第6話 とりあえず自分の力を確認してみた
王都ムーンガルド。ルナブール王国の中心都市。
王都と冠するだけはあって、人が住んでいる中では最大規模の街らしい。荷馬車で運ばれている時にスコットが教えてくれた。
まさに西洋の巨大な城塞都市って感じだ。なんかの旅行雑誌で見た事のある風景が、今俺の目の前に広がっている。ちょっぴり感動してしまった。海外旅行とかした事なかったから、なんかちょっとテンションが上がる。
ただまぁ、あれだ。うん。暗い。暗すぎるよ。雰囲気も人の表情も。葬式かってくらい暗い。
そりゃそうだよね。魔王軍に侵略されているうえに、近くには出城まで建てられてんだもん。近くっていうか隣? 立派なお城の横に立派なお城があるんですが、それは。ここ王都でしょ。この世界の連中、魔族に舐められすぎだろ。
そんな絶望的な状態でもこの街の人達は懸命に生きていた。大通りには店が立ち並び、普通に買い物したり、食堂や酒場もしっかり営業している。……まぁ、全員死んだ魚のような目をしてるけどね。ちなみに、最も死んでるのは俺の目だ。
ギルドへ報告に行くって事でスコット達とは街の入り口で別れた。だから、今俺は一人で見知らぬ世界の見知らぬ街に立っている。これってかなり堪えるのな。
「……とりあえず、教会にでも行ってみるか」
街中でぼけーっと佇んでても何も始まらん。この世界の先輩であるスコット君のアドバイスに従うことにしよう。自分がどんなタレントを持っているのかは知ってるけど、念のためってやつだ。なんなら'
ヨーロッパの観光地のような風景をきょろきょろと見ながら、スコットに教えてもらった道を歩いていたら、ある事に気が付いた。
「洞察力がかなり上がってる……タレントのおかげか?」
街の人を観察しながらぼそりと呟いた。そうなんだよ。凄いんだよ、俺の洞察力が。いや、自分で何言ってんだって思うだろうけど本当なんだ。
例えば、今すれ違った貴族っぽいおじさん。右胸の懐に金目の物を持ってるぞ。……ほら、財布が出てきた。な? 体の動きとか視線とか仕草で何となくわかるんだよね。こんな能力、前の世界の俺にはなかったから、間違いなく'
こりゃ、かなり当たりのタレントを選んだかもしれない。確かこのタレントは成長するやつだから、これからもっとすごい事になるんだろ? ワクテカが止まらないぞ、これ! 異世界転移あるある、チート主人公の誕生! 取説を必死に熟読して選んだタレントなだけはあるってもんだぜ!
能力の具合を確認しつつ歩くこと三十分。巨大な十字架が屋根に乗っかってる建物に着いた。結構町外れにあるのな。まぁ、そんなもんか。ド〇クエでもセーブするための教会は街の端っこにあるし。そんでもって大抵カジノは街の中心にあるから距離が遠くてセーブ&ロードがかったるい。カジノの中に教会作れ。
「ごめんくださーい……」
荘厳なデザインの両扉を押して挨拶をしながら恐る恐る中へと入る。随分と薄暗いな。教会ってこんなもんなのか? 行ったことなんて殆どないからわからん。ってか、誰もいないんですけど。
「……迷える仔羊よ。この教会に何用ですかな?」
おっかなびっくり歩いていたら突然声をかけられた。大声を出さなかった自分を褒めてやりたい。爆音を上げる心臓を何とか抑えつつ、声のした方へと顔を向けると、神父が立っていた。……いや、神父だよね?
「えーっと……この教会の神父様ですか?」
「えぇ。そうですよ」
あぁ、やっぱり神父だ。そうだよね、それっぽい服着てるしね。本人がそうだって言ってるなら安心だ。……でも、ちょっと気になることが。
「その右手に持っているのはウイスキーの酒瓶ですか?」
「いいえ、これは魔王の侵略によって荒廃してしまったこの国、この世界から我が身を忘却の彼方へ誘ってくれる神の雫です」
「その左手に持っているのはイカ焼きですか?」
「いいえ、これは神の雫の効果を極限まで高めてくれるマジックアイテムです」
いやおかしいよね。右手に酒、左手につまみとか飲兵衛の標準装備だからね。迷える仔羊お前だよ。
つーか、この世界から我が身を忘却の彼方へ誘ってくれるって何? かっこよさげな感じで言ってるけど、魔王の恐怖から逃げたくて酒で記憶飛ばそうとしてるだけだろうが。確かにイカとの相性は抜群だよなぁおい。
「……すいません、ちょっと色々あって記憶なくしちゃって。それで、自分のタレントがなんなのか知りたいんすけど」
「そうでしたか。もにゅもにゅ。記憶を無くされたとは羨まし……げふんげふん。それは災難でしたね。もにゅもにゅ」
そうだよね。酒に溺れて嫌なこと全部忘れたいのはあんたの方だもんね。とりあえず、イカ食べるのやめようか?
