21話「ハウル村の復興、開始」

 ジェラードは数人の村人を仮設所から連れ出すと、そのまま家が密集している場所へと向かった。そして彼がその場所へと到着すると周りには、簡素な作りでありながらも家が何軒も建っていた事が伺えた。


 その殆どは形を留めてなく燃え尽きて炭になっていたり、ゴブリン達が破壊したのであろう原型の留めていない物が多く、これを一から全て作り直すには普通の人間ではとてもじゃないが時間が掛かるだろう。しかもハウル村の生き残りは女子と子供が大半で男性は一人だけだ。


「うーむ、これは一度更地にしたほうがいいな」


 改めて村の現状を目の当たりするとジェラードは手を顎に当てながら呟き、隣に立っている女性へと視線を向ける。


「おい、スーリヤ。今はお前がこの村の村長代理だったよな?」

「あ、はい……そ、そうですが……」


 彼からの唐突な質問にスーリヤは戸惑っている様子だ。しかし彼女こそがハウル村の村長代理である。元々の村長はゴブリンの襲撃を受けた際に村人達を守ろうとゴブリンロードに挑み、殺されて原型を止めないほどにミンチにされたらしいのだ。


「お前達が全ての家を建て直すには膨大な時間が掛かるだろう。そこで、俺が特別に魔法を駆使して前の家より豪華な一軒家を作ってやる。だから村長代理として、この辺り一帯を更地にする許可を出せ」


 ジェラードがスーリヤに声を掛けた理由はこれが全てであり、中途半端に残骸があると魔法で家を建てる際に干渉を受けて面倒なのだ。

 ゆえに全てを一度無にすることで家を建てやすくしようと彼は考えたのだ。


「そ、それは……」


 彼の言葉を聞いてスーリヤは狼狽え出すと直ぐに返事が出る事はなかった。

 彼女はそのまま一歩後ろに下がると、ジェラードが連れてきた他の村人達へと顔を向ける。

 

「スーリヤお嬢さん……私達は構いませんよ。……住むところが元通りになるなら、これ以上の幸せな事はありません。それにきっと他の人達もそれを望んでいると私は思います」

「……わ、私もそう思うわ……」

「あ、あたしも……それがいいと思う……」


 一人の女性が落ち着いた声色でスーリヤへと話し掛けると、あとに続く形でその場に居る女性達が次々と同じく声を上げた。

 そしてそれを耳にしたスーリヤは胸元で小さく握り拳を作ると、


「わ、分かりました……。魔術師様、お願いします……村の人達がこれ以上寒くならないように、どうか暖かな家を作って下さい……」


 女性達に返事をしたあとジェラードへと視線を向けて家を建て直して欲しいと頼み込んできた。

 どうやら先ほどの女性達の声が彼女に響いたらしく、握り拳は村長代理として何か覚悟の様なものを決めようとしているのだろう。


「ああ、無論だとも。俺とて中途半端な事は嫌いだからな。やるなら完璧にこなしてみせよう」


 スーリヤが更地にすることを許可するとジェラードは人差し指を立たせて円を描き始める。

 すると彼の視線の先にある数多くの家が突如として粉々になり始め、木が灰となると風に乗って舞い始めた。


 その光景にスーリヤを含めて周りの女性達は声にならない様子で驚愕しているようだ。

 皆一様に手で口元を覆うようにして目を見開いて見ているのだ。だがジェラードはそんなこと気にも留めずに、中半端に残っていた家の残骸を風魔法を使って粉々にしていった。


「ふむ、これで建て直す際に干渉してくる物はないだろう。かえって家の残骸がある方が邪魔だったからな」


 やがて全ての家を粉塵と化すると彼の視界には何も残らず、粉々になった家の残骸がジェラードの着ているローブへと付着して手で払い落としながら言葉を口にした。


「す、凄いですね……。一瞬で家が粉になりましたよ……」

「魔法は万能だからな。さて、このまま家を一気に作り直していくか」


 スーリヤが震える声で零した言葉にジェラードは鼻で笑って返すと、今度は右手を広げながら突き出して造形魔法を発動した。

 

 その際に粉塵となった家の残骸を集めて利用し、新たな家の糧とした。

 足りない部分は周辺の森の木を少々拝借することになる。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 それからジェラードが造形魔法を発動して五分ほどが経過すると、周りにいる女性達は過呼吸を起こすほどに目の前の光景が信じられないと言った感情を顕にしていた。

