3-4 新たな魔法を造るぞ! 前編

 さて、おはよう諸君。

 恋人の腕の中で目覚め、なかなかに清々しい朝である。

 顔を洗って朝食も食べたらダンジョンに突撃だ!

 今日は昨日見えてきた課題、自分用の防御魔法と対象をぐちゃぐちゃにしない攻撃魔法のどちらかでも使えるようにしたい。

 

 ということで、第一ダンジョンのゴブリンさんとウルフさんのお世話になります。

 

 ――いやー、悪いねぇ。毎度毎度。

 

 何かヒントになるものは無いかなーと、アランやネジャロが戦っている姿を観察する。

 

 ――ネジャロさんはー、武器も使わずぶん殴るわ蹴っ飛ばすわしてるね。あれじゃどうやっても参考にならないな。

 

 彼の戦い方は全部筋肉。己の肉体のみで戦うなどトワから最も遠いスタイル。最早真逆だ。

 ではアランはというと、

 遠距離攻撃してくるやつには風の刃ウィンドカッター。その隙に近づいてくるやつは剣で対応。

 

 器用な戦い方だ。

 ネジャロよりかはまだアランの方が参考になりそうではあるが、剣は却下で風魔法は対応属性外。

 他人の技を見て学ぶというのはなかなかに難しい。

 応用は無理かと考え出した正にその時!

 

 風の刃ウィンドカッターと空間魔法に近しいものを感じた。

 片や空気の刃を飛ばして攻撃する魔法。

 片や見るだけで敵を粉々にする魔法。

 

 どちらも不可視の一撃ではないか!

 

 魔物を素材ごと粉々にしてしまう問題児君リージョンブレイクは、指定した空間に働きかけて、その対象含む空間ごと破壊するというもの。 

 目の前の敵など分かりやすい物体があればそこだけピンポイントで破壊できるが、だいたいあそこら辺、のように曖昧な指定で使おうものならあっちこっちを破壊しまくるとんでもなく危険な子。

 試しにゴブリンが立つを攻撃してみよう。


「そいや!」

「ちょっトワ!?何してんの!?」

「あ、気にしないでくださーい!」

 

 はい、このようにクレーターができてしまうわけですね。

 ダンジョンの壁が頑丈で助かった。そこらの洞窟レベルの脆さだったら今頃生き埋めだ。


 さて、今のおふざけでも分かる通り、空間を面で捉えてしまうからいけないのだ。

 だから風の刃ウィンドカッターのように一本の線をイメージすれば――

 

 目の前のブラックウルフは動かない。

 時間は止めてない。

 それでも動かないので頭を掴んで引っ張ってみると、綺麗に頭だけが外れて持ち上がる

 

「お、やった。風の刃ウィンドカッターもどき出来た」

 

 呆気なく課題のひとつ、[ 対象をぐちゃぐちゃにしない攻撃魔法 ]が完成してしまった。

 一応命名はするが少々面倒臭いので、『空間切断リージョンカッター』に決定。我ながら安易なネーミングだと思う。

 

 さて、肝心の性能だが射程は空間破壊リージョンブレイク同様20メートル弱。

 威力の方は魔物の首だろうが胴だろうが、はたまたそこそこの大きさの岩だろうが問題無く切れる。

 対象の硬さによっては抵抗感があるから切れないものがあるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 何せ、傍から見たら風の刃ウィンドカッターにしか見えない魔法だ。

 

 掌を向けて、ダミーの詠唱を唱えれば、あら不思議。

 衆人環視の中を使おうと、きっと誰も気に留めない。

 威力と射程はおかしいが、そこまで見る人はいないだろう。

 

 これは実際の戦闘でアランとネジャロにも見てもらって太鼓判を押してもらった。

 かくして、トワは使い勝手のいい攻撃魔法を手に入れたのである。

 

 この調子で、防御魔法の方もチャチャッと創っちゃうぞー!と意気込むが、こちらはかなり苦戦していた。

 なぜなら、参考になる魔法がないのだ。

 

 アランに聞いた話によると、防御魔法として使用されているのは、風の防壁ウィンドプロテクションと、土魔法の大地の護りアースプロテクション

 

 前者はお馴染みなので説明は省くが、後者は、土で創った鎧を身に纏うだけのもの。

 はっきり言って地味だし、ただ鎧を着込むのと大差ない。

 結局、既存の防御魔法からアイデアを得られそうにないため、自力で創り出すことになったのだ。

 

 初めは、時間魔法から試してみる。

 相手の攻撃を受けた、つまりトワが触れた瞬間、時間を止めて威力を無くすというものだ。

 

「いつでもどうぞ!でもあんまり痛くしないで!」

「わ、分かった。行くよ!」


 仁王立ちで神経を研ぎ澄ませるトワの元に、アランのビンタが迫る。


 ――……ここだぁー!

