『冬』

第9話 『またね』


 ある日の夕方。


 ルルルルルルルルルルルルル


「はい」

「夕だ!今すぐ病院に来てくれ!凛の様態が悪化した!」

「すぐ行きます!」





 夕さんは病室の前にいた。


「夕さん!凛は!」

「中へ!」


 病室の中に入ると凛のそばに看護師さんがいた。


「院長!もう持ちません!」

「そうか、、、優くん、そばに行ってあげて」

「はい」


 夕さんにうながされるまま、凛の隣に行って手を握る。


「凛、、、

「優、、、来てくれてありがとう」

「あぁ」


 凛はいつもに増して元気がなかった。


「優、今までありがとね。いろんな所に行って、みんなと話して、最後にたくさんの思い出ができて、、、とっても楽しかった」

「ううん。僕も凛がいたから楽しかったよ」

「ふふっ、ありがと。本当は来年も優と桜並木の下を歩きたかったんだけどな。こうやって手を繋いで」


 凛の手から段々と力がなくなっていく。


「何泣きそうになってるのよ」

「だって、凛が、、、凛が!」

「大丈夫。とっておきのおまじないがあるから」


 おまじない?


「またねって言えば、、、来世で会えるかもでしょ?」

「そうかも、、、しれないね。会えるかも、、、しれないね」


 もう凛の手には力があまりない。


「うん。それじゃあ最後に、、、お父さん、、、今までありがとう。お願いをたくさん聞いてくれた事も、、、優をここに連れて来てくれたことも」

「あぁ」

「優も一緒に笑って、、、元気をくれて、、、思い出をくれて、、、ありがとう」

「うん、、、」


 もっとはっきり見ていたいのに、凛の姿がぼやけてくる。


「もう時間、、、ない、みたい、、、また、、ね?、、、」

「あぁ、またな、、、」

「うん、またね、、、」


 そう言って凛は静かに目を閉じた。






 この日、姫乃凛と言う少女は遠い世界へと旅に出た。






















    15年後



「それはA欄の3番に刺しといて」


 僕、三宅優はある製薬会社の開発部に就職していた。


「すげぇよな。優先輩」

「あぁ、ついこの間難病の治療薬を開発してノーベル賞とったばかりだろ?」

「俺ならまだ感慨に浸ってるぜ」


 そう、ついに凛がかかっていた病気の治療薬の開発に成功したのだ。


 龍と一緒に。


「おら、お前ら」

「龍先輩!」

「お前らは新入りだからあいつの昔話聞いたことないんだっけか?」

「はい、昔話ですか?」

「おう。あいつがなぜあそこまで頑張れるのかだな」

「聞きたいです!」

「ふっふっふ、ならば話してやろう。そうだな、タイトルをつけるならこうだな!」






















   『またねと言う名のおまじない』



           おわり

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『またね』と言う名のおまじない 星光かける @kakeru_0512

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