 だがそれもその筈。彼は次々と家を建て直し、そのどれもが立派な木造建築なのだ。


「ふぅ、これぐらいあれば村人全員が住めるだろう。……まあ、少しばかし作り過ぎたかも知れんが」


 ジェラードは右手を下げて短く息を吐くと自らが作った家の数々を見て納得するように頷いた。

 そして家を作り終えた彼はその場に居る数人の女性達に言伝を頼む事にする。


「すまないがスーリヤ以外は仮設所に戻って、家が完成したことを皆に伝えてくれ。あと家は好きに選んでくれて構わない」

「「「「わ、分かりました……!」」」」


 彼の言葉を聞いた女性達は全員が頭を下げて同じ言葉を残すと、そのまま仮設所へと小走りで向戻っていく。すると隣に立っているスーリヤが困惑した様子で、


「な、なぜ私は残されたのでしょうか……?」


 とジェラードに視線を向けて訊ねてきた。


「ああ、それはだな。他の魔物がいつ襲ってくるかも分からんからな。その対策の為にお前を残したのだ。……そうだな、ちょっと付いてこい」


 両腕を組みながら彼はそう言うとスーリヤを連れて歩き出した。

 彼女は突然な出来事に挙動不審状態ではあるが、しっかりと隣を付いて歩いている。

 ――そして二人が向かった場所とはハウル村の外である。


「なあ、スーリヤよ。この村は余りにも無防備に見えんか?」


 ジェラードが村の全体を視界に収めながら言う。


「は、はい……魔術師様のおっしゃる通りです。……しかしだからと言って私達にはどうする事も……」


 小さく頷きながらスーリヤは返事をしてくるが、彼女がそう言ってくる事は彼にとって想定済みで後は許可を得て”とある物”を作ろうと考えていた。


「そうだろうな。村もまだ家が直っただけだしな。……だが今対策しておかねば、このあと俺がこの村に滞在している保証はないぞ? アナスタシア曰く俺は気まぐれらしいからな」


 何をどうしたら良いのかと迷っている様子のスーリヤを見て、ジェラードは次なる言葉を口にするとそれはちょっとした催促でもあった。


 それは家を簡単に建て直す姿を見せたあと敢えて自分が村を中途半端にして出て行く事をほのめかす事で、通常の復興では膨大な時間が掛かるという印象を与えたのだ。


「そ、それは……つまり私が頼めば何とかしてくれるという……事ですか?」


 スーリヤは考える素振りを見せたあと自身の手元を触りながら若干上目遣いで返してくる。


「ああ、そうだ。村長代理であるお前が俺に頼めば、この村を囲むように”外壁”を作る事だって可能だ」


 ジェラードは彼女に向けて強気な口調で言い切ると、スーリヤは自身の頭を左右に振ってから口を開いた。それはまるで家を建て直す際に見せた覚悟のようなものを呼び起こす為に余計な邪念を払うような勢いでだ。


「で、でしたら……お、お願いします! 村長代理としてこの村を私は守らないといけないんです……っ!」


 スーリヤが頭を下げて頼み込んでくる。


「了解した。では少し離れていろ」


 その言葉には確かな力が宿っている事をジェラードは感じ取り彼女を後ろの方へと遠ざけた。

 今から木製の外壁を生成してハウル村を囲む工程で多少なりとも危険が伴うからだ。


「造形魔法発動、木を媒介として外壁を生成せよ。同時に空間魔法発動、任意の場所へ外壁を展開」


 ジェラードは左手で造形魔法を発動して外壁を生成すると、次に右手で空間魔法を発動して生成した外壁を次々とハウル村を取り囲むようにして設置していく。

 無論、索敵魔法で周辺に村人達がいないことを確認してから行っている。


「す、すごいです……! 何もない場所から次々と分厚い木の柱のようなものが……っ!!」


 彼の背後からスーリヤの驚愕の声が聞こえてくると、ジェラードは小さく振り返って彼女に視線を合わせると「アナスタシアに感謝することだな」と言い放った。そもそもの話アナスタシアが村の復興を言い出さなければ、ここまでする気は毛ほども彼には無かったのだ。

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