第7話 訪問

――――「で、これから何処に行こうって言うの?」

「うーん、またこういうこと言うと現実味のない話になっちゃうからあんまり深く説明しないけど僕の知り合いのところにいく」

「知り合い? 何で?」

「キミに僕の言ったことを信じて欲しいから、それにあの男のことが何かわかるかもしれないからね」

僕と宮前は市内でも一二と言われる商店街の中を歩いていた。

夕方時だからか、人で賑わい、ぶつかりそうになる。

しかし、ここを抜けなければ目的の場所にはたどりつけない。

幸いなことにあの男は僕らを追ってくる様子もない。もし宮前此方が狙いなら彼女の後をつけてくるはずだが、この人ごみではなかなか見分けがつかないだろう。

僕と宮前は並んで歩く。

「ふーん、そんなこと言って変なとこに連れ込んでエッチなことをしようとかするんじゃないでしょうね」

「どんだけ信用してないんだよ。確かに関わるのは初めてかも知れないが僕はそんなに信用ないのか」

「アンタと関わるのがこれがはじめてだからって言うのもあるし、今まで問題を解決してきていろいろと嘘をつく人間を見てきたからあんまりすぐに信じるなんてことはできないのよ」

確かに探偵のマネごとかもしれないが、やってることはそれに近いことだ。まして一筋縄ではいかない奴と関わってきたのだろう。確かに普通の人でも疑いを持つが少しは疑い深くはなる。人とは少し変わった見方ができなければダメだもんな。

「確かにね。でも僕がそんなことをするような人間に見えるかい?」

僕はおどけながら言った。

宮前は一回、まじめな顔で僕を見てふと笑った。

「見えないわ」

「だろう」

僕と宮前は二人して笑った。

「けどアンタとこうして話すのは初めてだけど、アンタはこんなに喋る奴だとは思わなかった」「そうかい?」

「だって教室でのアンタはあまり人と話している姿を見ないもの。なんだかずっと一人でいるって感じ。それに私は大体、クラスメイトの情報、まぁ、噂だったりするけど必ず、把握しているの」

「どんな評価だ、おい」

 「このお嬢ちゃん、なかなか曲者だな」

天野は笑いながら言ったが聞こえていないフリをした。

「でもアンタの話は一度も聞いたことがないし、なんだか謎めいているって感じだったわ」

「ふーん、まぁ、それだけ僕はあまり目立たない奴だったてことかな?」

「どうかしらね、実は誰かに知られないように行動してるとか、かしらね」

「あははは、こりゃあいいや。傑作だ!」

天野は遊び道具を見つけたように笑った。

僕はちょっと内心、ヒヤヒヤした。宮前は案外、怖い奴なのかもしれない。

いつの間にか商店街のアーケードを抜け、近代的な街の風景から、木造の住宅が立ち並ぶ下町の風景に変わっていた。

約数分ほど歩くと木造の住宅地の中に一軒だけ、コンクリートでできた建物が見える。

「やっと着いた」

「ここは……」

僕と宮前はその建物の二階へと続く階段の前で立ち止まった。

「ここが僕の知り合いのいる建物だ」

宮前は建物を一望し、僕を見る。

「…………」

「な、なんだよ」

宮前はじっと僕を見つめる。その眼はまだ疑っているのか、剣呑な目つきだった。

そりゃぁ、簡単に信じろとは言わないが露骨にそういう眼をされるとさすがに困る。

「わかってるよ。でも変なことはしないし、君には指一本もふれない。これでいい?」

僕は手を上げ、おどけた仕草をとる。

彼女はふぅと一息つき、階段を昇り始めた。

「あのお嬢ちゃんはオマエのことを信用してないみたいだな」

「まぁ、簡単にはいかないよ」

「そうか、もし上手くいかないようだったら俺を呼べ」

「天野、キミを呼ぶことはできないよ」

「何でだ? 俺は正直者で誠心誠意をもった奴だぜ」

天野はキシシシと笑う。

「嘘をつくのが得意な君がそれを言ったら、僕の存在は一体、なんなんだい?」

「さぁな」

「まぁ、彼女は天野が見えないわけだし、それはそれで好都合なんだよ」

「そうか?」

「だって彼女にキミを知られたら僕の信用はなくなる。それに必要以上に疑いをかけられたら、意味がないしね」

「ほう。まぁ、オマエがいうのならそれでいいんじゃないのか」

「そうかい」

「なにやってるの? 早くいきましょ!」

階段の上のほうから宮前が僕を呼ぶ。

「あぁ、ゴメン。今いくよ」

僕は宮前に返事をし、階段を駆け上がった。

階段を上がり小さな踊り場にたどり着く。

そこには黒くて大きな扉がある。

それは厳つく、見たものに不安を感じさせるような扉。

ここに入れば不吉なことが待っていますといわんばかりの感じだ。

「この扉の向こうに知り合いがいるわけね」

宮前は強敵に挑む挑戦者のような顔をし、生唾を飲み込んだ。

「そんなに力まなくても大丈夫だよ。彼はちょっと厄介だけどな」

「へぇ…」

宮前は興味なさそうに返事をする。

「舘鳴さんっていうの?」

「ん……? あぁ、名前か」

僕はふと表札を見る。

黒い扉の隣に『舘鳴隼人たちなりはやと』と書かれていた。

思わず笑ってしまった。

「何がおかしいの?」

宮前は不思議な顔をして僕に尋ねる。

「いや、なんでもない」

「変なの……」

「でもいいのか、コイツに奴を紹介して?」

天野が僕の隣で不思議な顔をして、話しかけてきた。

「大丈夫だと思うよ。あいつなら、彼女に悪さをしないだろうから」

「たいした自信だな」

「自信はないよ」

宮前は、インターホンを押す。

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