「では、神託を授かる儀式を行います。もにゅもにゅ。こちらへ」
「はぁ……?」
そう言って祭壇まで移動した神父の前に戸惑いながらも立つ。いや、前に立っていいのか? 神聖なる教会でイカ食ってる男だぞ?
「それでは、儀式を始めます」
……まぁ、早いとこ神託とやらを聞いて帰るのがベストか。変に駄々こねて拘束されるのも嫌だ。とっとと自分のタレントを確認してここからおさらばするとしよう。
「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。一杯どうですか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうですか。じゃあ、あなたの代わりに私が一杯いただくとします」
「なんで?」
一杯どころかグビグビウイスキーを飲む神父。やっぱ帰ろうかな?
「この儀式は、ヒック! そんなに難しいものでは、ヒック! ありましぇん、ヒック!」
「……さっさと終わらせてもらっていいっすか?」
「神の御言葉を、ヒック! 頂戴するには、もにゅもにゅ。俗世から、グビグビ。解脱する必要があります」
「俗世に肩までどっぷり浸かってんじゃねぇか」
酒飲んでイカ食ってるやつに神託を下す神なんかいるわけねぇだろ。あの女神なら喜んで一緒に酒盛りしそうだな、クソが。
「これから、あなたの体に流れる力の奔流を読み解く作業に移ります」
「そうですか。早いとこやってください。俺は何をすればいいんですか?」
「あなたがすることは一つだけ、ただもにゅればいいのです」
「もにゅる!?」
もにゅるってなに!? イカ食えってこと!? ってか、それ動詞だったの!?
「神よ。我が問いにお答えください」
俺の言葉を無視してイカ神父は俺の頭に手を乗せて何やらぶつぶつと言い始めた。こうなったらとりあえずもにゅるしかねぇ。え? もにゅるってなに?
「あー……この世界の理を……なんだっけ……司る? 神のお力により……やべ、アルコール足んね。グビグビ。この者が持つ……えーっと……あれを教えていただきとうございそうろう」
「え、適当?」
「集中してください! 真剣にもにゅらないと死にますよ!?」
めっちゃ怒られた。いや、お前が集中しろよ。ってか、もにゅらないと命持ってかれるの? やばくない? いや、もにゅるってなに?
「むむっ!? き、来てます! 来てますよ!」
俺が必死に口をもにゅもにゅさせていると、頭の上に乗ったイカ神父の手が震え出す。お、なんかそれっぽい。口ぶりはインチキ超能力者そのものだけど。
「来る……もう、来る……!!」
「俺のタレントわかりました?」
「…………」
俺の問いには答えず、イカ神父は目を瞑り、真摯に神託を授かろうとしていた。そして、ゆっくりと俺の頭から手を離すと、静かに祭壇の下へ手を伸ばし、茶色い袋を取り出す。
「……オロロロロロロ」
「いや、来たのはお前の吐き気かーい!!」
ウイスキーをストレートでがぶ飲みすりゃそうなるわ! 大学生になりたてで羽目を外す新入生みたいな飲み方してんじゃねぇ!
「……失礼しました。現界と神界の狭間に迷い込み、原因不明の吐き気に襲われてしまいました」
「アルコールだよ」
こんなにも原因がはっきりしてることはない。
「ですが、あなたのタレントは無事に判明致しましたよ」
「そうですか」
イカ神父が口元を手の甲で拭いながら不敵な笑みを浮かべる。いやそれ敵の攻撃受けて吐血した主人公がやるやつだから。酒に酔って吐いたおっさんがやっても滑稽なだけだよ。
「しかも、驚くべく事にあなたのタレントはユニークです! つまり、他の人とは違うという事です!!」
そういや、珍しいタレントはユニークって呼ばれるって取説に書いてあったなぁ。なんかうまいリアクション取れなくてごめんね。自分のタレント知ってんだよね、俺。
「それでは発表します。あなたのタレントはスリ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
いやためなげぇな、おい。みのさんかよ。こちとら最速でファイナルアンサーしてるっての。さっさと'
「……長年神官として仕えていますが、聞いたこともないタレントですね。能力も全くの未知数です」
「え? 今タレント言った? なんか中途半端だった気がするんだけど?」
「ちゃんと言いましたよ。あなたのタレントは'スリ'です」
「へ?」
「'スリ'です」
目が点になってる俺に真顔で答えるイカ神父。……あっ、そういえばここに来る前に書いたES、途中で女神に取り上げられたんだったー。確か、希望するタレント名が書ききれなかったんだよなー。そっかそっか。'
あの女神、まじでぶっ殺す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます