ依頼達成に必要不可欠な寝床や食材の準備をして頂きましてありがとうございます。最後にこんな結果になろうとは思いませんでしたが、貴女の後ろにはしっかりと弟さんが笑顔で今も貴女を見守り続けていますよ。……それでは我々は事情聴取があるのでこれで」


 感謝の言葉をしっかりと受け止めた様子で京一が口を開くと色々な事前準備をしてくれた事に感謝をすると共に、優司には見えなかったが野村の背後には今も弟がしっかりと居ることを言って励ましているようであった。


 それが仮に嘘だとしても人を傷つけいない嘘であるならば時として必要な場合もあると、優司は先輩と野村の少しだけ和らいだ表情を見ながらまた一つ学んだ。


「……ッ! あ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”」


 彼の言葉が彼女には深く響いたのかその場で泣き崩れるようにてしゃがみ込むと直ぐに周りから警官が集まって来て、京一は優司達に顔を近づけると早々にこの場を離れて事情聴取を済ませて学園に戻ろうと小声で囁いてきた。


 ――そしてその場を後にしてパトカーへと乗り込んで警察署へと向かうと、そこでは三時間ぐらい拘束されて学園へと戻る頃には午後の一時頃となっていた。


「まあ色々とあったけど学園に帰るまでが任務だからねっ!」


 学園へと戻る為に電車へと乗車すると京一が白い歯を輝かせながら急にそんな事を言う。


「「……はい」」


 既に事情聴取で今日一日分の体力を消費した優司と幽香は頬を引きつらせて力なく返事をすることしか出来なかった。

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廃墟に行ったら呪われて死の宣告をされた件。~俺の幼馴染は朝と夜で性別が変わる~ あーるろくろくろく @R666

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