14. 悪魔の浄化

秘密の庭園で、ミオとロロンは光るキノコの森にある切り株に座っていた。


「むむむ……」

ミオはぎゅうっと目をつむり、両手を祈るように固く握っていた。

向き合うロロンもそっと目を閉じて杖を構えている。

しばらくすると、ミオの指輪とロロンの杖から淡い黄色の光の粒子がふわふわと溢れ出し、集まってきてテニスボールほどのサイズになった。

そして、ぱちんっと光が消えると同時にコロンと地面に何が落ちた。

ミオは目を開けて、地面に落ちた物を見つけると安堵した表情になった。

「良かった……ちゃんとシャープペンが作れた」

ロロンが地面に落ちたシャープペンを持ち上げる。そして、ベシベシと叩くが、シャープペンは消えることはない。

「やったね〜ミオちゃん!ちゃーんとシャープペン作れてるよっ!」


最近は、ミオもヒナタも魔法の練習は順調である。

自分たちが普段からよく使う小物類はもう完璧に魔法で作れるようになった。


「シャープペンの次はどうしようかな……」

次に何を作るかミオが迷っていると、「お〜い!」と誰かに呼ばれる。

ミオとロロンが声がした方を向くと、ヒナタとフェルが手招きしていた。

「ミオちゃん、ツバキ先輩達が呼んでる〜!」



ツバキ、ミナト、ハルキは時計塔のふもとでミオ達を待っていた。


「みなさん、お待たせしました」

小走りでミオ達はツバキ達のもとに駆け寄った。

「魔法の練習、順調みたいだね」

ツバキにそう言われ、ミオとヒナタは頷く。

「そろそろ音木と金森にアレの説明をしようと思って呼んだんだ」

ミナトの言う『アレ』がわからなくてミオとヒナタは首を傾げた。

「ミナト先輩、アレ……ってなんのことですか?」

ミオが尋ねると、ミナトは真剣な表情で答えた。

「悪魔の浄化のやり方」

ミオとヒナタは息をのむ。

「つ、ついに教えてもらえるんですねっ」

ヒナタは早く知りたいと前のめりになる。ミオもぎゅうっと拳を握っていた。


ツバキ達の後ろをついていくミオ達。

歩いて歩いて、突然、目の前に黒い世界が現れた。

草木が全くない、一面黒い地面。空もこの辺りだけ曇っている。

さらに黒い地帯を歩いていると、何か立っているのを見つけた。

「銅像……?」

高さは2メートル程の、黒い、いびつな形をした像。

ツバキ達は黒い像の前で立ち止まった。

「これが、妖精女王が石化して封印した悪魔っす」

ハルキにそう言われ、ミオとヒナタは悪魔の像をまじまじと見る。

片腕と片羽がなくなっている。顔も三分の一削り取られたようになっていた。

残っている口元から覗く鋭く長い牙。やたらと長い腕に、何でも切り裂けそうな鋭い爪。

そして、背中についた、そばにいる妖精のロロン達とは違う悪魔の羽。

「これが、この庭園を襲撃した悪魔……」

ミオはポツリとそう呟いた。


パチンとツバキが手を叩いた。ハッとミオとヒナタはツバキを見る。

「さて、2人に質問です。先生から掃除道具を一つ持ってこいと言われました。2人なら何を持ってくる?」

「え、掃除道具……ですか?その、清掃内容によって持ってくる道具って変わってくるんですが……」

ミオが困惑した表情で言うと、ミナトとハルキが「難しく考えないで!」と言ってきた。


「えっと……スポンジ、とか?水洗いとかで使う……」

「私は、ぞうきん……ですかね」

ヒナタはスポンジ。ミオはぞうきんと答える。

「じゃあ、今から魔法で作ってくれる?」

ツバキにそう言われ、2人は困惑しつつも頷き、ロロンとフェルと一緒に魔法で作り出す。


ツバキ達も相棒の妖精と一緒に魔法で何かを作り出していた。

ツバキはほうき。ミナトはモップ。ハルキはブラシだ。


「2人とも、よーく見ててね」


ツバキ達は魔法で作り出した掃除道具で悪魔の像を掃除し始めたのだ。

こすったり、はたいたり、ガシガシ、ゴシゴシと悪魔の像を削るように掃除する。

シュシュ、フィーナ、パルもほうきやブラシで掃除をしていた。


「あ……!」

ミオは声をあげる。

ゴシゴシとツバキ達がこすったりしているところから、ちらちらと光の粒子が溢れていた。


「悪魔の浄化ってこうやってやるんだ!」

ミナトがモップでゴシゴシと悪魔の像をこすりながら言う。

「悪魔の像が消えるまで、こうやって地道に魔法で作り出した掃除道具で浄化していくの。やり方、理解できた?」

ツバキにそう問われ、ミオとヒナタは頷く。

「でもね〜、この作業ってすごぉくパワーを使うの〜。長時間やりすぎちゃうと、人間も妖精もバタンッって倒れちゃうから気をつけてねぇ」

ハルキと一緒にブラシでゴシゴシしていたパルがのんびりとそう言った。

ミオとヒナタは「わかりました!」と元気よく言うと、ロロンとフェルと一緒に悪魔の像を掃除し始めた。


ミオとロロンは悪魔の背中側をぞうきんでこすっていた。

確かに、こすればこするほど、体力が削り取られていくのがわかった。

一時間もやったら、疲れ果てそうだ。

そんな時、ロロンが「あれ?」と呟いた。

「どうしたの?」

「なんか、大きなひび割れがある」

ロロンが指さしたところを見れば、縦方向にひび割れがあった。長さは10センチ程だ。

すると、ツバキ、ミナト、ハルキが血相を変えて覗き込んできた。

「ひび割れ!?どこ?見せて!」

「こ、これです」

「うわわ〜これ、結構やばくないっすか?」

「やばいな……」

ヒナタもおずおずと覗き込む。

「ひび割れが、どうかしたんですか?」


「もしかしたら、封印が解けちゃうかも」

ツバキのその一言に、ロロン達、妖精がひえっと声をあげた。

「封印が解けたら、またこの庭園が荒らされちゃう……!」

「そんなのやだよぉ」


「つまり……はやくこの悪魔の浄化をしないといけない……」

ミオの呟きに全員が頷いた。

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