夢譚

梅田 乙矢

夢のお話

その日はいつもと少し違っていた。

日が落ちはじめていたわけではなかったのだが、空の色と雲が薄いピンク色になっていたのだ。

私は友人達と町外まちはずれの湖で遊んでいて空を見上げ

「なんかメルヘンチックで可愛らしい空だね」

などと話していた。

湖も空の色を反射していて薄ピンクになっていて綺麗だ。

友人の一人が空を指さして

「見て!透明な道がある」

と言った。

空を見上げると螺旋らせん状になって

はるか彼方に伸びている手すりも何もない透明なガラスのような道が見えた。

「すごい綺麗だね。登っていけるのかな?」

空まで行けるのなら行ってみたい。

道を探していると湖のはしの方に

着水しているのをみつけた。

私達は早速登り始めた。

登りながら空を見上げると何かが浮かんでいるのが見え、道の真ん中あたりを車が走っている。

空に近づくにつれあまりの高さに足がすくんでしまい友人達は登るのを諦めておりていってしまった。

私はこんな機会は二度とないからと恐怖心をおさえて登り続けた。

段々空に近づくにつれ道にゴミや蜘蛛の

死骸などが落ちているのが目につくようになった。

下から見たときはあんなに美しい透明な道だったのに思っていたのと違うなと思いながらも頂上まで辿り着く。

そこは目を見張るような美しい広場で

全てが白いレンガや石でできており

広場の真ん中には彫刻がほどこされた噴水があった。

その左右にはレンガで作られた花壇があって色とりどりの花が咲きみだれている。

噴水の奥にはギリシャ神話に出てくるような宮殿がありその建物に惹かれるように私は中へと入っていった。

建物の中は白い大理石でできていてちょっとしたホールになっている。

外と違って中は薄暗い。

私はホールの奥に人が立っているのに気づきハッとした。

どうやらここの案内人のようだがなぜかピエロの格好をしている。

白塗りで赤い口が耳まで描かれた笑顔のメイク、目が痛くなるような派手な色の服を着て緑色の山高帽やまだかぼうをかぶっている。

一気に不気味な雰囲気へと変わっていった。

身振りで中へどうぞとうながしている。

しぐさなどは丁寧だが、一言も喋らずずっと笑顔でいるのはやはり気味が悪い。

私は促されるままホールから奥へと続くはばの広い廊下を歩きはじめる。

廊下は左右にドアがたくさんあり閉まっている部屋が多かった。

最初に見えてきたのは右側の部屋だったが、

その部屋はドアが開けっ放しで中が見えるようになっていた。

意外と広い部屋で木でできたはた織り機のような器具が所狭ところせましと置いてある。

器具には左側に取っ手が付いていて真ん中には上下に大きな麺棒のようなローラーがついている。

最初は気づかなかったのだが、部屋のすみに二人の人間が見えた。

一人は笑顔で器具を操作して取っ手をクルクル回しているようだ。

もう一人は上下のローラーの間に固定され

苦しげにもだえて逃げようと必死になっている。

私は瞬時に理解した。

拷問されているのだ。

笑顔の男は楽しそうにはた織り機のような機械を操作しながらローラーにゴリゴリと潰されていく男を見ている。

私は見つからないように静かに後退あとずさりした。

左側の部屋も一部屋だけドアが開いていたのでそっとのぞいて見る。

そこには誰もいなかったが、やはり拷問器具が置かれていてよく見ると赤黒く変色した何かが付着している。

私はこの建物は危険だと判断して急いでホールへ戻ろうと振り返り唖然とした。

宮殿の入口側の壁沿いにガラスケースに入った人間の臓器や茶色に変色した皮膚の

人体模型のようなものがずらっと並べられていたからだ。

中へ入った時は薄暗さと不気味なピエロに気を取られて全く気づかなった。

ここは危ない!私は走り始めた。

ピエロがニヤニヤしたまま私を見ている。

来たときはあんなに美しいと思っていた花壇も噴水も今では気持ちの悪い物にしか見えなかった。

透明な道を駆け下りる途中薄汚い緑色のトラックとすれ違ったのだが、そのトラックは

荷台にほろかぶせてあってその隙間からバラバラになった人間の手足がはみ出ているのが見えた。

ここは人間の遺体や臓器を展示する博物館か何かなのかもしれないとありえないことを思いながら走り続ける。

私は地上で待っていた友人達にとにかく逃げるようかし全員で人の多い場所を目指した。



駅につき電車に飛び乗った私は友人達に上であったことを話した。

「無事に逃げられてよかったね」、「危ないところだった」などと話していたのだが、

会話は自然と別の話題へとうつっていった。

電車の中がいつもと同じ風景で安心したのかもしれない。

話しているうちに降りる駅へと着いた。

駅は人であふれている。

電車のドアが開き降りようとした瞬間に私は固まった。

あのピエロがドアから少し離れた場所で待っていたからだ。

こんなに人がたくさんいるというのにその存在に誰も気付いていないようだ。

私は逃げられないと思いピエロへ向かって走っていき何を思ったのか顔面を思いっきり殴りつけていた。

私の手は顔の側面へめり込んだのだが、

妙な感触だった。

駄菓子屋なんかで売られているあの紙風船を膨らませて思いっきり叩いたときのようなクシャとした感覚が手に伝わってきたのだ。

ピエロはビクともしない。

ニヤニヤした顔のままでそこに立っている。

顔は半分だけ変形し赤い脳みそが飛び出し

他の臓器も見えているというのにまるで何も

起こっていないかのようにニタニタしている。

私と友人達は叫び声を上げて駅から逃げ出した。


私はパッと目を覚ました。

妙な夢を見たものだ。

やたらとリアルで色彩もピエロも空に伸びる道もはっきり覚えている。

でも、綿あめみたいな薄ピンクの空に飴細工のような透明な道は本当に綺麗だった。

まだ眠っていたらあの後どうなっていたんだろう。

私はベッドからでてキッチンへ向かい

コーヒーを片手にソファに座った。

おだやかな朝にホッとする。

テレビをつけようとリモンコンに手を伸ばしたときに違和感を感じた。

誰かに見られているような視線。

周りを見渡したが、誰もいない。

気のせいかと思いテレビに顔を向けようとした時、ベランダのレースカーテン越しに人影がうつっていることに気付いた。

その影は、山高帽やまだかぼうかぶっているようだ。

カーテンの隙間から夢で見たピエロが立っているのが見えた…。

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夢譚 梅田 乙矢 @otoya_umeda

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