第10話 現象

彼女は大きく眼を見開き、驚いたような顔をする。

「あっ……、あぁ、何で……? そんな……」

「お嬢さん、まるで幽霊でも見たような顔をしているけれど、大丈夫かな?」

銀次は笑ったまま彼女に問いかけた。

「なんで……。そんな、あのときだって、私……」

宮前は最初に見せた負けん気のつよい感じの表情ではなく、何かに恐怖している表情。

どうやら僕の隣にいる彼、天野が見えたらしい。

彼女に天野の姿はどう映っているのか、僕は見えない。

天邪鬼は人によって見方がことなる。

だから昔にみたホラー映画のキャラクターだったり、亡くなった大切な人の姿だったりと見るものにとって恐怖や不安感などのマイナス要素に見えることが多い。

天邪鬼はそれを利用して人を騙し、魂、その肉体を喰らう。

そしてその者に成りすまし、また人を騙す。その繰り返し。

知り合いからの受け売りの知識だけどね。

「お嬢さん、キミが見ているのは一体何かな?」

「そんな……、こんなの嘘……! だってあの人はもうこの世にはいない!」

宮前は体を震わせ、両手で自分を抱き大声で叫んだ。

「へぇ、何か見えているのかい。あいにく僕には何も見えないけれどね」

やることの趣味が悪いなと思っていたけど、そこは突っ込まないようにした。

銀次は宮前に僕の言っていることが本当だと信じさせるため、その真実を見せるために鏡を利用した。

「私、あのとき何もできなくて……! 助けようとしたでも…… でも……」

宮前は鏡から眼を何度も離そうとする。しかし、彼女は何かに魅入られたように鏡を見続けた。僕はこれは止めないとまずいと思った。

「銀次、止めろ」

「無茶言うなよ。僕じゃなく、キミがとめればいいだろ」

銀次は何か、企んだように笑った。僕には少し感に触ったがあえて考えないようにし、天野に向き合う。

彼は僕の姿で身や眼を見ていたのだが、彼女を見ている姿は僕自身だからいやらしいことを考えているときの顔はこんな感じなのだと考えたら少し悲しくなった。

「天野、もうやめろ。もう十分だ」

僕は彼に言い放った。

「クククク。何だよ、面白いところなのに」

「これ以上やったら。暴れかねない」

「そうかよ。なら止めるよ」

天野は不服そうにいうと、宮前のほうから視線を離した。

宮前は自分を抱くようにして震えていた。

「何で? そんなはずは……」

「宮前! 大丈夫か?」

「私は……。私は……」

宮前は明らかに混乱していた。

「お嬢さん。これで少しは信じてもらえたかな?」

銀次は宮前に声をかける。彼はいやらしく笑っていた。

「こ、こんなこと、ありえるはずが無い! 何かトリックがあるんでしょう!?」

「これだけのことをしても信じてないか。まぁ、やっくんの肩を持とうとしてやったことだから、お嬢さんがやっくんを信じようが、信じまいが僕には関係のないことだからなぁ」

「銀次、オマエさらっと酷いこと言わなかったか?」

「だって彼女の信頼を得ても僕にはなんにも得がないよ」

お金にならないしねと銀次は言った。

確かにそうだと思ったが僕は結構、酷い扱いじゃないか?

「このままだと先に進まないからこの話は終わりにするけど」

銀次はまだ不安そうに表情を曇らせている宮前に顔を向ける。

「お嬢さん、これだけは憶えておいてくれ。僕ら詐欺師は現実を嘘にして、嘘を現実にするんだ」

銀次はそういうと眼鏡をはずし、眼をこすった。

宮前はただ黙り、銀次を見ているだけだった。

「話がそれたけど、で相談内容は一体、どんなことかな? 一応、話を聞いて何かアイデアを出すよ。あぁ、報酬のことに関してならいらないよ。話を聞くのは無料だからね」

そう言って眼鏡をかけ直し、こちらを見て笑った。

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