第24話 衝突

餓鬼は橋の真ん中まで来ていて、その近くに着地した。

『本当にあのお嬢ちゃんが狙いらしいな。初から俺らには興味なしってことだったのか』

『とにかく餓鬼を滅しないと話にならない』

『そうだな。まずはアイツの動きを鈍くさせるのが先決みたいだな』

『そうだね』

餓鬼に向き合い、息を吸いこんだ。

肺に空気をいれ、横隔膜が弛緩しそのまま空気を吐き出した。

それからもう一度、深呼吸した。

そして一気に吐き出すように目の前の餓鬼に向かい、威嚇する獣のように咆え空気を吐き出す。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

あたりが震え、ビリビリと皮膚に振動が伝わる。

目の前に立つ餓鬼はニヤニヤしていた。

気持ち悪いほど嬉しそうに。

餓鬼は表情を変えずにそのまま、こちらにゆっくり向かってきた。

僕は一気に駆け出し、餓鬼に突っ込んだ。

 餓鬼は身じろぎ一つせず、そのままの状態で立っていた。

ぶつかる寸前で止まり、右手を振り上げ、そのまま餓鬼に向かい振り下ろす。

しかし、餓鬼は状態を低くし、かわす。

そのままの状態から僕に向かいタックルするように攻撃をしかけてきた。

けれどそれはこちらも承知の上。

僕は身をよじるようにして餓鬼の攻撃をかわす。

攻撃をかわしその回転を利用し、そのまま相手の後頭部に肘を入れる。

餓鬼は体勢を崩し、前のめりになる。

僕は攻撃の手を休めず、追撃する。

手のひらで餓鬼の頭を掴み、地面に叩きつける。

鈍い音が聞こえたが、気にかけずそのまま、殴り続けた。

餓鬼の頭はボールのように軽く跳ね、何度も地面に叩きつけられる。

そこで餓鬼の動きが止まった。

『やったか?』

天野がポツリと言った。

僕は殴るのをやめ、状態を見た。

しかし、次の瞬間、餓鬼が動き、僕の足を掴む。

『しまった!』

そう認識するよりも早く餓鬼は僕の足を掴んだまま起き上がり、脚をつかまれると気がついたときには視界が反転し、体の体勢が崩れていた。

餓鬼はハンマー投げの選手のように体を回し、僕を振り回し、そのまま上へと投げ飛ばす。

橋のアーチの部分に向かって体ごと飛んでいく。

ぶつかる寸前に体の状態を戻し、脚でアーチの部分をおもいっきり蹴る。

前のめりになりながら餓鬼のいるほうへと隕石さながらのスピードで突っ込んでいく。

ものすごい速さでお互いに激突する。

ドスンという重い音がし、次の瞬間には二人とも地面を転がっていた。

すぐさま、餓鬼から離れ、体を起こす。

餓鬼も同様に状態を戻し、僕に向き直る。

「肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、」

呪詛を吐くように餓鬼は肉とだけつぶやいていた。

『どんだけ腹が減ってるんだよ』

天野はあきれるように言った。

僕は間髪いれずに餓鬼の腹部にめがけ殴りかかる。

軽々と餓鬼はかわし、僕の右頬に向かい、こぶしを打ち込んでくる。

右手でそれを払い、左手で餓鬼の腕を爪で切り裂いた。

浅く、少し傷ができるくらいだった。

餓鬼は小さく、うめくとそのまま僕の腕を掴み、噛み付いた。

腕に鋭い痛みと圧迫感が走る。

餓鬼の牙は深く刺さり、血が流れる。

「ぐあぁ」小さく声が漏れた。

ひるむことなく餓鬼へと攻撃をしかける。

それでも餓鬼はかわし、何度も噛み付き引きちぎろうとしていたがかわす。

何度もそれが続き、三十秒の間で、すでに腕と足は血だらけになっていた。

殴り合いの喧嘩のようにバチバチとはじくような音がしたのは耳に残っている。

途中で餓鬼はひるんだのか、攻撃の手が鈍くなった。

そこを狙い、餓鬼の腹部と頚元に爪を立てた。

爪が肉を捉え、引っ掻く感触が手を伝わる。

餓鬼の腹部はぱっくりと割れ、その間から腸らしきものがロープのようにダラダラと出て、頚元からは血が流れていた。

明らかな致命傷のはずにも関わらず餓鬼は立っていた。

僕の予想に反し、餓鬼は僕に反撃をしかけてきた。

僕の頚元に噛み付いてきた。

すぐに避けようとしたが反応が遅れ、避けることができなかった。

肩に痛みが走り、動脈は外れているだろうが腕を噛まれたときよりも痛みが鋭かった。

傷を気にすることなく攻撃を仕掛ける。

『相棒、足を狙え。それで完全に動けなくなれば、俺が喰らえる』

『了解』

僕は天野の指示どうり餓鬼の足を狙い、攻撃を仕掛ける。

下腿部の外側を爪で切り裂く。

緩慢な動きだった餓鬼の動きは完全に止まり、その場に倒れた。

餓鬼との戦闘で回りに注意が向かなかったが、橋の柵越しにきていた。

川の方へと目をやると街頭のかすかな明かりに照らされ、暗闇の中でこちらを見ている宮前の姿を捉えた。

地面に突っ伏している餓鬼に目をやる。

餓鬼は呼吸が乱れ、ヒュー、ヒューとか細い息をするのが聞こえ、周りには餓鬼の血が水溜りをつくっていた。

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