第23話 ニンスターの魔法?
「早速ですが、少し気になることがあります。先代の聖女様は、なぜ謀反の起こるその時まで、導きを得られなかったのか」
星はヴィトラウシスを助けている。つまり、現皇帝を良しとしているわけではない。
「……ああ。当時は私の耳にも入ってくる程だった。星の導きを受け取れず、国を壊した無能な聖女、と」
「失礼しました」
アネリナに先代聖女――ヴィトラウシスにとっては叔母であり、命の恩人であるその人を侮辱する意図はなかったが、そう取られても仕方のない言い方になった。そのことを謝罪する。
「既にご存知かもしれませんが、おそらくそれに関連して、お伝えしたいことがあります」
「何だ?」
「わたくしを襲撃してきた者が言ったのです。『闇の帳に遮られて尚、まだ星の光に集うか』と」
「……それは」
アネリナの話の向き先が変わったのに気付いたのだろう。
恩人を侮辱された憤りを堪えるために寄っていたヴィトラウシスの眉が、今度は訝しげなものへと変わる。
そしておそらく、彼が持った印象もアネリナと同じだ。
「皇帝は、国を滅ぼそうとはしていません。だから聖女や星神殿の存在を許容しているし、子どもを繋げと要求してくるほどです」
「ああ」
「ですがわたくしを――聖女を、殺そうとしてくる者もいる」
しかも聖女がこの大地で担っている役目が真実だと、理解していながらだ。
「皇帝とその一派が繋がっていないとは思いません。皇帝が謀反を起こしたのは、きっと彼らによって聖女の力が阻害されているのだと、知っていたからかと」
「だが、目的は違ったのかもしれない」
「はい」
人々から星の加護を失わせようとしている。そうとしか思えない行動だ。
「彼らは、聖女ユリアが死んだものだと思っていたようです。聖女を名乗って姿を見せたわたくしのことが、余程気に掛かったらしい」
儀式によって加護を受ければ災害は減るらしいが、皆無になるわけではない。それは歴代聖女の時代も同じであったという。
だから思ったのかもしれない。今は聖女――というか星の一族による加護で災害が少ないのではなく、ただそういう周期なのだと。
「彼らは儀式の邪魔をしようとしてくるでしょう。警戒が必要ですね」
「そのようだ」
アネリナもそうだが、ヴィトラウシスにとっても心労が一つ増えたと言える。
明日からのことを考えてか、眉間にしわを寄せて腕を組み、椅子の背もたれに体重を預けた、その瞬間。
「うぉ!?」
椅子が急に傾き、らしくなく、品を欠いた驚きの悲鳴を上げる。
「おや。貴方でもそのような声を上げるのですね」
「驚けば誰だって同じだろう」
僅かに頬に朱を上らせつつ、立ち上がって屈み込む。
「……これは」
そして椅子の足を確認して、やや呆然とした呟きを零した。
「どうしました?」
改めて見れば、それはアネリナが盾兼武器として使った椅子だった。その脚の所に、妙な窪みがある。
まるで強い握力で握り潰されたような、人の手形がくっきりと。
「……」
さすがに、元々ついていたのだろう――とは思い難い。
「火事場の馬鹿力、というものでしょうか。随分甘くナイフを握っていたものだと思いましたが」
実はそうでもなかったのかもしれない。
襲撃者は聖女の豪快な反撃にも驚いたのかもしれないが、予想外の力で弾かれたことが一番だったのか。
「ニンスターの魔法は、こういうものなのか?」
「分かりません。何分、ニンスターではあまり魔法は盛んではなかったのです」
アッシュ曰く、アネリナの魔力は高いらしいので、これから探っていくつもりだった。
「しかしそうであるなら、悪くありませんね」
「聖女らしくはないがな……」
「ああ、イメージは大切です。留意します」
ただでさえ、聖女ユリアは病弱なはずなのだから。
「ですが聖女を害そうとする者の存在が明らかになったのです。身を守るためにも、わたくしに力があるのなら磨いて行かなくては」
「貴女が建国祭に臨む頃には、病弱さなど欠片も窺えなくなっているかもしれないな……」
「善処しましょう。わたくしはどこまで行っても、本物にはなれませんから」
露出が増えるような口実を作ってはいけない。
「ただ、勝手をしたせいで、わたくしの顔を聖女ユリアだと認識してしまった方がすでにいます」
「それは構わない。人数はできる限り抑えるつもりだが、最後まで万人に顔を見せないようにするのは難しかっただろう。頑なに拒めば怪しさが増す」
そして子どもが成長しましたというならともかく、アネリナの年齢ともなれば、これ以上大きく容姿が変わることも早々ない。
元々、ユリアが聖女である間は、アネリナがずっと身代わりを務める必要があるのだ。
「安心しました。ですが、早く本物の聖女に代替わりできるとよいですね」
「……それは、星に聞いてくれ……」
気まずそうにアネリナから視線を逸らし、落とした声量でそう言った。
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