13. こんな日に限って

朝のホームルームが始まるまであと30分。

ミオは秘密の庭園に足を運んでいた。


悪魔の像がある場所へ向かうと、ふわふわくせ毛の少年……ハルキがいた。

「先輩、おはようございます」

「あ、ミオさんおはようっす」

ハルキはモップを持っていた。相棒のパルも雑巾を片手に持っている。

「浄化作業してたんですね。お疲れ様です」

「いやいや、まだ始めたばかりっすよ」

ロロンもパルに近づき、ほっぺをツンツンする。

「パルも早起きしてめっちゃ偉いじゃん〜」

「えへ、すごいでしょ〜?もっと褒めてもいいんだよぅ」

ミオも慣れた手つきでロロンと一緒に雑巾を魔法で作り出して、悪魔の像をゴシゴシと拭いて浄化していく。

掃除しているところからチラチラと光り粒が溢れ、悪魔の像はじわじわと小さくなっていく。

ミオ達が浄化をしたばかりの頃はまだ2メートルほど高さのあった像も、今では幼児の背丈ほどになっている。

ツバキとミナトが時間を見つけては秘密の庭園に来て浄化作業を手伝ってくれたおかげで、今週中にはこの悪魔の像も完全に浄化できそうだ。


「あー、ハルキ君、そろそろ教室に戻った方がいいんじゃない〜?」

パルにそう言われ、腕時計を見ればホームルームが始まるまで10分を切った。

「じゃあ、今日は昼休みに図書委員の仕事が入ってるんで、今度は放課後に来るっす」

ハルキがそう言うと、パルはりょ〜かい〜とゆるく返事した。

「私は昼休みも来るね」

「うんっ。待ってるね!昼休みまでに妖精みんなでやれるだけこの悪魔の像、浄化しておくから!」

ロロンがそう言いながらベシベシ悪魔の像を叩く。

「ロ、ロロン!そんなに叩いたら危ないよ!」

「封印が解けたらヤバいじゃないっすか〜今日はツバキ先輩とミナト先輩、遠足でいないんすよ?」

ハルキの言う通り、今日は三年生の遠足の日。

頼れる先輩であるツバキとミナトは不在だ。



(今日も、何事もありませんように……)

ホームルームで先生の話を聞きながら、ミオはそう思った。



昼休みにミオとヒナタは秘密の庭園に訪れ、昼食を食べたあとは悪魔の像の浄化をひたすらした。


「ふぅ……」

「ヒナタちゃん、大丈夫?ちょっと休憩したら?」

フェルがヒナタの水筒を持ってきて休憩するように声をかけた。

「そういえば、午後の授業ってなんだっけ?」

フェルから水筒を受け取ったヒナタがぽつりと言った。

「……数学」

ミオが答えてくれたのだが、少し声のトーンが低い。

ヒナタはすぐにミオのテンションが低い理由がわかった。

「数学の先生、日直の人にまず当てるもんねぇ」

「今日一日、よく当てられたから疲れちゃった……」

「それは大変だったねー。もう浄化作業はここまでにして、午後の授業の準備したら?」

ロロンにそう言われ、ミオ達は少し早めに教室に戻ることにした。


午後の授業もつつがなく終わり、鞄に教材を詰め込んだ生徒達は、教室を出ていく。

そんな中、ミオはシャープペンを走らせ日誌を書いている。

「ミオちゃん、黒板の日付、書き換えとくね」

「ありがとう、ヒナタちゃん。黒板の終わったら、先に行ってて」

ヒナタはわかったと言って、黒板へと向かった。


日誌を書き終わったミオは、職員室に行って担任のデスクに日誌を置いてくる。

職員室を出て、秘密の庭園に行くため、人気のない場所に向おうと階段を登りかけた瞬間、指輪が急に光った。

そして、ロロンが飛び出して来た。

「!?」

ミオは思わずロロンの名前を呼びそうになるが、何とか留めることが出来た。

職員室に近いので、先生や生徒があちこちいる。

「ロ、ロロン……どうしたの?」

小声でそう聞きながら、ミオは足早に階段を登り、人気のない場所に向かう。

「ミオちゃんっ!やばいの!」

「何がやばいの?」

「こんな日に恐れてたことが起きちゃった!!」

「だ、だから何?」

ミオはもう走っていた。ロロンのこの様子、何となく何が起きたのか想像がつく。


「悪魔の封印が解けちゃった!!」

ロロンがそう叫ぶと同時に、ミオは壁をノックし、現れた扉を開けた。


扉をくぐり抜けた先、いつもなら青空の空が、灰色の雲に覆われている。

そして、いつもなら妖精達の楽しそうな喋り声が聞こえるが、今は悲鳴が聞こえる。


「ミオちゃん!!こっち!早く!早くしないと、庭園がっ!!」

ロロンの後を、ミオは走って追いかけた。


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