 

 しかし失敗。

 バチーンという景気の良い音を鳴らしてトワの頬に手形がついた。


「ご、ごめん大丈夫!?」

「いはいれふ」


 その後も叩かれる場所を変えて何度か試すが、これは無理だということは分かった。

 触れた瞬間に魔法を発動させるなど、そもそも生物の反射神経ではどうやっても出来ない。

 少し考えれば分かる事だった

 

 ならば次策だ。

 盾を紐で結び、それを空間魔法で操るというものだ。

 グレイス王国でのあの悪魔っぽい見た目の変装。それと同じようなことをやってみようという訳だ。

 

 で、結果だが、防御だけなら出来た。

 

 しっぽのようにして空間魔法で操ってしまえば、重さは感じない。

 そのため、盾が壊れない威力までなら防ぐことが出来る。

 ちなみに、ネジャロの本気殴りはダメ。あれは普通に壊れた。

 それでもなかなかの防御性能。意外とアリか!?

 と思いきや、盾が凧揚げの様にふよふよしているのだから人前で使えない。

 これでは意味が無い。

 却下!

 

 結局、その日は防御魔法は完成することなく帰路へと着いた。

 


 翌日、またもや第一ダンジョンだ。

 ゴブリンやウルフが襲いかかってくるが、適当に首を切り飛ばしてゆく。

 そしていつもの人が殆ど通らない場所に到着。

 すぐさま岩の上に座り込んで考える人のポーズ。

 ふざけているように見えるがしっかり考えているぞ!

 

 それから何時間経っただろうか。

 思い立った手段を片っ端から試してみるがどれも上手くいかない。

 もうアイデアも出尽くした気がするぞと、半ば諦め気味になってきた時、別のパーティの接近を感じ取る。

 

「あらめずらし。こんな奥の方まで来る物好きがいるなんて。二人とも、別の場所に移りましょうかー!」

 

 モンスターがそこそこ居て人が殆ど来ない場所は少なく、一度入口付近まで戻ってから別ルートを進むことになった。

 

「おい!そんな遠くからじゃ魔法が届いてねぇよ!」

「だって、怖いんだもん……」

「大丈夫だよ!俺がヘイト取ってるから!」

 

 これは先程の別パの会話。

 少年と少女の二人組のようで、少年は短刀と小盾。

 少女は小さな杖で武装している。

 

「見るからに初心者パーティですねー。女の子がゴブリンから離れすぎですよ」

「そうだね。でも、初めての戦闘ならやっぱり怖いんだろう。

僕も小さい時、村に来たウルフを撃退する時は怖かったから」

「オレは生まれてしばらくしたら棍棒一本でウルフの群れに放り投げられたがな!ガッハッハッ」

 

 本当に虎人族は豪快というかなんというか。

 子供の教育方針にしては過激すぎる気がする。

 そんなことを考えながら、微妙な面持ちで少年少女のいる部屋から離れる。

 

 ――届かない、かー。

 たしかにどんな攻撃でも届かなかったら無敵だよねー。

「お?おおお!?」

 

 頭に電流が走った感覚。

 これは今までの失敗作の時とは違う気がする!

 

「アラン!ネジャロさん!早く行きましょう!」

 

 このアイデアを忘れる前に試したいトワは、アラン共々ネジャロ抱えられて運ばれる。

 ネジャロタクシー爆走中だ。

 

「ありがとう少年少女よ!君たちの犠牲、無駄にはしないぞー!」

 

 いや、別に死んでいないがな。

 

「今の虎人族の人すっげー……二人抱えながらすごいスピードで走っていったぞ。俺もいつかあんな風になりたいな」

「私は、今のユウくんのほうがかっこよくて好きだけど……」

「えっ……」

 

 ラブコメの波動を感じたが、この少年少女がこの後どうなったか、トワの眼中に無かった。

 

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