第6話 手を取り合って

「で、僕はキミを追いかけてきたんだ。これで全部。納得いった?」

宮前は何、コイツという目で僕を見る。

「な、何だよ?」

「その話、ぜんぜん信じられないんだけど」

宮前は腕を組み、憮然とした態度で言った。

「いや、そう言われても困るんだけど…。僕は本当のことを話たし」

ただ天野のことは話していない。彼のことは多分、彼女には見えないからだし、話す義務はないからだ。

「困るんだけどって言ってもこっちが困るのよ。聞いてたこっちからすると真実味のない話だし、信憑性がないし、そんな嘘、つかれて不毛なだけよ。さぁ、嘘はいいから本当のことを話なさい」

「おい、このお嬢ちゃん、ぜんぜんオマエのこと信用してないぞ」

「わかってるよ。このままだと僕の苦労も水の泡だからね」

「アンタ、一体何を言ってんの?」

宮前は睨みつけるように目を細める。

「い、いや、何でもないよ」

疑いが晴れていないため、宮前は怪訝な顔をする。

「でも僕が言ったことをどうしたら信じてもらえるか、教えてくれ」

「そうね……。証拠がないし、それにアンタとさっきの男との関係性が見えない。これは……」

宮前は手を顎に手を当て考える仕草をしていた。

僕はこのとき何かを期待していたのかもしれない。

何を期待していたかって?

そんな変なことじゃないし、いやらしいことも考えていなかった。

僕が期待していたのは彼女の考え方、思考。

確かになにか変なことをしているのは聞いていたし、すこし位変わったところがあっても大丈夫だろう、そう思っていたんだ。

「調べるしかないわね」

「へ……?」

「鈍いわね、アンタ。だからこの件に関して調べるのよ!」

「何を?」

「だからあの男のことよ!」

もう僕は自分が考えていたのは間違いだったんだと気がついた。

彼女の頭が探偵の二文字で支配されていたのは明らかだった。

「このお嬢ちゃん、馬鹿だろ」

「だね……」

僕は心底、呆れ果てた。

何でこんな人のために頑張ってしまったのだろうと。

しかし、彼女を追いかけていた男は人間ではなかった。

明らかにあの男は宮前を追いかけていたし、彼女を見たとき嬉しそうだった。

もしこの件が天野と同じ、僕と同じなら放置しておくわけには行かない。

「天野」

「なんだ?」

「この件、なんだかいろいろとありそうだけど、どう思う?」

「さぁな、俺もお前と同じ考えだよ」

「そうか」

「何か、言った?」

「べ、別に何にも言ってないよ」

宮前は顔を近づけ僕をジッと睨む。

「な、なんだよ?」

「アンタ、さっきからなんかブツブツ一人で言ってるけれど誰かと話してるの?」

彼女は僕の顔を掴み、首を横にグイッと曲げる。

「いだだだだだだだだだだだ!」

首を無理に曲げ、彼女は僕の耳を見ているらしい。

「ブルートゥスタイプのマイクはつけてはいないみたいね」

「痛いよ、離してくれ!」

僕は抵抗し、彼女から離れる。

「誰かと喋ってるわけじゃないのね。アンタ本当に頭大丈夫?」

「独り言が多いだけだよ! 乱暴な奴だね、キミは」

僕は首筋をさすりながら言った。

「うるさいわね。アンタは私の捜査に協力するの、しないの?」

捜査って…、本当にこの人は頭が大丈夫なんだろうか?

けどここで引き下がっては彼女を危険な目に合わせてしまうだろうし、あの男の正体も気になるし。

「す、するよ」

「そうわかってるじゃない」

「ただ……」

「何よ?」

「捜査に協力をするけど、条件があるんだ」

「条件?」

「これからは僕の言うことを信じて欲しい」

「何、無理なこと言ってんの。まだ私とアンタは出会ったばかり出し、アンタのこと何一つとしてしらないもの」

「まぁ、確かに」

「それにアンタは私を心配して追いかけてきたわけでしょ。でもアンタがあの男とグルかもしれないでしょ。アンタが本当のことを話しているのかどうか見極めるためには、この件を解決しなければいけないでしょ。それでアンタが本当のことを話しているかどうかがわかるでしょ」

「わかった。じゃあ、僕はキミに信じてもらえるようにがんばるよ」

「そうとわかったらさっさと動かなきゃ。よろしくねって、自己紹介してもクラスメイトだし名前も知ってるか」

「確かにね。こちらこそよろしく」

僕は本当に勘違いしていたのかもしれない。

そう思いながら僕は彼女が差し出した右手に自分の右手を差し出した。

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